日本の任意資金協力事業

コロナ禍の中での生き残りをかけた戦い

 新型コロナウイルスの世界的大流行は、モハリディンさんのような非公式(インフォーマル)経済で働く人々に激しい影響を与えています。15人の子どもの父親として、基本収入と社会的保護が生き残りをかけて戦っている家族に、いかに暮らしを変えるような影響力を持つかについての経験を語ってくれました。

安定した収入がほとんどなかったモハリディンさんは地域社会緊急雇用計画に登録し、地域の水路を清掃する仕事を15日間行いました。チームリーダーとして25人のグループメンバーの体温を毎日測定し、記録しました。

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行は非公式(インフォーマル)経済で働く人々に激しい影響を与えています。ILOは日本政府の支援を受けて2020年10月にバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域(BARMM)で労働・雇用省と連携して緊急雇用を生み出す事業計画を開始しました。この地域社会緊急雇用計画(CEEP)はコタバト市、マギンダナオ州、ラナオ・デル・スル州、北コタバト州の63のバランガイ(自治体)で新型コロナウイルスの影響緩和を助けました。

 事業に参加したモハリディン・ラギアブさん(46歳)は新型コロナウイルスによる都市封鎖が行われてからの約1年間をかろうじて生き抜いてきました。男子8人、女子7人の15人の子持ちのモハリディンさんに新型コロナウイルスは実に多大な犠牲を強いています。かつてはオート三輪の運転手として生徒や親、先生を学校に送迎していましたが、学校が休校になり、遠隔学習に切り替えてから収入が途絶えました。事態を一層悪くするものとして、ラギアブ家にはオンライン・プラットフォームにアクセスするための携帯電話がないため、子どもたちは教育を受ける機会を奪われました。

 「新型コロナウイルスの流行が始まってから本当に毎日、生きるのが大変です。田舎に行ってバナナや果物、野菜をただで手に入れたいと思っても出かけられません。子どもたちの教育にも大きな影響があり、学校を出したいと思ってもうちには何もありません」とモハリディンさんは語っています。

 モハリディンさんは16歳の時に父親や叔父の後を追って戦闘員になりましたが、後に平和とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を求めて都市に移り住みました。家族のためのより良い未来という夢を抱くことによって、戦いを避け、武力紛争の悪循環を断つ方向に動きました。今は住んでいる地区で近所の夜間パトロールのボランティアを引き受け、地域の秩序と平和を最前線で守っています。この任務には月1,500フィリピン・ペソ(約3,300円)の手当が出ますが、家族の食費にもなりません。

 食料を買う助けになるよう、妻は人の服を洗い、22歳と18歳の2人の息子は建設工事の手助けをして数ペソ稼ぎ、下から2番目の8歳の息子はライスケーキを売っています。

15人の子持ちのモハリディンさん一家は、新型コロナウイルスの流行と一家総出で闘っています

 新型コロナウイルスの流行が始まると、モハリディンさんのようなインフォーマル経済で働く人々は真っ先に収入を失いました。モハリディンさんも家族に食事をさせるために米を借り、地元の役人が提供する支援に頼らざるを得ませんでした。「私たちはひどく影響を受けています。ここの多くの人たち同様、収入が不足しています。他の地域でも苦しんでいる人たちがいるのを知っています。再び金を稼ぎ、子どもたちが学校に戻れるには、多分コロナ禍が去るまで待たなくてはならないでしょう」とモハリディンさんは涙を流しながら語っています。

 新型コロナウイルスの大流行は普通の人々、そして食料や基本的な必需品を購入するその能力に破壊的な影響を与えています。回復のほのかな兆しが見えてきてはいますが、新型コロナウイルスの労働市場に対する影響に関するILOの最新の分析からは労働時間と収入の多大な損害が示されており、人間を中心に据えた回復政策で初期の回復を支えない限り、2021年の回復の展望は遅く不均衡で不確実であることが示されています。ILOフィリピン国別事務所のカリド・ハッサン所長は「総合的な財政刺激策に加え、雇用と勤労所得に対する支援を伴った保健、経済、社会政策の一連の介入とその適正なバランスが決定的に重要」と指摘し、「インフォーマル経済で働く人々のような脆弱で多大な打撃を受けている集団に対する所得支援措置」を優先させるべきと説いています。

モハリディンさんは地域社会緊急雇用計画に参加して賃金と社会的保護給付を受け取りました

 安定した収入がほとんどなかったモハリディンさんは地域社会緊急雇用計画に登録し、地域の水路を清掃する仕事を15日間行いました。チームリーダーとして25人のグループメンバーの体温を毎日測定し、記録しました。この間受け取った賃金と社会的保護給付を使って、米代の借金を返し、さらに多くを購入してニーズを抱える人々と分け合いました。社会保障、災害・健康保険の受給資格を得たことも高く評価しています。「これは私たちのような貧しい人々に社会的保護を広げてくれた唯一の制度です。生きている内にこんな給付の対象になるなんて思ってもみませんでした。少ししか収入がないと、社会保障や災害・健康保険料を支払う代わりに食料を買うのに使ってしまいますからね」とモハリディンさんは語っています。

 悲しいことにモハリディンさんは社会的保護の重要性を身をもって体験しています。2011年に安全でない水を飲んだ2歳の息子を下痢で亡くしているのです。金も健康保険もなければ冷たくあしらわれるだけと思い、病院に行かずに市販薬に頼ったあげく、やっと行った時には手遅れでした。

 でも最近、15番目の末っ子の男の子を妻が初めて病院で生みました。帝王切開によって子どもの命が救われ、病院代はフィリピン健康保険公社が貧窮者向けサービスとして負担しました。

 地域社会緊急雇用計画の参加者はモハリディンさんのようなインフォーマル経済で働く人々約1,750人に上り、賃金や社会的保護給付が支払われました。その後、労働・雇用省はこの事業計画を政府の通常計画として採用しました。「新型コロナウイルスの流行の影響を受けて職を失ったインフォーマル・セクターの労働者に対する支援にとても感謝しています。今やこの事業計画は通常活動の一つになりましたので、政府の予算を用いてさらに多くの労働者を支援することになります」とロメオ・セマ労働・雇用大臣は語っています。

 この事業計画がもっと多くの地域社会に届くことを聞いてモハリディンさんは喜んでいます。そして、このイニシアチブが自分のように新型コロナウイルスの流行によって深く傷ついた労働者を支援し続けることを望んでいます。15日間の労働を終えたモハリディンさんは今、家族を養い、何とか生活していくために仕事を探しています。

 「モハリディンさんの経験は基本所得と社会的保護には暮らしを変える影響力があることを示しています。多くの家族が生き残るために苦闘しているため、新型コロナウイルスの影響を受けた人々にさらなる支援を広げる明確なニーズが存在します」とハッサン所長は結んでいます。

地域社会緊急雇用計画の参加者は、水路を清掃し、手洗い用の設備を構築し、賃金と社会的保護給付を受け取ります

 以上はILOフィリピン国別事務所による2021年2月19日付のコタバト市発英文広報記事の抄訳です。

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