船舶から陸上に至る権利

アジア太平洋の漁業・水産加工業で働く移民労働者にディーセント・ワークを

記者発表 | 2021/01/20
「船舶から陸上に至る権利東南アジア計画」とは(英語・55秒)

 欧州連合(EU)の資金協力を得て2016年からタイで実施されていた「船舶から陸上に至る権利プロジェクト」は2020年3月に幕を閉じました。この活動を土台としてこの度開始される新たな事業計画は、東南アジアの漁業及び水産加工業全体を通じて安全かつ正規の労働力移動を促進する取り組みを継続することによってこの産業の移民労働者を幅広く支えることになります。

 EUから1,000万ユーロ(約13億円)の資金拠出を受けてILOが国際移住機関(IOM)、国連開発計画(UNDP)と共同で実施する「船舶から陸上に至る権利東南アジア計画」は、2020~24年の4年間の実施期間中にカンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナムの東南アジア6カ国において漁業・水産加工業の労働者のエンパワーメント、労働者の権利の保護、法的枠組みの強化などを目指します。3国連機関が結集するこの事業計画では、移民労働者の権利を保護し、強制労働や人身取引、違法な人材募集・斡旋行為、情報不足といった問題に対処するそれぞれの機関のこの地域における経験が活用されます。移民の送出国と受入国の双方において、各国政府機関、労使団体、人材募集・斡旋機関、船舶所有者及びその団体、市民団体、地域社会を基盤とする組織などと協働し、漁業及び水産加工業で働く現役の移民労働者、働くことを考えている潜在的移民労働者、帰国した移民労働者やその家族、地域共同体を対象にした活動が展開されます。

 東南アジア諸国は世界屈指の魚介類及び水産加工品の生産・輸出国です。漁業及び水産加工業のサプライチェーン(供給網)は捕獲漁業や陸上に拠点を置く一次・二次加工業など複数の要素に頼っていますが、移民労働者は漁船員や加工段階の労働者としてこれらの産業に大いに貢献しています。

 漁業・水産加工業における労働力移動についての規制枠組みは弱いことが多く、移民労働者が非正規・非公式なルートから募集・斡旋されることもしばしばです。状況は近年重要な改善を見せているものの、いまだに契約文書の不在、賃金の未払いや過少払いその他の種類の賃金詐取、労働の強要や非自発的な労働が報告されています。新型コロナウイルスの世界的な大流行も移民労働者とその家族の暮らしや生計手段に深刻な影響を与えています。「船舶から陸上に至る権利東南アジア計画」は、政府その他のパートナーがこういった課題に取り組むのを支援し、この経済的にも社会的にも重要な産業部門で働く全ての移民労働者にしっかりとした保護が確保されることを目指します。

ミ・ズー主任技術顧問ILO船舶から陸上に至る権利東南アジア・プロジェクト主任技術顧問によるプロジェクト紹介(英語・1分46秒)
 ILOの「船舶から陸上に至る権利東南アジア・プロジェクト」の主任技術顧問ミ・ズーです。私が今日立っているのはバンコク郊外の静かな漁港の前です。港は新型コロナウイルスの世界的大流行のために閉鎖されています。タイは実際、ベトナム、インドネシア、フィリピンその他の域内諸国と並ぶ、世界屈指の魚介類及びその加工製品の生産・輸出国の一つです。世界の漁業従事者のうち、1,100万人がこの地域で働いています。他に数百万人が水産加工業に従事しています。漁業における労働はきつく、危険で、労働条件が劣悪であるため、卑しく見られることもあります。
 この産業部門では、人権や労働者としての権利の侵害に弱い場合が多い移民労働者が多数働いています。コロナ禍の中で移民労働者が受けている影響は不均衡に大きく、公衆衛生対応から除外されている人々や差別的な処遇を受けている人々もいます。
 欧州連合の支援を受けて、ILOは政府、民間セクター、労働者その他の利害関係者と協力して、漁業・水産加工業で働く人々の労働条件改善を図っています。タイにおける活動は既に、労働者のためのより良い規制、より良い政策につながり、民間セクターにおける労働慣行の改善、労働監督業務の向上ももたらされています。このプロジェクトを通じて、こういったプラスの展開を他の域内諸国にも広げ、平等な活動の地歩が地域に築かれ、移民労働者を含む全ての労働者が保護されることを期待しています。ご静聴有り難うございました。

 ピルカ・タピオラ駐タイ欧州連合大使は、複数の国が参加する地域的な協力は関連する政府や民間セクター、労働者が受益する平等な地歩の形成を助けることを挙げ、この地域的な介入事業が「持続可能な漁業とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)慣行の政治的なつながり」を維持するものになることへの期待を表明しています。麻田千穂子ILOアジア太平洋総局長も、漁業及び水産加工業の移民労働者の労働条件に関しては改善が進んでいるものの、いまだに多くの課題が残ることを指摘し、この新しい取り組みが「国際的な移住と就労を管理する権利に根ざした革新的で安全な解決策を促進することによって、産業の強化と男女を問わずそこで働く全ての人々のディーセント・ワーク」につながることへの希望を述べています。

 ネネット・モトゥスIOMアジア・太平洋地域事務所長は、自らの労働者としての権利についての意識の増強を通じて変化をもたらす移民の能力、搾取や人身取引が把握された場合に救済を求める能力に特に重点を置くこの事業計画は、「漁業・水産加工業で働く人々が安全なルートを通じて募集・斡旋されるよう確保することによってこれらの人々の正規の労働力移動を促進し続けるであろう」と説明しています。クリストフ・バウエUNDPアジア太平洋局次長は、アジア太平洋では移住が開発に相当に寄与しており、安全かつ秩序だった正規のルートを通じて行われた場合特に、この寄与度がさらに高まる可能性を挙げ、この事業計画の下でのEU、ILO、IOMとのパートナーシップについて、「移住が秘める、変容をもたらす潜在力を解き放ち、東南アジアにおける社会と経済の歩みを支えることを許すもの」と評して、高く評価する姿勢を示しています。


 以上はILOアジア太平洋総局によるバンコク発英文記者発表の抄訳です。