第19回ILO米州地域会議

第19回ILO米州地域会議:仕事の過去、現在、未来が交錯

記者発表 | 2018/09/28
第19回米州地域会議(於チリのサンティアゴ)

 ILOでは、アジア太平洋、米州、アフリカ、欧州の順で、原則として年に1つずつ、4年に一度の間隔で地域会議が開催されています。米州地域のILO加盟国35カ国から政府、使用者、労働者の代表計約400人が出席して、来る10月2~5日にパナマ市で開かれる第19回米州地域会議は、ILOと中南米の長い歴史における新たな一章の幕開けと言えます。2019年のILO創立100周年に合わせ、会議の主なテーマの一つは仕事の未来とそれが地域にもたらす課題です。

 会議の討議資料として準備された事務局長報告は「この地域では未来に関する議論においては、過去から引きずってきている構造的な問題も考慮に入れなくてはならない」と記して、地域会議における過去と未来の接合に光を当てています。

 19回を数える米州地域会議ですが、ILOの歴史上初めての地域会議も米州で開かれました。1936年に19カ国から104人の代表・顧問の出席を得てチリのサンティアゴにおいて国会で開かれた第1回米州会議にはチリ大統領も出席して開会の辞を述べました。

 第一次世界大戦後の1919年にILOが創設された時の創設メンバーには中南米諸国が16カ国含まれています。1925年6月30日から9月7日までアルベール・トーマILO初代事務局長は長大な南米視察を行い、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチン、チリを訪れました。1925年のILOの定期刊行物『International labour review(国際労働評論)』誌に掲載された論文は、「これらの国の政府と世論に直接触れること」への事務局長の関心を明らかにしています。これには当時まで1本の条約も批准していなかった南米諸国から最初の批准を獲得したいとの事務局長の思惑もあったように思われます。

 1936年に開かれた最初の地域会議は米州諸国との関係強化を意図したものでした。会議の報告書によれば、「これらの国が特別の貢献を行い得る事項あるいは特別に関心のある問題について話し合う」場の形成を目的としていました。サンティアゴ会議で採択された決議の実施のためにとられた行動に関する報告書は、地域会議が「米州の社会問題事情を確定する助けになった」点を強調しています。地域会議では20本以上の決議が採択されました。そのうち最も重要なのは社会保障や女性の労働条件、児童労働に関するもので、他に、雇用条件や労働法制、生活・採用条件、農村労働、移民、栄養、先住民の状況に関するものも採択されました。

 1936年の『Monthly labour review(月刊労働評論)』誌に掲載された米国労働省の文書は、当時のハロルド・バトラーILO事務局長が閉会の辞で「ここで私たちが達成した成功は、これを最後の米州会議とすべきではないことを要請する最善の指標であるべき」として、「米州会議に類似した会議をもっと開くべき」と述べたことを伝えています。

 続く会議は、ハバナ(1939、1956年)、メキシコシティ(1946、1974年)、モンテビデオ(1949年)、ペトロポリス(1952年)、ブエノスアイレス(1961年)、オタワ(1966年)、カラカス(1970年)、メデジン(1974年)、モントリオール(1986年)、カラバジェーダ(1992年)、ブラジリア(2006年)、サンティアゴ(2010年)、リマ(1999、2002、2014年)の各地で開かれました。

 第19回米州地域会議に提出される事務局長報告は、地域には失業や非公式(インフォーマル)労働といった労働市場に関連した構造的な問題に加え、技術変革、人口構造の変化、気候変動、新たな採用・生産形態などといった仕事の未来に関連したその他の問題も存在することを指摘した上で、「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の探求を強めることの重要性」に光を当てています。そして、「こういった難しく、なおも非常に複雑なシナリオに直面することによって初めて、米州社会は私たちの望む仕事の未来を形成することが出来るでしょう」と結んでいます。

写真で振り返る米州におけるILO100年の軌跡(英/西語・13分45秒)

◎中南米・カリブの仕事の未来の課題を話し合う地域会議間もなく開催:ILO中南米・カリブ総局長に聞く

ホセ・マヌエル・サラサール=シリナチスILO中南米・カリブ総局長

 4年前に開かれた前回の会議の直後の2015年に中南米・カリブ総局長に就任したホセ・マヌエル・サラサール=シリナチス総局長にとっては今回が初めての地域会議になります。会議を前に、地域会議の内容や地域におけるILOの活動について話を聞きました。

 2019年のILO創立100周年が迫っていること、複雑な地域事情を挙げて、総局長は今回の会議の特別の重要性を強調し、この地域が直面している主な課題に取り組むことを地域の指導者に呼びかける主要な文書が会議で採択されることへの期待を要旨以下のように語っています。

 総局長は就任時に、2014年の第18回米州地域会議で採択されたリマ宣言に基づき、地域の主な活動優先事項を三つ定めました。一つ目はILOに付託された任務の一つである雇用と「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の目標8に当たる「持続的かつ包摂的で持続可能な経済成長、生産的な完全雇用、すべての人のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の促進」に関連したものとして、包摂的な成長とより多くのより良い仕事のための生産的な開発政策です。二つ目は非公式(インフォーマル)経済から公式(フォーマル)経済への移行の促進、三つ目は就労に係わる基本的な原則と権利の尊重促進です。地域総局はこれらの優先事項に沿って、域内諸国の政府及び労使の社会的パートナーと協働し、経済・雇用面の課題に全面的に取り組み、労働者の権利の尊重を促進し、生産的な開発政策と良質の雇用を支援してきました。

 2014年に既に地平に湧き上がっていた黒雲と景気減速の兆候は嵐につながり、2015、16年に地域の社会・労働市場指標に深刻な影響を与えました。

 中南米・カリブ地域は、中南米とカリブ海地域という異なる特徴を持つ二つの小地域で構成されていますが、共通の課題も多数存在します。まず、どちらも中所得国で構成され、貧しい脆弱な人々も多いため、議論の多くがいわゆる「中所得の罠」に焦点を当てて展開されています。この地域はまた、識字率もインターネット普及率も高く、期待が高い地域であるとも言えます。しかし、労働市場には大きな格差が存在し、差別問題も大きく、失業率も相変わらず高く、「失われた世代」と呼ばれる若者を中心に約2,600万人の無業者が存在します。不平等度は世界一高く、域内全体で就業者の47%が従事すると見られるインフォーマル経済が主要な構造的課題であり続けています。

 就業者全体の平均28%ずつが従事する自営業者と零細企業従業員の割合が高く、ディーセント・ワークの欠如の大半がここに集中しています。中・大企業で働く人は全体の2割を下回っています。ある程度の進展は見られるものの、男女賃金格差は大きく、女性の労働市場参加を阻む壁も存在します。

 地域特有の課題として、いくつかの国では人口のかなりの割合を占め、数世紀にわたって差別と排除を経験してきた先住民とアフリカ系住民のニーズに対処するという問題もあります。

 こういったすべての分野でILOは政府と社会的パートナーを一堂に会する社会対話や政労使三者構成原則を育むよう努力しています。しかし、公共政策が必ずしも職場における社会対話に必要な政治的支援を提供していないことや、根深い不平等感・不満感の存在、不正義感や機会不足の意識、しばしば見られる政府に対する信頼感あるいは労使間の信頼感の欠如などを理由として、対話には困難がつきものです。中南米では置き去りにされる人が多いものの、しばしば進歩の大きな障害として政治、つまり、イデオロギーの対立と弱い制度機構という有害な組み合わせを特徴とすることが多く、最近の汚職スキャンダルで状況がさらに悪化している政治の存在が指摘されており、こういった社会の分裂と政治的対立が進歩を妨げる悪循環または最悪の状況を構成する要素を提供しています。

 このような中でILOが果たし得る主な貢献の一つは、問題並びに集団的な行動及び解決策についてのビジョンの共有を育むことであると言えます。ILOの基準適用監視機構に提起される国際労働基準違反の申立ては中南米地域からのものが最も多く、これは必ずしも状況が最悪であることを意味するわけではないものの、紛争解決戦略に取り組む必要があることを示唆しています。

 100周年に向けて事務局長が開始した記念事業、とりわけ仕事の未来に関するイニシアチブはILOにとっての触媒的な役割を演じており、ILOは仕事の未来に関して話し合い、これに備える世界的な動きの中心に位置しています。これが単なる科学技術に関する会話に留まらず、より良い未来に向けた歩の進め方、20世紀の悪しき遺産を克服する方法に関する会話になることが必要不可欠です。最も重要なこととして、未来の課題を予測する必要もあります。

 ILOは私たちが直面している社会・経済問題をかなりよく診断していると思われますが、この問題に対する取り組みが成功するか否かは政策策定に携わる人々や社会的パートナーがイデオロギーその他の違いを乗り越え、集団として機能・行動し、そしてさらに仕事の世界の変化の多くは生産世界の進歩に左右されるであろうため、財務・税務・生産分野の省庁や機関と共通の政策を構築し、協働できるか否かにかかっています。だからこそ政労使間の社会対話とは、所得や富の分配を交渉する場に留まらず、より多くの所得とより多くの富を形成し、解決策を特定し、これが一緒に実行されるよう確保する協力体制のことを指すのです。単なる労働問題に関する対話の場の形成に留まらず、今こそ社会対話を生産的な変容や生産性成長に関する対話のような全国的及び地域的な重要性を帯びた他の分野に広げるべき時なのです。


 以上は次の2点の英文広報資料の抄訳です。