インフォーマル企業のフォーマル化

サプライチェーンを通じたディーセント・ワーク:日本の任意資金協力事業を通じてネパールで女性の起業家精神を育成

 ネパールのサプライチェーンにおける、女性が率いる在宅形態の零細・小規模企業のフォーマル化に向けた一歩は、企業と労働者の両方の助けになります。

記事・論文 | 2021/08/03
ネパールで在宅形態ビジネスのライガ手工芸社を経営するカルパナ・シレシタさん

 南アジアでは全就業者の8~9割が中小企業で働いています。地球規模で散らばるサプライチェーン(供給網)ではしばしば、非公式(インフォーマル)な企業や在宅就業者、臨時労働者といったインフォーマルな労働者が下請け仕事を請け負っています。

 ILOが日本政府の任意資金協力を受けて展開している「南アジアにおける持続可能なグローバル・サプライチェーン(SGSCs)プロジェクト」の目的の一つは、在宅形態労働者その他のグローバル・サプライチェーンに関与するインフォーマル経済で働く人々及び経済単位のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進することです。プロジェクトの支援を受けて正式に登録されたカルパナ・シレシタさん(42歳)の事業は登録後に売り上げが上昇しています。

 ネパールの首都カトマンズ市で暮らすシレシタさんは編み物や織物その他の手工芸が得意だったため、しばしば友人の毛織物衣服の制作を手伝っていました。その質の高さが口コミで広まり、依頼が増え、このアルバイトから正式な事業化の道が始まりました。「収入は少なかったものの、力が付いたように感じていました。仕事は感謝されていましたし」とシレシタさんは16年前に立ち上げたライガ手工芸の創業当時を振り返ります。ライガ手工芸はわずか4人の女性労働者による在宅就労形態の事業から正式な事業登録を希望する規模にまで成長しました。

 しかし、登録のための政府の手続きや課税関連の要求事項についての知識がほとんどなかったシレシタさんは、手続きを複雑と感じ、他の事業者の経験を聞いて尻込みしていました。一方で事業の成長を望みながら、他方では手続きを障害のように感じていたのです。

 友達に話を聞いたシレシタさんはネパール女性企業家連合会(FWEAN)の研修を受講しました。FWEANはSGSCsプロジェクトと連携して女性が率いる零細・小規模のインフォーマル企業が事業を公式(フォーマル)化し、関連するサービスが利用できるようになるのを支援しています。

 FWEANチームに同行してもらい、シレシタさんは事業登録のために内国歳入局(IRD)、地元区役所、家内工業・小規模産業局(DCSI)といった地元自治体の複数の事務所を訪れました。手続きにはほぼ5日間かかり、費用は5,000ネパール・ルピー(約4,600円)でした。「複数レベルの自治体事務所における登録を、実際、私のような新規起業家に避けたいと感じさせるほどに複雑で、費用がかかると感じました。事業と利潤の継続性が不確かな中で、これほどの努力を傾けるに値するかしらとも。小規模事業には多くの配慮が必要です」とシレシタさんは感想を述べています。

新しい編み方をチームに教えるカルパナ・シレシタさん

 今、シレシタさんの零細手工芸品事業単位は6人の女性労働者を雇い、クリスタルビーズやネックレス、ブレスレット、イヤリングその他の種類の宝飾品を製造しています。「登録後、顧客数が増え、売り上げも上向きです。これは登録事業の信頼性が高いからだと思います。そして、一つの大きな利点は、今は所得税に必要な永久勘定番号(PAN)を所有しており、PANを用いた請求書発行ができるため、卸売業者と直接取引できることです。製品を販売するのに仲介人や仲介業者に頼らなくても良くなったことは、経費の節減となり、利潤を高めました。その上、今は顧客と直接のつながりがあり、受注件数も増えています」とシレシタさんは報告します。

 FWEANのリータ・シムハ会長は、ほとんどの女性起業家がインフォーマルな事業で開始してその後フォーマル化に苦労している点を挙げ、ILOのプロジェクトについて、「そのような小規模経済事業単位で働く在宅就労形態の労働者の安全な環境とディーセント・ワークを促進できるものと確信しています」と評しています。

 SGSCsプロジェクトのバルティ・ビルラ主任技術顧問は、事業のフォーマル化がもたらし得る利益を次のように強調します。「中小・零細企業は成長の推進力であるだけでなく、重要な雇用の受け皿です。課題はここでの就業がディーセントなものであること、すなわち、より良い賃金、所得保障、より良い労働条件、安全と健康、社会的保護、集団的な発言力と力を労働者にもたらすよう確保することです」。

 ILOネパール国別事務所のリチャード・ハワード所長も次のように述べています。「一方で中小企業とつながりのあるインフォーマルな労働者のディーセント・ワークを促進する必要があり、他方でこの中小企業が直面している相当規模の課題に対処する必要があります。持続可能性や競争力、市場アクセス、知的所有権搾取からの保護、政府の補助金付ローンや資金・資源の利用などは、ほとんどの中小企業もまた支援を必要としている分野なのです。グローバル・サプライチェーンをより持続可能なものとするには、こういった中小企業の持続可能性を支えると同時にサプライチェーンの末端に至るまでディーセント・ワークを促進する必要があります」。

 本記事に関するお問い合わせは、SGSCsプロジェクトのバルティ・ビルラ主任技術顧問(E-mail: birla@ilo.org)まで。


 以上はILO南アジア・ディーセント・ワーク技術支援チーム(DWT)兼インド国別事務所による2021年8月3日付のネパール発英文広報記事の抄訳です。