新型コロナウイルスと運輸部門
路上の「ヒーロー」には助けが必要
道路運送部門は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に深刻な影響を受けており、この産業のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と経済的な懸念に取り組むには、緊急の行動が決定的に重要と、ILOのアレハンドラ・クルス・ロス運輸部門専門官は説いています。
国によってはトラック運転手は基幹労働者あるいは必要不可欠労働者に分類され、他の流通関連労働者と共に新型コロナウイルスに関わる制限の対象から除外されています。
ガイ・ライダーILO事務局長も医療用機器その他の必要物資を配達するトラック運転手の方々の充分な保護の必要性を訴えていますが、道路運送の世界的産業団体として350万の運輸会社を代表する国際道路輸送連盟(IRU)と世界1,900万人の運輸労働者を代表する国際運輸労連(ITF)は2020年4月に政府と国際機関に宛てた共同要請を発表し、保健医療その他の社会的保護措置の利用機会などを含み、コロナ禍の中での運転手の労働条件や財政事情の改善に向けた措置を求めました。IRUはさらに、2020年11月に「政府に向けた新型コロナウイルス感染症に関する行動の呼びかけ」を総会で採択し、主に個人運送業者、独立請負業者、零細・小企業で構成される産業の構造上、とりわけ経済的な課題に弱い道路運送業は崩壊の瀬戸際にあると警鐘を鳴らし、生き残りに必要な措置として、破産防止、この産業部門への科学技術の導入と産業のデジタル化、国境横断手続きにおける調整増大に対する政府の支援の必要性に光を当てています。そして、破産の波を避けるには、救済パッケージや支援措置をそのような現実に合わせるべきと説いています。
IRUのウンベルト・デ・プレット事務局長は次のように語っています。「道路運送業は極めて難しい1年を過ごしており、新型コロナウイルスの世界的大流行による損失は世界全体で1兆ドルを超えると思われます。運転手らは危機の中でも働き続け、必要な場所に人々や貨物を届けてきました。とりわけ国境ではしばしば的外れの制限に直面し、必要不可欠な労働者である彼らがさらされるリスクがさらに高められています。ワクチンの早期接種を含み、他の必須業務に従事する労働者と同じ保護を受けられるべきです」。
ITFも新型コロナウイルスの制限によって生じたあるいは悪化した、トラック運転手が直面している一連のディーセント・ワーク上の課題を挙げています。一部の政府が労働時間や運転時間に関するルールを緩和したため、トラック運転手のシフト勤務時間は長時間化しています。検疫義務や陸上通関施設の閉鎖に関連した長い待機時間や差別が存在し、貨物の積み込み地点や受け取り地点によっては新鮮な水やトイレを利用できないなど、設備が不十分です。ITF道路運輸部会のジェームズ・P・ホッファ会長は、「トラック運転手は商品棚に在庫が補充され、病院に必要物資が供給されるよう維持するヒーロー」と認められていることを挙げて、トラック運転手はコロナ禍の中で、世界中で貨物チェーンの動きを維持する決定的に重要な役割を担っていると説明します。
必要物資や医薬品といった貨物の盗難に関連した暴力、個人用保護具の不足など、職業上のリスクも増しています。貨物料の引き下げ、保険適用における不確実性、独立労働者あるいは非公式(インフォーマル)労働者として社会的保護が不適切なことなどの結果として経済的な窮地に立たされているトラック運転手もいます。スティーブン・コットンITF書記長は次のように語っています。「コロナ禍の間中、世界を動かし続けるためにあまりにも多くの犠牲を払っている運輸労働者は再び、新型コロナウイルスによる制約の無実の被害者となっています。新型コロナウイルスの世界的な大流行はまともな洗面施設へのアクセスが真に地球規模の問題であることを鮮明に露わにしました。洗面施設が得られないことは、あらゆる運輸労働者の人間の尊厳を傷つける侮辱です」。
政府、労使団体、その他荷送り人や荷受人、運送購買業者、仲介業者などの道路運送サプライチェーン関係者は、一致団結してこの危機に効果的に対処する必要があるとクルス・ロス専門官は指摘しています。
ILOが2019年9月に開いた専門家会議で採択された「運輸部門における道路の安全性とディーセント・ワークの促進に関する指針」は、こういった産業の課題の幾つかに取り組む基礎を提供しています。新型コロナウイルス感染症の流行が始まってからまとめられた「新型コロナウイルス感染症と道路運送についての産業部門別概況資料」は、上述のITF/IRU共同要請など、ILO加盟国政労使が講じている支援措置や対応をまとめています。
以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。