ILO統計局ブログ:男女平等
新型コロナウイルスの時代に性別データ・測定を強化する方法
新型コロナウイルスの世界的な大流行は女性に不均衡に大きな悪影響を与えています。これは女性がコロナ禍による打撃が激しい観光業や小売業、非公式部門(インフォーマル・セクター)で多く働いているため、家計に徹底的な打撃を被っていることによります。この影響の程度を理解することが、流れを反転させる第一歩です。しかしながら、コロナ禍はまた、意図的に行動し、効果的な政策対応を形成する私たちの能力を損なうデータ不足の問題を露呈させ、問題を悪化させてもいます。
![]() |
ILO統計局キーラン・ウォルシュ上級統計官 |
新型コロナウイルスの世界的な大流行は女性に不均衡に大きな悪影響を与えています。これは女性がコロナ禍による打撃が激しい観光業や小売業、非公式部門(インフォーマル・セクター)で多く働いているため、家計に徹底的な打撃を被っていることによります。この影響の程度を理解することが、流れを反転させる第一歩です。しかしながら、コロナ禍はまた、意図的に行動し、効果的な政策対応を形成する私たちの能力を損なうデータ不足の問題を露呈させ、問題を悪化させてもいます。
コロナ禍はデータ生成努力に深刻な混乱を招き、データ収集からその後のデータの管理、解析、普及に至るあらゆる面に影響を与えています。この上さらに、とりわけ健康、教育、経済機会に関して従来から存在していた多数のデータ不足の課題を挙げることができます。このデータの不足と収集を阻む障害に対処しない限り、コロナ禍が男女に与えている影響の違いを完全に理解し、これに取り組むことはできません。
信頼のおける適時の性別データの収集と利用は、男女不平等の問題を認識し、これに対処するために決定的に重要であるだけでなく、世界経済の回復にとっても不可欠です。データの収集と利用を増加させることを今公約することによって、将来的なショックに、より良く備える基盤を構築することができるでしょう。各国統計制度の上級管理職や調査管理者から資金拠出機関や多国間機関、調査研究のパートナーに至るまで誰にも担うべき役割があります。
ILOを含む9団体の専門家が共同でまとめた概説資料『Strengthening gender measures and data in the COVID-19 era: An urgent need for change(新型コロナウイルスの時代における性別データ・測定の強化:緊急に求められる変化・英語)』は、コロナ禍の中で露呈または悪化したこの性別データ不足と学んだ教訓を基盤として、性別データの改善に向けて次の五つの分野における強く決然とした行動を呼びかけています。
図:コロナ禍の中で性別データ・測定を強化するための枠組み

- 新型コロナウイルス関連データを性別や年齢、障害、健康状態などの主な特性で分類すること :コロナ禍の健康及び社会・経済に対する影響を効果的に分析するためには、この作業に整合性をもたせる必要がありますが、現時点では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連した患者や死亡者数の性別推計を定期的に報告している国は世界の3分の1程度に留まっています。
- 女性や少女の生活が新型コロナウイルスの影響を不均衡に大きく受けていると推測される分野における性差を意識した比較可能な標準化データの収集 :大幅なデータ不足が解消されないか、悪化した重要な分野の例として、性差に基づく暴力、有償労働、介護や育児といった無償のケア労働、各種サービス利用機会などを挙げることができます。政府の対応方法や説明責任を確保するためのデータ活用方法の追跡・分析もまた、決定的に重要です。これを達成するために、例えば仕事に関する国際統計基準が果たし得る役割について扱った別のブログ記事もあります。
- 性別データの重要な不足を補うものとして非伝統的な性別データの利用を増やすこと :ソーシャルメディアや伝統的なマスコミの利用、インターネットの利用データ、携帯機器によって生成される地理空間データ、民間セクターのデータは、より短い期間について伝統的なデータ源よりも、決定的に重要な洞察を提供するものとなるかもしれません。労働に関する主要な情報源として、上手に設計された家計調査に置き換わるものではなくとも、この種の非伝統的な情報源をコロナ禍に関連した予測のための情報源として活用することができるかもしれません。ILOの発表している新型コロナウイルス関連モニタリング報告シリーズの基盤となっている現在予測法は伝統的な情報源と非伝統的な情報源を一緒に用いて大きな効果を上げている好例です。もちろん、集められた当初の目的が統計以外であるデータの倫理的な統治の確保も決定的に重要でしょう。
- 新型コロナウイルス関連の性別データを幅広く共有し、意思決定の参考資料に用いること :これまでのところ、新型コロナウイルス関連の政策対応はあまり性差を意識していません。例えば、社会的保護及び労働市場関連措置の中で無償ケアを直接対象としているものは8%に過ぎません。政策措置が効果的であるためには、データが示すものを反映する必要がありますが、政策の組立や評価に得られるデータが十分に用いられていないことやデータ利用機会の制約によって世界の進歩は妨げられています。
- 性別データを生成する、調整を図ったデータ基盤構造に資金を投入し、支援すること :現在もコロナ禍以後もデータの基盤構造に対する豊かな投資が決定的に重要です。昨年は資金が十分に投入されておらず重圧を受けたデータ体系に高い負荷がかかりました。コロナ禍以前に性別データの収集・解析に特化した予算が確保されていた国は全体の13%に過ぎず、家計調査制度がしばしば資金不足に陥っていることは必要不可欠なデータ収集を行う諸国の能力に深刻な制約を課しています。新型コロナウイルスが各国に与える影響は国家予算をさらに損ない、財源やデータ不足をさらに悪化させる可能性が高くなっています。データ収集方法の近代化とデータ基盤構造の強化は、今の私たちの役に立つだけでなく、将来的なショックに対してより良く対応できるよう制度を備えるものともなるでしょう。
現下の状況は選択と機会の両方を提示しています。何もない空間で政策対応を設計し、視力を奪われたままで飛行を続けることもできますし、直面している課題の真の姿を示すデータに向けた資金投入とその収集を優先事項として、自身の回復に投資することもできるでしょう。対応力のある頑健なデータ体系、つまり、真の影響力を達成する、対象を定めた賢明な政策を設計するさらなる力を私たちに与える制度の基盤を構築する機会が開かれているのです。ILOには性差に関連したデータの入手可能性における改善を促進してきた長い実績があり、パートナーらと共にこの道を歩み続けられることを期待しています。
* * *
以上は当該概説資料の執筆に携わったILO統計局労働力調査方法論チームのキーラン・ウォルシュ上級統計官による3月8日の国際女性デーを前にした2021年2月23日付の英文投稿記事の抄訳です。ILOの労働統計データベースILOSTATには、データそのものに加え、データ生成に携わる人々向けの資料やイベント案内、ニュースレター、解説資料、ブログ記事なども掲載されています。