ILO/Eurofound共同刊行物

ILO/Eurofound共同新刊:仕事の質は全ての労働者の関心事項

記者発表 | 2019/05/06

 欧州連合(EU)の政労使三者構成の研究機関として、社会、雇用、労働に関連した、より良い政策の策定を支援する知識の提供という役割を担う欧州生活労働条件改善財団(Eurofound)とILOは、仕事の質に関する国際比較を行った共同刊行物を5月6日に発表しました。『Working conditions in a global perspective(グローバルな視点で見た労働条件・英語)』と題する報告書は、EU28カ国、中国、韓国、トルコ、米国、スペイン語圏中米諸国、アルゼンチン、チリ、ウルグアイといった世界41カ国を対象に主として過去5年以内に実施された雇用の質に関する調査をもとに初の比較分析を示しています。

 調査対象国の労働者数は合計で約12億人に上ります。仕事の物理的な環境、強度、労働時間の質、社会環境、技能・人材育成、雇用展望、収入といった仕事の質に関する七つの側面を取り上げた本書は、労働時間における国毎の顕著な差異、労働強度が高く感情面の要求度が高い労働の相当レベルの存在、全体として教育水準が低い層の労働条件は悪く、技能開発の機会も少ないことなどを明らかにしています。

 本書が見出した主な事項には次のようなものがあります。

  • 労働時間は国による違いが大きく、EU諸国では労働時間が週48時間を超える労働者は全体の6分の1程度であるのに対し、韓国やトルコ、チリではほぼ半分に達すること。どの調査対象国でも、労働者の最低1割は自由時間にも働いていること
  • 韓国では労働者の7割以上が個人的用事や家族の用事を済ませるために仕事を1、2時間抜けることができるのに対し、欧米やトルコでは、この割合は2~4割に留まること
  • 締切がきつく、早さを要求されるような労働強度・密度が高い仕事に就いている人は、EUでは労働者の3分の1程度であるのに対し、米国やトルコ、エルサルバドル、ウルグアイでは半分に上ること。全体の約25~40%が感情面で要求度が高い仕事に就いていること
  • どの国でも自らの技能を育み、成長する機会が最も低いのは、教育水準が最も低い層であること。職場で新しいことを学んでいると報告する労働者の割合は、米国、EU、ウルグアイでは72~84%の範囲内に収まるのに対し、中国(55%)やトルコ(57%)、韓国(30%)では低いこと
  • 労働者はしばしば身体的なリスクにさらされており、手や腕の反復運動を伴うと回答する労働者は半分以上に上り、職場の温度がしばしば高いあるいは低いとの回答はどちらも約4分の1に上ること
  • どの国でも女性の収入は男性を大きく下回り、女性は収入分布の下方に過度に多く存在する傾向があること
  • 言葉による暴力や屈辱的な態度、いじめ、望まない性的注目、性的嫌がらせ(セクシュアル・ハラスメント)を受けたことがあるとの回答は労働者の最大12%に上ること
  • 不安定雇用は広く見られ、キャリア展望のない仕事に就いているとの報告が少なくとも3割に上ること
  • 上司の部下管理能力を肯定的に評価する人は全体の約7割に上り、同僚からの社会的支援の報告率も高いこと(幾つかの国は例外)

 報告書は労働者に対する過度の要求を減らし、リスクへの暴露を制限することによって仕事の質を改善できると強調しています。また、同僚の力や上司による支援、雇用の質の改善に向けた社会対話など、職場の肯定的な社会環境の重要性に光を当てています。さらに、雇用の質に関する比較データを含むような労働条件調査は関心事項を特定し、政策行動の根拠を提供する上で必要不可欠であるため、このような調査を実施することを各国に呼びかけています。

 報告書を作成したILO労働条件・平等局のマヌエラ・トメイ局長は、良好な労働条件は労働者の福祉と企業の成功に寄与することを指摘した上で、働く人々の生産性と福祉に影響を与える問題の理解を「全ての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を実現する方向に向けた決定的に重要な一歩」に位置づけ、「新技術や新しい作業組織形態が仕事の世界に形成されつつある時には、特にそう言える」と説いています。Eurofoundのフアン・メネンデス=バルデス理事長は、「仕事の質は、労働者に対する過度の要求を減らし、リスクへの暴露を制限するだけでなく、業務目標の達成を手助けする業務リソースを得る機会を増すか、こういった要求の影響を緩和することによっても改善できる」とし、仕事の質の改善においては、個々の労働者、使用者、そして労使団体のそれぞれに演じるべき役割があることを強調しています。

 3部構成の本書は第1部「労働条件のモニタリングと比較」で調査内容を説明し、国際比較から得られた結果の概要を記した後、第2部でEU、中国、韓国、トルコ、米国、中米、アルゼンチン、チリ、ウルグアイの9カ国・地域別に分析結果を紹介し、最後の第3部で結論を示しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。