男女平等

新型コロナウイルスによってベトナムに従来から存在していた男女不平等が拡大、新たな格差も発生

記者発表 | 2021/03/04

 女性の労働力率は世界平均が47.2%、アジア太平洋の平均が43.9%であるのに対し、ベトナム女性の労働力率は70%を上回る際立って高い数値を示しています。しかしながら、女性が労働市場で直面している不平等は多様でなかなか解消されず、仕事における責任と家庭責任という二重の負担を不均衡に多くの割合で担っています。

 ILOベトナム国別事務所からこの度発表された新たな調査研究概説文書『Gender and the labour market in Viet Nam: An analysis based on the Labour Force Survey(ベトナムのジェンダーと労働市場:労働力調査に基づく分析・英語)』は、新型コロナウイルスの世界的な大流行が従来からあった不平等を拡大しただけでなく、新たな男女間格差を生んでいる状況を明らかにしています。

 ベトナムの労働力率における男女間格差は世界的な観点から見ると小さいものの、それでもなお過去10年間の平均では男性が9.5ポイント高く、本概説文書はその裏にある可能な理由として、ベトナム社会における家庭責任の不均等な分担を挙げています。2018年の労働力調査で非労働力女性の半分近くがこの選択を行った理由として「個人的理由あるいは家族に関連した理由」を挙げているのに対し、同じ理由を挙げる非労働力男性はわずか18.9%に過ぎません。本書はそこで、ベトナム女性の高い労働力率を機会平等の印と解釈すべきではないと説いています。

 本書の著者チームを率いたILOベトナム国別事務所のバレンチナ・バルクーチ労働経済専門官は、新型コロナウイルスが流行する前は男性も女性も比較的容易に就職できたものの、女性の仕事の質は平均で男性よりも低かったと指摘しています。女性労働者は家族の事業に貢献する寄与的家族従業者を中心に脆弱な就業形態にある人々の多くを占め、教育達成度における男女間格差は次第に解消されてきているにもかかわらず、同等の労働時間でも女性の賃金は男性を下回っています(2019年のデータでは月額賃金で13.7%の格差)。女性はまた、意思決定ができる職位にも少なく、労働力人口の半分近くを占めるにもかかわらず、管理職全体に占める割合は4分の1にも達していません。

 バルクーチ専門官は、女性が家事に費やす時間は男性の2倍に達する事実を挙げ、仕事の質とキャリア開発の点で女性が直面している格差は、女性の担う二重の負担から生じていると指摘しています。女性は週平均20.2時間を掃除や洗濯、料理、家族のための買い物、家族の世話や育児といった家事に費やしているのに対し、男性の家事労働時間はわずか10.7時間に過ぎず、全く家事を行わない男性も全体の5分の1近くに達しています。

 新型コロナウイルスの流行によって合計労働時間は2020年第2四半期に激減した後、下半期を通じて回復してきましたが、女性は最も激しい落ち込みに直面しました。2020年第2四半期に女性の総実週労働時間は2019年第4四半期の88.8%まで減少したのに対し、男性の減少幅は91.2%に留まっています。しかしながら、女性の労働時間は回復も早く、2020年第4四半期の女性の実労働時間は前年同期比0.8%増となったのに対し、男性の場合は0.6%増でした。

 バルクーチ専門官は、2020年下半期に労働時間が通常よりも長かった女性就業者について、「もしかすると第2四半期の所得減を補いたいと思ったせいかもしれない」と指摘し、女性の家事労働時間が不均等に長いままの現状では、そのような労働時間の追加は女性の二重の負担をますます重くした可能性を指摘しています。

 このように新型コロナウイルスがベトナムの労働市場に与えた影響は、従来からあった不平等を拡大しただけでなく、新たな格差も生み出し、コロナ禍以前は違いがなかった男女の失業率に2020年第3四半期から差が生じ始めています。

 ILOベトナム国別事務所のリー・チャンヒー所長は、労働市場における男女不平等の起源をたどると、「社会的規範に支えられて女性が担うことを期待されている伝統的な役割」に行き着くと指摘し、「政策レベルでは、2019年の労働法が例えば、定年における男女間格差や特定職種における女性就労禁止規定の除去などを通じてこのような男女間格差を縮小する機会を開いたものの、ベトナムの前途には、労働市場における行動様式に影響を与えるベトナムの人々自身の考え方の変化というずっと困難な作業が待ち構えているように見えます」と述べています。


 以上はILOベトナム国別事務所によるハノイ発英文記者発表の抄訳です。