国際高齢者デー(10月1日)

ILO新刊:年金制度の適用拡大については世界的に進展が見られるものの、支給額は依然として低い

記者発表 | 2018/09/27

 10月1日の国際高齢者デーを前に発表されたILOの新刊書は、世界全体で高齢者の68%が年金を受給しているものの、給付水準は依然として不十分と指摘しています。ILO社会的保護局の社会的保護政策文書シリーズ第17号として発表された『Social protection for older persons: Policy trends and statistics 2017-19(高齢者の社会的保護:2017~19年の政策動向と統計・英語)』と題する報告書は、日本を含む世界192カ国の最近の政策と動向を分析し、途上国では年金制度の対象拡大に関し、大幅な進展が見られることを示しています。アルゼンチン、ベラルーシ、ボリビアボツワナカーボベルデ中国ジョージア、キルギスタン、レソトモルディブ、モーリシャス、モンゴル、ナミビア、セーシェル、南アフリカ、スワジランド、東チモールトリニダード・トバゴウクライナ、ウズベキスタン、ザンジバル(タンザニア)といった幅広い国で主として社会保険と基礎的社会的扶助の組み合わせを通じてすべての民への適用が達成されています。アルメニア、アゼルバイジャン、ブラジル、チリ、カザフスタン、タイ、ウルグアイといった国でもこの目標の達成に近づいています。

 しかしながら、低所得国のほとんどの高齢者にとって社会的保護の権利はまだ現実のものとなっておらず、定年に達しても年金受給者が2割を切っている国が多く、こういった国では高齢者の相当部分がなおも主に家族の支援に頼っています。ILOの基準も国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」もとりわけそのターゲット1.3を通じてすべての高齢者を対象とした全国的な社会的保護制度の実施を求めていますが、報告書を制作したILO社会的保護局のイサベル・オルティス局長は報告書がこの重要な目標の達成に向けた行動を呼びかけている点に注意を喚起しています。

 成熟した社会的保護制度を備え、人口の高齢化が見られる高所得国の主な課題は年金制度の財政的持続可能性と十分な年金額のバランスを保つことです。オルティス局長は、いくつかの国で最近実施された緊縮政策や財政強化策が社会に与える否定的な影響を十分に考慮せずに財政目的だけで進められ、社会保障の最低基準の満足を危険にさらし、社会契約をむしばむといったように給付の充足性に影響を与え、結果として多くの経済協力開発機構(OECD)諸国で高齢者の貧困問題が増加する事態が引き起こされていることを指摘しています。

 報告書の中心的な著者であるILO社会的保護局公共財政・保険数理・統計業務部のファビオ・ドゥラン=バルベルデ部長が「年金制度改革を始める国は年金制度の目的を達成するために持続可能性目標と年金給付の最適バランスを見つける必要がある」と指摘するように、報告書はバランスをとった形で社会保障改革を設計するよう提案しています。

 世界の年金制度を眺めると、連帯と集団拠出の原則に基づく公的制度の方が高齢者の保護形態としてはるかに普及していることが見て取れます。報告書によれば、30カ国あまりで実施された年金民営化政策は適用対象の拡大や給付の引き上げにつながらず、男女不平等と財政状況が悪化し、体系的なリスクの個人移転が行われるといったように期待された結果を出さなかったため、ほとんどが民営化を放棄して連帯性を基盤とした公的制度に復帰しつつあるとされます。オルティス局長は、「給付水準の上昇や適用範囲の拡大、財政費用の削減など、年金の民営化は多くの約束を示したものの、民営化された制度が幅広く成績不振に陥ったことが公的制度への転換が見られる理由」と説明しています。

 ILOはまた、年金制度設計や政策選択肢、給付の適切性、統計、動画による指導、国別研究などに関する主なツールを提供するオンライン年金入門ツールボックスや、非拠出型の社会的年金の経費を推計できる社会的保護の土台計算システムを開発しました。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。