ILOブログ:高齢労働者

コロナ禍後の回復に高齢労働者の全面的な参加を確保する方法

 高齢労働者は企業にとっての貴重な資源ですが、危機や景気後退の後には仕事を失うリスクに直面する人が多いことが近年の歴史から示されています。

ILO調査研究局カーラ・ヘンリー上級技術専門官

 企業に対する経済制限が緩和される中、多くの労働者が職場に呼び戻されていますが、健康上のリスクが高いと見なされる人々はもっと長く離れていることをあるいは復帰しないよう求められるかもしれません。55歳以上の高齢者は合併症を併発するか、回復に時間がかかるかもしれないとの理由でハイリスク者に分類されています。政府も使用者も高齢労働者が年齢と新型コロナウイルス(COVID-19)の影響に弱いとの理解を理由とした雇用差別にあわないよう確保する責任があります。

 コロナ禍の最中及びその後における高齢労働者の失業リスクの低減あるいは新たな就労先への移行を緩和するにはどのような政策及び行動が必要でしょうか。

 経済協力開発機構(OECD)加盟国では高齢者は最も成長著しい年齢集団であり、その労働力率は過去10年間に8ポイント伸びて2018年に64%に達しています。労働力率の伸びは経済成長に貢献し、将来的な引退時の所得保障を向上させています。公式(フォーマル)な就業形態と年金がそれほど普及しておらず、ほとんどが収入源として非公式(インフォーマル)な労働に頼っている低・中所得国でも高齢者は労働力の重要な一部を占めています。

 近年の歴史からは、より教育水準が低い高齢労働者は危機時及び景気後退の環境下ではより不利になると推測されます。2007~09年の世界金融危機後に若者と高齢労働者の失業率が急上昇し、多くが安定した雇用を失い、より収入の低いより不安定な労働状況に陥りましたが、高齢労働者の方が新たな仕事を見つけるまでの時間が長く必要でした。労働市場からの完全な撤退を選択し、求職活動を止めてしまう人々や、より不安定でインフォーマルな就労を受け入れざるを得なかった人々もいます。これは貯蓄や年金収入、生活の質の低下、計画していたよりも長く働かざるを得ない事態を引き起こしました。今日のコロナ禍が雇用に与えている影響は一層深刻に見え、高齢労働者が再び大きな打撃を受けるかもしれないことを推測させます。

 どのような対策を講じるべきでしょうか。高齢労働者の雇用維持を助けることは同情の問題ではなく、貴重な資源の浪費を防ぎ、高齢労働者が職場で差別を受けないよう保護することを意味します。新型コロナウイルス危機の中で、諸国は疾病休暇や有給家族休暇、健康保険を使用者の裁量に委ねるよりもむしろ政府のプログラムを通じて率先して提供すべきです。高齢労働者が労働力としてもたらす価値を享受しようと思うならば、企業もまた柔軟な労働時間や再訓練プログラムのような事項に対する公約を再検討する必要があるでしょう。政府はまた、高齢労働者の再就職を支援するよりも雇用を維持する方が出費が抑えられることを見出す可能性が高いでしょう。企業が高齢者を維持するための追加的な奨励措置を提供するか、隔離中の年金掛け金の支払いを免除する必要があるかもしれません。技術訓練を奨励し、テレワークを支援することもできるでしょう。

 インフォーマル経済では雇用の維持に焦点を当てた小規模事業向け短期援助計画がとりわけ高齢自営業者には効果的かもしれません。一時的に離職したインフォーマルな労働者に対する現金支給の形での支援も考えられます。

 また、教育の概念を再考し、生涯学習をより一層強調する必要もあるでしょう。職を失った高齢労働者は需要が落ち込んでいる雇用市場での競争力をつけるために新たな技能を育む必要があるかもしれません。短期訓練プログラムの費用を負担しつつ失業保険の期間を延長することは、失業者の転職を助けることになるでしょう。職場におけるオンザジョブ・トレーニングに対する補助金もまた効果的になる可能性があります。

 高齢労働者は生涯をかけて知識と技能経験を蓄積してきました。新型コロナウイルスの下で世界が仕事に復帰する中、使用者と経済にとってのその重要な価値を看過すべきではありません。

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 以上はILO調査研究局のカーラ・ヘンリー上級技術専門官によるILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」への2020年5月25日付の英文投稿記事の抄訳です。