第108回ILO総会テーマ別フォーラム

第108回ILO総会テーマ別フォーラム:より明るい仕事の未来に向けた生涯学習

記者発表 | 2019/06/14
仕事と技能に関するフォーラム模様。写真録画動画もご覧になれます。

 現在ジュネーブで開かれている第108回ILO総会では七つのテーマ別フォーラムが開催されています。6月14日に開かれた「より明るい未来に向けた仕事と技能」と題するフォーラムでは、仕事と技能、そして未来の労働市場を支えるために必要な政策改革の関係が探求されました。

 政労使代表に加え、民間セクターや国際機関の代表も参加して行われたパネル討議では、科学技術や気候変動、人口構造の変化などが仕事の世界にもたらしている幅広い変容が提供する雇用創出や所得向上の新たな機会、労働市場にもたらす混乱、地球規模の生産ネットワークに与える影響、現在のそして将来的な職業の技能・職務要件にもたらす変化について検討が行われました。

 開会挨拶を行ったムサ・ウマルILO現地業務・パートナーシップ担当副事務局長は、「人工知能や自動化、ロボット工学といった科学技術の進歩は全て、新しい雇用を生み出すものの、適応が必要な人もおり、社会的安全網がそのような人の移行を確実に成功させられるか否かは私たち皆の集団的な取り組みにかかっています」として、仕事の世界に積み上がりつつある課題に緊急に取り組む必要性を強調しました。また、このような全体像の一部である技能について、「今日の技能は明日の仕事に適合しなくなり、最近習得したノウハウもすぐに時代遅れになる危険性」があることに注意を喚起しました。参加者らは、このような課題は生涯を通じて技能向上、再技能習得を続けることを必要にさせるとの点で意見の一致を見ました。途上国の多くの若者労働者に仕事が必要になることも指摘されました。

 経済協力開発機構(OECD)のアンヘル・グリア事務総長は、デジタル化、グローバル化、人口構造の変化の力は、暮らしを向上させる多大な潜在力を秘めており、現在、OECD諸国で新たに創出されている仕事の10件中4件までがデジタル集約部門で生まれていることを明らかにしました。一方で、今日の労働力の14%が科学技術によって移動を強いられる可能性が高く、さらに32%には混乱が生じるといったように半分程度が科学技術の影響を受けることや、労働力の半分程度が科学技術の要素が高い労働環境で働く準備ができていないことを指摘した上で、「最も訓練が必要な人の機会が最も小さい」点に注意を喚起しました。

 現在の人口動態の趨勢は移住圧力を強め、大規模な移民や難民を引き起こす方向に進んでいます。フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は、戦争や暴力、時にはそれに貧困や気候変動が組み合わさって、移動を強いられた人は世界全体で7,000万人を上回っている現状を示した上で、「このような形で移動を強いられたことによって、これらの人々は本質的に、そしてしばしば、ここで議論されているような、仕事の世界の他の人々に利益をもたらす変容から排除されている」点に注意を喚起しました。さらに、移動を強いられ、国をもたない難民の85%までが中・低所得国にいること、正式な書類もなく、しばしば移動の自由もなく、金融サービスからも排除され、デジタルギャップはとりわけ大きく、教育の機会は遠いといったように、多様な排除は就業能力に大きな影響を与え、ほとんどが非公式(インフォーマル)な形でしか就労の機会を得られないことを指摘しました。

 国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)のマリオ・シモリ事務局次長は、「例えば、ドイツのような国ではデジタル化が雇用を生んでいるのに対し、中南米その他の国では雇用は創出されておらず、雇用の8割の受け皿となっている中小企業やインフォーマル経済にマイナスの影響があることは明らか」として、中所得・途上国と先進国との間には大きな格差が存在することを指摘しました。そして、途上国経済は新たな雇用を創出し、デジタル化を経済構造に組み込むために、産業政策・科学技術政策を策定する必要があると説きました。

 ILOの仕事の未来世界委員会の委員も務めたドイツ社会民主党のトールベン・アルブレヒト連邦マネジャーは、労働者の技能要件は今でも非常に急速に変化しているものの、今後もこの傾向が続くであろうことを挙げ、「私たちの課題は誰も置き去りにされないよう確保すること」と唱え、その方法として、「積極的な政策から人と関与する先行対策的な政策、技術変化によって職を失う危険がある人々に、まだ職に就いているうちに訓練を提供する政策に移行すること」を提案しました。また、基礎所得を全ての人に保障することに代えて、勤労生活を開始する時にもっと平等な機会を与えることになるものとして、勤労生涯を通じて使用できる再訓練のための「機会勘定」を全ての人に保障することを提案しました。

 デロイトの人材実務における組織変化・タレント部門のグローバル・リーダーを務めるディンプル・アガルワルさんは、幾つかの職務内容に変化が生じつつあることを指摘し、今までやっていた仕事を補うために新たな技能や能力が必要になっている場合があることを紹介しました。そして、あらゆる調査結果、あらゆる顧客から指し示されることとして、「実際に新たな仕事が生まれており、生産性の向上が見込まれるものの、人間が機械ともっとうまく働ける方法を学ぶ必要がある」と指摘し、労働者は複雑な問題解決力や認知技能、社交技能のような人間独特の技能に一層注力すべきであり、ほとんどが仕事の現場で行われる生涯学習をもっと革新的で必要に応じたものにする必要性を説きました。

 シンガポール海事職員組合の書記長でもあるシンガポール全国労働組合会議のメアリー・リウ・キア・エン会長は、前代未聞の速さで起こりつつある仕事の世界の変化に注意を喚起し、企業の事業革新、労働者の技能向上・技能再習得の必要性を説き、「私たちは独りで旅をするのではなく、労働者が独りでやることも使用者が独りでやることも政府が独りでやること」もできないとして、協力の必要性を訴えました。そして、そこで登場するものとして「三者構成原則」を挙げ、労働者がより良い賃金、より良い利益、より良い雇用展望を得られるよう、労働者に保障を与える変化の旅に共に乗り出すことを政労使三者に呼びかけました。

 フォーラムでは国別事例研究として、スイスの生涯学習制度が取り上げられ、同国政労使が発表を行いました。スイス連邦経済省経済事務局のボリス・ツイルヒャー労働局長は、労使の社会的パートナーが重要な役割を演じていることを認めつつも、職業団体もまた、経済に耳を傾け、労働市場のニーズに注意を払い、労働者にも注意を払い、技能を最新の状態に保つ訓練プログラムを設定していることを紹介し、「この対話の文化が必要不可欠」と唱えました。フランス語圏スイス企業連盟のブレーズ・マテイ事務局長は、原材料のないスイスは教育を原材料と考える強い信念があることを紹介し、「良い基礎教育、良い訓練、そしてとりわけ継続的な適応訓練を確保する個々人及び集団の公約」が必要なことを指摘しました。スイス労働総同盟(SGB-USS)のルカ・シリリャーノ国際部長は注意を払うべきものとして「アクセスの可能性」を挙げ、学習と参加機会の点で労働者のアクセスの可能性に注意を喚起しました。また、人々が教育を受けようとする際の資金や時間の不足の問題も指摘しました。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。