ILO定期刊行物『中南米・カリブの労働概観』

ILO定期刊行物『中南米・カリブの労働概観』最新2020年版:高い失業率、非労働力率、不安定雇用の痕跡を中南米・カリブに残した新型コロナウイルス

記者発表 | 2020/12/17

 2020年12月17日に発表されたILO中南米・カリブ総局の年次刊行物『Panorama laboral 2020: América Latina y el Caribe(中南米・カリブの労働概観2020年版・西語)』は、この地域では今年、新型コロナウイルス危機の前代未聞の影響を受けて約3,000万人が職を失い、2,300万人が機会の欠如から労働市場を去り、2021年に状況はさらに悪化する見通しを示しています。

 報告書の記者発表会においてビニシウス・ピニェイロILO中南米・カリブ総局長は、新型コロナウイルスによって引き起こされた事態を、この定期刊行物が創刊された1994年以降「最大の危機」と呼び、過去10カ月で中南米・カリブの労働市場は少なくとも10年は後退し、危機の終わりも見えないことを挙げ、「私たちは集中治療の状態にある雇用と共に2021年を迎えます」と述べています。

 このようなシナリオに向き合い、域内諸国は現在、「より良い新たな日常の基盤敷設」の課題に直面していますが、これは健康非常事態が徐々に収束し、生産が再活性化する中でより多くのより良い仕事の創出に向けた戦略を採用することを意味します。ピニェイロ総局長は、「このウイルスの世界的大流行が後に残す不平等の拡大を減らし、貧困を削減するのに決定的に重要な雇用を伴った経済成長を達成すること」を今の必須事項に挙げています。

 失業率は2019年の8.1%から2.5ポイント上昇して2020年に10.6%に達したと推定されますが、これは仕事を見つけられない求職者が540万人増えて3,010万人に達したことを意味します。しかし、今回のような突発的な危機の状況においては、失業率は物語のほんの一部でしかなく、今年は機会不足のために職探しを諦めてしまった人の数が前代未聞の規模で増え、2020年第3四半期末で得られるデータによれば、労働力率は5.4ポイント減の57.2%に落ち込んでいます。これは2,300万人あまりが一時的に労働力から抜け出して職や収入を失ったことを意味しますが、景気回復に伴い、こういった人々が労働市場に復帰することが来年の失業指標に新たな圧力を課すと思われます。

 したがって、危機が引き起こした失地の回復には不十分な約3.5%と予想される穏やかな経済成長や、再流行の恐れ及びワクチン接種プロセスの実効性を巡る不安などを含む、コロナ禍の将来を取り巻く不確実性などの要素に鑑みると、2021年の失業率は再び上昇して11.2%に達する可能性があると報告書は予想しています。

 健康危機に至る前の地域の労働力率や職業を支えてきたのは女性の労働市場進出でしたが、コロナ禍によってこれは明らかに後退し、女性の労働力率は相対的に男性(7.4%減)よりも大きく落ち込み、10.4%減になるといったように、2020年の健康危機は女性の雇用指標により大きな影響を与えています。

 若者(15~24歳)に関しても2020年の第1~第3四半期に労働力率と就業率が約5.5ポイント低下して、それぞれ42.7%と33.0%に達しています。失業率は2.7ポイント上がって23.2%という新記録を達成しましたが、これは2020年第3四半期現在、若者の4人に1人が職がない状態であることを意味します。

 第3四半期までの従業上の地位や職種別のデータを見ると、2020年に雇用者は6.8%、自営業者は8.9%減少しています。健康危機の影響は他の集団にも感じられ、使用者は9.8%減、家事労働者は19.4%減となっています。就業者の減少が特に激しかったのはサービス業で、宿泊業は17.6%、商業は12.0%減少しています。例えば建設業は13.6%減、工業は8.9%減といったように危機の影響はこの他の産業にも激しく、減少幅が最も小さかったのは農業で2.7%減となっています。

 ピニェイロ総局長は、将来に向けてコロナ禍から学んだ教訓を考慮に入れることの重要性を強調しました。教訓の一つ目は、健康でなければ生産も消費もないため、健康維持と経済活動維持の間に対立はないことであり、今や労働安全衛生が再活性化のカギを握っていると説いています。二つ目は、政府、使用者、労働者の合意した危機対応戦略を可能にする社会対話の妥当性がかつてないほど高まっているという点です。総局長はまた、「この地域への危機の打撃が他の地域よりも大きかったのは、主として既に存在していた既知の構造的な問題に由来する」と指摘して、「例えば、常に不足している財政的余地、社会的保護の適用におけるギャップ、社会的不平等の大きさ、私たちの社会の大規模産業部門の不安定性に光を当てる非公式(インフォーマル)経済の大きさ」といった、以前から存在していた状況に対処する必要性を強調しました。

 2部構成の本書は、第1部で雇用、失業、労働力、賃金などの労働条件といった地域の労働市場の今年の状況をまとめた上で、第2部では特別テーマとして、非常時に仕事、収入、会社の操業を守るために政府が講じた措置など、新型コロナウイルス危機の様々な影響を分析しています。各国で講じられた措置について、報告書は、「時に援助が遅すぎた、あるいは失われた所得を補填するには不十分」と感じられることがあったとしても重要な努力であったと評価しています。

 報告書はまた、宅配業務を中心とするプラットフォーム労働の急増、テレワークの成長、その規制やデジタル格差の縮小、訓練、公式(フォーマル)な条件下での作業遂行に関して直面している課題も分析しています。新型コロナウイルスの時代に職業訓練、社会的保護、労働監督、中小・零細企業支援が抱えている課題も取り上げています。

 報告書は危機後の雇用回復に貢献する可能性がある政策として、国際経済参入モデルを再考する必要性、環境の持続可能性を伴った技術開発、起業家精神や経済フォーマル化の促進、新たな現実に応える雇用政策の策定などを挙げて検討しています。そして、危機対応の行動を呼びかけるに当たり、「新型コロナウイルスによって引き起こされた現下の危機に直面し、全国的な雇用政策が既にある国はその適応・更新を図り、まだない国はそれを策定するのが重要なこと」と記しています。

 ピニェイロ総局長は、「より良い新たな日常への道は楽でもなく短くもないこと、それが私たちが新型コロナウイルスと共存する2020年に得た遺産」であると強調しています。

 『中南米・カリブの労働概観2020年版』は、南米南部諸国ディーセント・ワーク技術支援チーム(DWT)兼国別事務所のファビオ・ベルトラノウ所長が全体の調整を図り、域内諸国に散らばるILOの専門家チームが執筆しました。


 以上はILOカリブ諸国DWT兼国別事務所によるリマ発英文記者発表の抄訳です。