サプライチェーンのCSR向上を目指す多国籍企業に求められる中小企業への支援(2019年11月19日開催セミナー報告)

ILOとOECDは共同で、アジアのサプライチェーンにおける企業の社会的責任(CSR)と責任ある企業行動(RBC)を議論するラウンドテーブルを日本企業に向けて開催

ニュース記事 | 2019/11/19
 
[写真上:「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムによるセッション]

日本企業が労働に関する権利を尊重し、責任ある企業行動の強化を進めていくためには、サプライチェーンの先に位置するサプライヤーのコンプライアンスコストと意識啓発の問題に取り組む必要がある。東京で開催されたCSRとRBCに関するラウンドテーブルは、このように結論付けました。

「日本の多国籍企業が自国と海外でCSR活動を進める場合に、優先課題として、サプライチェーン対策の強化に加えて、人権・労働の分野と中小企業に関する対策の強化が求められる。さらに進出企業での労使対話を推進すべきである」と日本ILO協議会の熊谷謙一氏は指摘しました。
[写真左:熊谷謙一氏(日本ILO協議会)]




中小企業の問題に光を当てたのは、労働分野に詳しい大村恵実弁護士でした。同弁護士は、中小規模のサプライヤーのリソース不足を指摘した上で、こうした企業が国際労働基準を遵守する際のコストを多国籍企業が負担することの必要性を訴えました。そして、CSRの取り組みを進める上での優先課題は、「公正な取引慣行を確立し、CSR強化の対応コストを公正に分配・負担する仕組みを作り上げること」であるとして、「そのプロセスには法律家を含むステークホルダーの協働が求められる。また、国際労働基準を遵守することが、日本・アジアを魅力的な投資マーケットとして打ち出していくための最初のステップである」と述べました。

本イベントは、「アジアにおける持続可能なサプライチェーン実現に向けて~責任ある企業行動のための国際協調の促進~」と題して、ILOとOECDの共催で「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムの一環として開催されました。同プログラムは、欧州連合(EU)の資金拠出により、サプライチェーン上の労働と人権、環境の尊重を促進することを目指し、日本を含むアジアの6ヵ国で実施しています。

「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムのマネージャーであるフレディ・グアヤカンは、100名近い参加者を前に、アジアでは依然として労働面の問題が存在し、グローバル・サプライチェーンにおいてディーセント・ワークを実現する上では引き続き課題があることを説明しました。そして、国際労働基準とその他の国際的な指針文書との関連性を取り上げながら、「グローバル・サプライチェーン上で複雑に絡み合う労働面のガバナンスに取り組む上では、統合的なエンゲージメント、協調、そしてパートナーシップが鍵となる」と語りました。

サプライチェーン上の方針や慣行を変更する際には、労働者の声を反映することが重要です。熊谷氏はこの点を強調し、グローバル・サプライチェーン上の課題に取り組む際の社会対話の意義を訴えました。そして、グローバル枠組み協定(GFA)やグローバル労使協議会など、労使関係に関する国際的な取り組みを紹介しました。「日本の多国籍企業のCSR活動におけるこれからの最大の課題は、グローバルなサプライチェーンでの活動を適切かつ十分に展開することにある」と同氏は指摘しました。

議論では、アジアの現状を踏まえたアプローチの重要性も提起されました。「グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワーク促進の上で国際労働基準の果たす役割を参加者みなで再確認した。責任あるサプライチェーンは、地域の現実に基づいて議論すべきだ。日本とアジア地域における労働者、多国籍企業、サプライヤーが直面する固有の課題を共有できたことは重要であった」と大村弁護士は語っています。
[写真左:大村恵実弁護士]



本イベントでは、高リスク地域からの原材料調達等のサプライチェーンにおけるデュー・ディリジェンスに関して、OECDによるセッションも開催されました。このセッションでは、OECDのデュー・ディリジェンス・フレームワークに焦点が当てられ、欧州諸国の駐日大使館や企業、研究者によるコメントがありました。OECDは、紛争鉱物以外にもすべての原材料を対象としてデュー・ディリジェンス・ガイダンスを適用できること、そして企業がサプライチェーン上のデュー・ディリジェンスを実施する上で役立つ様々なツールを提供していることを紹介しました。

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「アジアにおける責任あるサプライチェーン」プログラムは、EUが資金拠出してILO、OECDとの緊密な連携により立ち上げられました。アジアの6ヵ国(中国、日本、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム)で実施され、企業の社会的責任(CSR)と責任ある企業行動(RBC)に関する課題や機会を話し合う場を提供しています。プログラムでは、国際的に認められた指針であるILOの多国籍企業宣言とOECDの多国籍企業行動指針に基づいて、調査、普及、政策アドボカシー、セミナー開催等の活動に取り組んでいます。