ILO理事会

第337回ILO理事会(ジュネーブ・2019年10月24日~11月7日)閉幕

記者発表 | 2019/11/08
ILO理事会議場

 第337回ILO理事会は2週間にわたる審議を終えて2019年11月7日に閉幕しました。今理事会の主な決定事項は以下の通りです。

◎2020/21年ILO事業計画・予算

 ILOの事業計画・予算は通常、総会で採択されますが、今年は6月に開かれた第108回総会で採択された「仕事の未来に向けたILO創設100周年記念宣言」の内容を反映させるために、総会では例外的に予算額のみを採択し、最終的な事業内容については今理事会で採択するという手続きが取られました。採択された活動計画と成果枠組みは、全てに優先する戦略として調査研究、統計、能力開発に特に重点を置いた上で、八つの政策達成目標(1-力強い加盟国政労使と影響力があり包摂的な社会対話、2-国際労働基準及び権威と実効性のある適用監視、3-完全雇用、生産的な雇用、職業の自由な選択、全ての人のディーセント・ワークに向けた経済、社会、環境面の移行、4-雇用創出源並びに革新及びディーセント・ワークの促進者としての持続可能な企業、5-労働市場へのアクセス及び労働市場における移行の円滑化に向けた技能と生涯学習、6-仕事の世界における全ての人の機会平等・平等待遇と男女平等、7-労働に関わる適切かつ効果的な保護を全ての人へ、8-包括的かつ持続可能な社会的保護を全ての人へ)を柱に、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と経済成長に関する持続可能な開発目標8の達成を中心として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に貢献することを目指しています。この活動計画は100周年記念宣言で特定されたビジョンと優先事項の実行に向けた第一歩となります。

◎その他の第108回総会フォローアップ

 100周年記念宣言は、「安全で健康的な労働条件はディーセント・ワークの基盤」であると宣言しています。理事会は、同時に採択された決議の提案を受けて、安全で健康的な労働条件をILOの労働の基本的原則・権利の枠組みに含む提案を検討する手続きの行程表を承認しました。

 ILOは1986年に、日本を含む十大産業国が現在占めている政府側常任理事制の廃止を目指して憲章を改正しましたが、この批准が進まないことから、100周年記念宣言は前文で、あらゆる地域の公正な代表制を確保し、加盟国間平等原則を確立することによるILOの統治体制の民主化を求めており、同時に採択された決議は理事会にこのフォローアップの任務を付託しました。これに応えて行われた審議の結果、憲章改正文書の批准促進努力を続けつつ、具体的な民主化策について検討する作業部会を設置することが決まりました。

 同じく総会で採択された仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する国際労働基準については、条約の幅広い批准と効果的な実施のための包括的な戦略の策定を事務局長に求める決議が同時に採択されていますが、これに基づくフォローアップ審議を行った理事会は、新たな基準が体現する権利と原則を促進・実行する戦略の整備を事務局長に求めました。

◎たばこ産業

 たばこ産業のディーセント・ワーク不足に取り組む総合戦略に関しては、7月にカンパラで開かれた技術会合で行われた意見交換も考慮に入れ、費用計算を行った上で、ILOの資金と開発協力のための二国間・多国間機関援助による任意拠出金を財源として、引き続きタバコ栽培国に支援を提供するという時限戦略をまとめ上げて承認しました。

◎基準適用

 2015年の第104回ILO総会の複数の使用者側代表からILO憲章第26条に基づき、1928年の最低賃金決定制度条約(第26号)1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)及び1976年の三者の間の協議(国際労働基準)条約(第144号)の適用状況に関する苦情が申し立てられたベネズエラについては、2018年に設けられた審査委員会が現地を訪れてまとめた報告書が9月に発表されたところですが、理事会はこれに留意し、政府が報告書に含まれる結論と提案を受諾するか否かを回答する期限である12月末を待ち、2020年3月の次期理事会で本件を取り上げることにしました。

 2012年の第101回ILO総会の複数の代表からILO憲章第26条に基づき、第87号条約の適用状況に関する苦情が申し立てられたグアテマラの案件に関しては、2018年10~11月の第334回理事会で審査手続きの終結が宣言されましたが、理事会はそのときの決定に従って政府から提出された、結社の自由の完全な尊重を確保するために2017年に政労使間で合意された行程表の実施に関連して取った行動に関する報告書に留意しました。政府の報告書は2020年10~11月の理事会にも再度提出されます。

 1930年の強制労働条約(第29号)の適用状況に関して引き続き状況点検が行われているミャンマーに関しては、児童労働や労働法制改革、ディーセント・ワーク国別計画策定などの進展を認めつつも、とりわけ労働者の権利侵害についての実効性があり信頼の置ける全国的な苦情申し立ての仕組みの整備など、引き続きILO及び労使との協働を続けるよう政府に求めました。政府は2020年3月の次期理事会にも報告書を提出することになっています。

 移民労働者を含む全ての労働者の権利保護・促進に向けて、賃金支払い、労働監督、労働安全衛生の仕組み、募集採用・雇用契約の仕組み、強制労働、労働者の発言力の促進を内容とする技術協力計画がILOとの間で実施されているカタールに関しては、計画の進捗状況に関する報告が提出され、理事会はこれに留意しました。

 結社の自由の侵害に関する24件の案件を検討した結社の自由委員会は、労働組合指導者らの殺害・暴力行為などが問題になっているカンボジア、グアテマラ、フィリピンの案件にその深刻さと緊急度から、特に理事会の注意を喚起しました。

◎今後の総会議題

 理事会は2020年の第109回総会の議題に技能と生涯学習に関する一般討議を含むことなどを決定しました。また、基準見直し機構三者構成作業部会から新基準候補として提案された生物学的危害(バイオハザード)、人間工学と手による取り扱い、化学物質による危害(ケミカルハザード)、機械防護に関する作業の開始を事務局に求めました。

◎アラブ被占領地

 アラブ被占領地における技術協力強化計画の実施状況を検討した理事会は、ガザを中心とする被占領地の労働・雇用情勢の悪化に留意し、パレスチナの人々のディーセント・ワークの促進に向けてパートナーシップと資金の強化・拡充を求めました。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。