ILO COOP 100インタビュー企画「耕す、コープを。」第1回 株式会社 地球クラブ厚東清子さん

2020年3月23日、ILO協同組合ユニットは創立100周年を迎えました。国や企業のサービスの届かない地域にも、必要なインフラやサービスを提供してきた歴史が協同組合にはあり、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献してきました。世界中が新型コロナウィルス感染拡大の危機に直面し、人々の連帯がこれまで以上に必要とされる今、協同組合に注目が集まっています。

この機会に、若者世代の協同組合のイメージ(「古い」「縁遠い」)をより身近なもの/魅力的なものとするべく、日本の協同組合の活動を振り返ります。これからの時代の仕事/生活/消費/生産において、また今回のパンデミックをはじめ危機的状況において、協同組合はどのような役割を果たし、より良い未来を創っていけるのか。各協同組合で活躍される方々へのインタビューを通じて、協同組合の強みや可能性を、若者代表のILO駐日事務所インターンと一緒に耕して(探って)みたいと思います。
===================================================

 
厚東清子(ことう きよこ)さん
大学卒業後、2003年に生活協同組合コープこうべ入協。協同購入センターにて組合員への商品配達業務を経て、2007年にコープこうべ 労働組合専従執行役員に就任。店舗と宅配事業部勤務の後、2014年に日本生活協同組合連合会へ出向。コープ商品開発、原料点検・調達、会員生協への提案・助言活動に携わる。2016年、日本生活協同組合連合会・品質保証本部に移籍。2018年より(株)地球クラブにて、主に生協事業所、組合員宅への電気供給とそのための電力調達に携わる。

 

生協が再エネ!?株式会社 地球クラブとは?

株式会社地球クラブは、生協の電力事業を担うために設立された、日本生協連の子会社。再生可能エネルギーを“つくって つかって ひろげて”を目指し、2014年に設立されました。再生可能エネルギー(FIT電気含む)の調達・供給を中心とした電力事業を通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目的としています。

現在の仕事は、”生協における再生可能エネルギー普及”

● 現在のお仕事内容を教えてください。
 厚東さん(以下、略):日本生協連の子会社である地球クラブで仕事をしています。生協の事業所や組合員に電気を供給する仕事です。
再生可能エネルギーに由来する電気の供給だけでなく、調達、利用促進も担当しています。東日本大震災の原発事故を機に、二酸化炭素を排出しない、かつ、原発にも頼らないということにこだわっています。利用促進としては、今は、主にまだ再生可能エネルギー導入の取り組みができていない生協の事業所に対して営業をしています。

●今まで、宅配、店舗業務、労働組合など様々なお仕事を経験されてきたと思いますが、現在のお仕事のやりがいはどのような時に感じますか?
 今の仕事への入り口は単純に人事異動でしたが、先を見据えて生協全体で決めた再エネの方針を実現できている部署であることに、やりがいを感じています。また、その日、その時に必要な電気の量に対して、同じバランスで調達をすることが最重要課題となっています。このバランスを正確に予測して、それに応じた電気の量を買う、という作業の誤差が少なかった時はすごくやりがいを感じ、日本のエネルギーの安定供給の一助になっていると感じます。最後に、電気は何で作られるかによって全然違うんですよね。国内にあるエネルギーを使って国内で発電された電力は国内にお金が回ることになります。一方、海外から輸入した天然ガスや石油で発電した電力は燃料購入先である海外にお金が流れていきます。電気は誰もが日々使いますが、電気代が、どこへ循環していくのか、自分のお金がどう使われていくのか、を知れることが面白いと感じています。

悩んだ新人時代、支えになった組合員の存在

● 現在のお仕事への熱意が伝わってきました…!もともと、協同組合で働こうと思われていたのですか?



協同組合だから働きたいと思っていたわけではなく、大学時代、私も協同組合は生協くらいの認識でした。ただ当時、株式会社には興味がありませんでした。株主のために利益をあげることは楽しいのかなという疑問から、協同組合に関心を持つようになりました。また、全員が平等である組織であることにも興味を持ちました。
ただ、「協同組合において事業系の活動をするためには、原資が必要だから、宅配、店舗等で利益をあげる必要がある」と株式会社のように言われ、入社前と少し違うと感じることもありましたが、時間をかけて理解をしていきました。

震災への”生協流”向き合い方

● 今回の新型コロナウイルス感染拡大や阪神淡路大震災、東日本大震災などの緊急時に、コープはどのように連携・協力してきたのでしょうか?
 阪神淡路大震災の時は学生でしたが、当時の様子を職場の先輩からいろいろ聞きました。コープこうべは神戸市と「緊急時における生活物資確保に関する協定」* を結んでいたので、コープの本部は倒壊していたのにもかかわらず、物流センターや取引先と連携し、救援物資をすぐ出せたそうです。職員も、自分の家が壊れているのにもかかわらず、駆けつけ、店舗にあるものを外で販売したりとすぐ動いていました。この話を資料で読んだとき、生協職員の根っこには「自分も大変なときでも、すぐ誰かのために動く」という姿勢があるんだなと思いました。
その後の東日本大震災や熊本地震等の災害時の経験を積んだことから、各生協との横のつながりができ、緊急時に向かうべき場所の割り振りもすぐにできるような体制になってきています。
今回の新型コロナウイルスでも、各生協も大変なので、今は日本生協連が連合会として各生協の状況を把握して、働く人を守るということに取り組んでいます。
緊急用に備蓄してあったマスクを医療生協や介護の現場の職員さん向けに送ったりしています。
 
* 神戸市とコープこうべは、阪神淡路大震災の15年前の1980年に「緊急時における生活物資確保に関する協定」を締結。オイルショックの時に起こった物不足、パニック、物価狂乱に対する反省から、神戸市とコープこうべの間で物価問題研究会を設置。緊急時対応策として1つ目は、店舗に品切れを起こさないために緊急時における商品手配システムをつくること、2つ目に公正適正価格を維持するための物価監視機能を強めること、3つ目に公正な分配をすること。パニックが起こるとまず困るのは、特に高齢者や体の不自由な方々であるということを踏まえ、具体的なシステムを準備するための討議が行われた結果、「緊急時における生活物資確保に関する協定」が結ばれた。


組織を超えた”当たり前な”協力体制

●今までのお話で、生協について語る際、「横のつながり」はキーワードのような気がしています。

実は、近隣の生協間ではお互いを良い意味でライバル視することもあるのですが、新型コロナのような緊急事態になると、横のつながりって強くって助け合うところが出てくるので、不思議だなと思っています(笑)このような横のつながりは、当たり前になっていますね。助け合いが当たり前、という考えは、やはり過去に助けられたと言う経験が原動力になっていますね。阪神淡路大震災の時に助けてもらったから、東日本大震災の時は助けにいく、こういった経験が共有されて、助け合いの精神が根付いているのだと思います。

● 横のつながりが再生可能エネルギーで生きたことはありますか?

再生可能エネルギーは、元々地域によってポテンシャルが違います。例えば、東北は風力が、九州は地熱が得意であったり。なので、各生協から「新しい再エネを調達したいんだけれど、どういうところにアプローチしたらいいのか?」と聞かれた際には、別の生協に連絡をとって色々教えてもらったり、どこにアクセスすればいいのか等の情報交換をすることもできています。
また、生協全体で、「原発に頼らないエネルギーを皆でつくって使っていきましょう」という方針が出来たこともあり、再エネで生協同士をつなぐ際も、将来の地球温暖化対策の一つとして再エネに取り組むということがまず最初に共有されています。もちろん数字や利益も見ますが、そのような方針があるということは大きいと思います。

未来の子どもたちのためにエネルギー問題に取り組む

●SDGsなどの社会課題とされている事柄の中でも、最も気になっている/働きかけていきたい分野はありますか?
 今、エネルギー関係の仕事をしているので、やはり、ゴール13の「気候変動に具体的な対策を」に一番関心があります。日本生協連としても「地球温暖化対策を推進し、再生可能エネルギーを利用し普及しましょう」と言っているので、まさに、それを具体的に進める部署だと思っています。
また、ゴール7の「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」の具体的な実践として、再生可能エネルギーにこだわって調達をして広げていきたいと考えています。

●地球クラブという組織から環境問題に取り組む意義は何だとお考えですか?
 未来のことを考える組織だからこそ、再生可能エネルギーに取り組む意義があると思います。未来の日本を担う子どもたちに負の遺産を残してはいけないですし、今起きている災害の原因と言われている地球温暖化を少しでも止めなければいけない、と考えている組織だからこそ、再生可能エネルギーに取り組む必要があるのだと思います。
各生協さんが実施している組合員学習会などで、エネルギーについて組合員さんと一緒に考えるという機会も多くあるのですが、その際も、今の自分たちのためというより、未来の子どもたちのためにという意識で行っていることが多いですね。

職員のレベルアップにも取り組んでいて、宅配センターで配達担当者をはじめとする職員向けに学習会を開催することもあります。今後、配達担当者、生協職員全員に再生可能エネルギーについて知ってもらうことは、私の夢の一つでもあります。

2030年…「当たり前」の中に生協があって欲しい

●10年後、2030年までのビジョンはありますか?あれば、どのようなものか教えてください。

 地球クラブとしては、日本全体の電気を100%再生可能エネルギーにするというのが目標です。そのために、まずは地球クラブの事業を日本生協連の主力事業にしていきたいです。事業としてもっと大きくなって、日本全体の再生可能エネルギーの調達と普及に関わりたいと考えています。そのために、まずは自分たちが「再エネ電源・電力のプロフェッショナル集団になろう」といっています。

●厚東さんご自身のビジョンはありますか?
 個人としては、当たり前の中に生協があって欲しいと思います。生協に関しても、知ってはいるけど、関わっていないという人が多いと思うので、特別ではなくて、普段の生活の中に入っていけたらいいなと思っています。今関わっている電気という分野で、私は当たり前になりたいです。
 

● 若者世代に協同組合を広げるために、今の協同組合はどのように発展していけばいいと思われますか?
 これは、ずっと課題だと思っていることですね。私は、発展よりも発信が大事だと思っています。協同組合と言うと、どうしても堅い、古いというイメージがあるので、実は身近にあるということを感じて欲しいです。例えば、SDGsの「つくる責任、つかう責任」にもあるように、材料などにこだわったコープ商品を選んでもらうだけでも、協同組合に関わってもらっていることを分かってもらえればいいのかなと。協同組合自体が「どう変わるか」ではなく、今の協同組合をしっかり「どう発信をしていくか」が大事だと思います。

●協同組合が掲げているビジョンや理念は、まさに今の若い世代が共感できる考え方や取り組みを持っていますので、普遍的な価値を持った組織としてどんどん認知されていったらいいですね。
 歴史がある古い組織ではあるのですが、そういう風にいっていただけると嬉しいですね。
私が生協という組織で長年働いてきた中で「やっぱりこの組織が好きだな」と思う部分は、第一に相手の立場に立って考え、それをすぐ行動に移す風土であることです。災害が発生した際、多くの生協が真っ先に現地に向かうのはその表れだと思います。

● 協同組合を一言で表すとしたら、何でしょうか。