ILOモニタリング第6版
新型コロナウイルスによって勤労所得は大幅減、状況の悪化は続く:2020年1~9月に世界の勤労所得は前年同期比10.7%減の3.5兆ドル減少
ILOモニタリング資料第6版は、2020年第2四半期の世界の労働時間減少幅は4億9,500万人分に相当する17.3%減と推定され、2020年第4四半期は2億4,500万人分相当の8.6%減となると予想しています。
ILOは仕事の世界に対する新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を分析した資料『ILO monitor: COVID-19 and the world of work(新型コロナウイルスと仕事の世界ILOモニタリング・英語)』を過去5回発表していますが、2020年9月23日に発表したこの最新版で、ウイルスの世界的大流行によって引き起こされた労働時間の破壊的なほどの減少が世界中で労働者の勤労所得の大規模な減少につながっていることを示しました。また、景気刺激のための財政力における国家間の違いが、より裕福な国とより貧しい国の不平等の拡大につながるおそれがあることを指摘しています。
世界の勤労所得(政府の提供した所得扶助を除く)は、2020年第1~第3四半期に3.5兆ドル(前年同期比10.7%減)の下落を示したとみられます。下落幅が最も大きいのは下位中所得国(15.1%減)であり、地域別では米州(12.1%減)が最も大きな打撃を受けています。
ILOは2020年6月30日に発表したモニタリング資料第5版で、2019年第4四半期と比べた今年第2四半期の世界の労働時間の減少幅は、週労働時間48時間のフルタイム労働者換算で4億人分に相当する14%であったとの推定を示していましたが、第6版ではこの数字を引き上げて、4億9,500万人分に相当する17.3%減に改訂するなど、2020年最初の9カ月間の世界の労働時間減少幅は過去の見積もりを相当に上回ると結論づけています。
将来の見通しについても、モニタリング資料第5版は基本シナリオ、楽観的シナリオ、悲観的シナリオの三つを用いて2020年後半の回復予測を行い、基本シナリオによる2020年第4四半期の労働時間の前年同期比減少幅をフルタイム労働者換算で1億4,000万人分に相当する4.9%としていましたが、第6版では見通しを大幅に悪化させ、フルタイム労働者換算で2億4,500万人分相当の8.6%に上る減少幅を予測しています。また、今回初めて2020年第3四半期の数字も示し、フルタイム労働者換算で3億4,500万人分に相当する12.1%の労働時間の減少を予測しています。
このように労働時間の減少幅が当初見積もりより大きくなっている一つの理由として、非公式(インフォーマル)経済で働く人々を中心に途上国及び新興国の労働者が過去の危機の時よりもはるかに激しい影響を受けている点を挙げることができます。また、政策にとって重要な意味を持つものとして、就業者の減少は失業よりも非労働力化に基づく場合が多いことが示されています。日本でも2020年第2四半期に就業者数は前年同期比で男性1.3%減、女性1.0%減となっていますが、この36%が非労働力人口と化しています。
多くの国で厳しい職場閉鎖措置が緩和されましたが、地域によるばらつきが大きく、労働者の94%がなおも職場に何らかの種類の制限が課されている国で暮らしており、必要不可欠な職場以外は閉鎖されている国で暮らす労働者も32%に上ります。
モニタリング資料第6版はまた、労働市場に対する影響を緩和するために発動されている財政刺激策の効果も分析し、2020年第2四半期についての十分なデータが得られる国では、明確な相関関係が存在し、対国内総生産(GDP)比で見た財政措置が大きければ大きいほど、労働時間の減少幅は小さくなることを示しています。2020年第2四半期に発動された財政措置は世界全体で見ると年GDP比で1%増える毎に労働時間の減少幅は0.8%ずつ縮小することが示されています。
このように財政発動による包括的刺激策は経済活動を支え、労働時間の減少を減らす上で相当の役割を演じているものの、途上国・新興国ではこのような措置に発動できる財政力が限られているため、措置はもっぱら高所得国に集中しています。労働時間に関して途上国が高所得国と等しい財政効果を得るためには、9,820億ドル(低所得国450億ドル、下位中所得国9,370億ドル)の追加資金投入が必要とみられます。ただし、低所得国で不足している資金額は高所得国で発表された包括的刺激策の総額の1%にも満たないとみられます。多くの途上国における社会的保護の欠如に鑑みると、刺激策用に発動できる財政力におけるこの大きなギャップは一層懸念されます。その上、こういった国の中には、労働市場に対する危機の影響を緩和するために、他の使途目的から公共支出を振り向けざるを得なかったところもあります。
ガイ・ライダーILO事務局長は、「ウイルスに打ち勝つための努力を倍加する必要があるのと同じように、仕事や企業、所得に対する支援維持などの、経済、社会、雇用に対する影響を克服するために必要な規模の行動を緊急に起こす必要があります」と指摘した上で、現在ニューヨークで国連総会が開かれていることに触れ、「この危機に単独で打ち勝てる集団も国家も地域もありません」と説いて、「対話、協力、連帯を通じて回復のための地球規模の戦略を国際社会で定めることが急務」と訴えています。
以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。