鉱業の労働安全衛生

ウクライナの鉱山事故防止を手助けするILO

 ウクライナは鉱山における労働災害発生率が高い国の一つです。そこでILOは。鉱山労働者を対象にこの産業における災害防止に向けた研修を実施しています。

ウクライナの鉱山内における労働安全衛生研修模様 © Ihor Yosypiv

 ウクライナ経済はいまだに石炭生産に依存するところが大きいものの、鉱業施設の老朽化とソビエト時代に遡る安全体制によって、石炭を始めとした採掘産業は労働安全衛生上の大きな課題に直面しています。2017年のウクライナの業務関連災害件数の18.9%を占め、負傷者は936人、死亡者も33人に上る鉱業は、同国で最も危険な産業です。高品質の石炭の産出割合が最も高かったドネツクとルハンスクの両地域の一部を失ったことは問題をさらに悪化させています。

 そこで、地下炭坑及び金属鉱その他の採掘産業の労働安全衛生事情の改善を目指すILOの研修プロジェクトの一環として、最近、ドニプロとリビウの両地域の鉱山をILOの専門家らが訪れ、ウクライナ全土から集まった鉱山労働者に安全衛生基準とリスク管理の研修を提供しました。研修のユニークな点は、鉱山内で実践研修が行われたことです。この研修から、産業発展の不均衡さや労働者の保護水準における大きな格差が明らかになりました。

 金属鉱及び非金属鉱物企業を対象とした3日間の基礎鉱業安全研修の最初のものは、鉱床に囲まれた工業都市のクリヴィー・リフで行われました。研修が行われた部屋にはぎゅうぎゅう詰めになるまで人が押し寄せ、地元のテレビ局もゴールデンアワーのニュースで取り上げました。

 研修には廣瀬賢一社会的保護上級専門官をはじめとした4人のILO専門家が当たり、多くの国で予防文化の構築に成功してきた、リスク評価手法に基づく労働安全衛生マネジメントシステムの利点を説明しました。これは事故の因果関係を逆転させ、まず潜在的な事故原因を特定し、将来的な事故の発生を回避する実践的な措置を講じるという考えです。

 研修2日目には30人の参加者に最初の課題が与えられました。指導員の監督下で、地下1,420メートルのところで金属鉱石の採掘が行われているユビリェイナ鉱山のハザードを特定し、リスクを評価するというものです。実習後、参加者は坑内で見いだされたハザードやリスクを行動が優先される順に順位付けした報告書を提出し、それぞれについて実践的な予防解決策を提案するよう求められました。実習に参加した州労働局のローマン・チェルネハ局長は、ILOのプロジェクトについて、「リスク評価を行い、業務関連災害を防止する技能を基礎として、命を救い、健康を促進しつつ、労働者の生産潜在力を維持する」として、その重要性を強調しました。

 ポーランド出身のアレクサンドラ・コテラス専門家は、ポーランドの実験鉱山内で撮影されたメタンガスと石炭粉塵の爆発によって坑内に命に関わるような激しい炎が燃えさかる状況を映したビデオを上映しました。

 フィンランド出身のヴィーキング・フスベルグ専門家は保安ルールを守らない労働者についての質問に答え、フィンランドでは機械も設備も職場も誤用の可能性を考慮に入れた形で設計されていることを紹介しました。そして、フィンランドでもリスク評価に基づく労働安全衛生システムの構築を始めたものの、まだそこまで至っていない状況を説明し、物事を1日で変えることはできないものの、どこかの時点で始めなくてはいけないと説きました。また、フィンランドでは予防文化の構築に40年を費やしたことや労働者の態度を変えるカギを握るのは処罰よりもやる気である点を強調しました。ウクライナのエネルギー・石炭省のイゴール・ヤスチェンコ労働者保護・産業保護・市民保護局長もこの考えを強く支持しました。

 ウクライナもリスク指向システムに変える準備を整え、国際労働基準、とりわけILOの「2006年の職業上の安全及び健康促進枠組条約(第187号)」や欧州連合指令に沿って国内法制の調整を図るといったようにこのプロセスを始動させました。これらを実践に変えるため、政府は現在新たに「労働安全衛生マネジメントシステム改革概念」令と行動計画の準備を進めています。

 研修参加者は現在、ILOの研修で学んだことの実践に努めており、7月に再び会合して歩みを評価し、他国の専門家から再び指導を受け得る分野を特定することが予定されています。


 以上は2018年7月9日付のキエフ発英文広報記事の抄訳です。