国際女性デー

職場における男女平等について今こそ真剣になろう

 2021年の国際女性デー(3月8日)に際して発表した論説文で、ILOのアジア太平洋総局長を務める麻田千穂子事務局長補は職場における男女平等に対する取り組みにおいて無駄にできる時間はないと説いています。今こそ、公約、勇気ある選択、そして私たち皆の協調努力が求められています。

記事・論文 | 2021/03/08
麻田千穂子ILOアジア太平洋総局長

 2021年の国際女性デー(3月8日)に際して発表した以下の英語論説文で、ILOのアジア太平洋総局長を務める麻田千穂子事務局長補は職場における男女平等に対する取り組みにおいて無駄にできる時間はないと説いています。今こそ、公約、勇気ある選択、そして私たち皆の協調努力が求められています。

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 国際労働機関(ILO)が母性保護に焦点を当てて職場における女性に関する基準を初めて制定してから既に100年以上が経過しました。

 この一世紀で大きな変化があり、私たちは誰もが、独り立ちに成功し、キャリアを切り開き、ビジネスでうまくいっており、リーダーの地位に就いている女性の存在を複数挙げることができます。

 3月8日の国際女性デーは、この成功を祝い、働くことを希望する全ての女性に前途有望な明るい未来を期待する完璧な時であるべきです。

 残念ながら、あまりにも多くの女性にとって現実は異なっています。

 非難すべき一因は新型コロナウイルス(COVID-19)にあり、以前から存在していた不平等を広げ、女性の就労にしばしば不均衡に大きな影響を与えています。より不安定な非公式部門(インフォーマル・セクター)や自分の技能とも希望とも合致しない仕事に押しやられてしまう危険も女性の方が高くなっています。

 しかし正直に言うと、コロナ禍が到来する以前から状況はバラ色ではありませんでした。

 ほとんどの人が新型コロナウイルスなど耳にしたこともなかったつい2年ほど前にILOが発表した旗艦的報告書『ジェンダー平等に向けて大跳躍:より良い仕事の未来をすべての人に』は男女格差の解消に向けた歩みがいかに止まり、時には後退しているかに光を当てました。

 女性が労働力に加わり、留まり、前進するのを阻む要素は数多く存在します。その最たるものは育児や介護などの無償ケア労働であり、世界中でいまだに不均衡に重い負担が女性の肩に乗っています。男女平等の前進に向けて傾けられたあらゆる努力にもかかわらず、1997年から2012年の間に女性が無償ケア労働に費やす時間は1日当たりでわずか15分しか減らず、男性は8分増えたに過ぎません。この速度では格差が解消されるには200年以上かかりますが、新型コロナウイルスの影響を考慮に入れるとはるかに長くかかるであろうことは確実です。

 女性が就く職業や産業部門は男性より狭められたままであり続けています。女性に支払われる賃金はなおも、同じ職業に就く男性よりも体系的に低く、世界平均で2割近く下回っています。ILOのデータによれば、世界全体で管理職に占める女性は3分の1を下回っています。女性の教育水準が男性を上回る可能性が高くなっているにもかかわらず、過去30年間、状況はほとんど変わっていません。また、これだけでは足りないと言うかのように、子どものいる女性は就労や賃金、指導的地位の機会の点でさらに不利な立場に置かれています。こういった不利な点は女性の生涯をついて回り、年金や社会的安全網の不足を理由としてしばしば高齢期における貧困に寄与しています。

 暴力とハラスメントは許容できず、労働市場への女性の参加や潜在力の発揮を損なう影響を与え続けています。これは国や地位、産業部門の違いにかかわらず、気が滅入るほど幅広く見られる現象であり続けており、しばしば物理的な空間を超えてデジタル世界にまで広がっています。

 課題は相当なものではありますが、良いニュースもあります。何をすべきか私たちは知っているのです。

 仕事の世界における男女平等はおずおずとした小刻みな前進ではなく、「大跳躍」を必要としています。これが社会と経済にもたらすであろう利益を享受したいと望むならば、意識的かつ先行対策的な協調努力が必要です。誰もが自分の役割を演じる必要があります。政府、労使団体、女性団体、学校や学界、カギを握るその他のパートナー、そしてあなたも私もです。

 以下に仕事の世界における女性に変革をもたらすカギを握る四つの分野を挙げます。

 第1に、無償のケア責任における男女の大きな格差に取り組む必要があります。男性はもっと多くの責任を引き受ける必要があり、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の向上は利益をもたらすことでしょう。労働時間やキャリアに関するより柔軟な取り組みを許す政策・ポリシー、不当な不利益なしに育児・介護休業後に労働力に復帰でき、ケア責任を管理するルートを通じて職場レベルでのサポートや投資を増すことも重要です。

 第2に、政府は労働市場、そしてより高技能で高給の職や機会が女性により広く開かれるような法律や政策を整備すること、あるいは時には全面的な変革を行う必要があります。これには公的資金による利用しやすい専門職によるケアサービスへの投資が含まれます。法律は多くの国にありますが、実施が弱いため、資金配分や義務を担う人々の能力向上、説明責任の確保が大きな前進を確保できる可能性があります。

 第3に、セクシュアル・ハラスメントなどの性差に基づく暴力やハラスメントは許容できず、対処の必要があります。この点で、仕事の世界に係わる機構によって形作られた「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」は明確な枠組みと実践的な活動を提示しています。2020年6月にこの条約を批准したフィジーに続き、第190号条約の批准と実施は域内各国の政策課題の最上位に掲げられるべきです。

 最後に、女性の発言力や代表性、リーダーシップを支える措置があらゆるレベルで必要です。採用や昇進における差別を除去し、頑固な男女間格差の全面的な解消に向けて積極的差別是正策を検討すべきです。さらにまた、移民労働者やLGBTIコミュニティーを構成する性的少数者、少数民族、先住民女性、女性障害者などの疎外されることの多い複合的なアイデンティティーを抱える女性を含み、至る所の女性に手を差し伸べる必要があります。

 職場における男女平等に取り組まなかった場合の機会損失は巨大です。新型コロナウイルスによる雲がかかってはいますが、無駄にできる時間はありません。今こそ公約を示し、勇気ある選択を行うべき時です。一緒に取り組めば私たちは不平等を縮小し、障壁を打破できます。そうすることによって、至る所の女性が誰も置き去りにされていない仕事の世界で潜在力をフルに発揮できるのです。