ILO新刊:中南米の社会保障

ILO新刊:中南米では労働者の半数以上が拠出型社会保障の対象外

記者発表 | 2018/07/27
報告書を発表するサラサール=シリナチスILO中南米・カリブ総局長

 非公式(インフォーマル)経済の存在が大きい中南米では、労働者の半数以上が拠出型社会保障制度の対象の外に存在し、疾病や失業、老齢といったリスクに対して保護されていない現状をこのたび発表されたILOの新刊書は明らかにしています。ILOの年次刊行物『Panorama Laboral(労働概観・西語)』のテーマ別シリーズ4号として刊行された『Presente y futuro de la protección social en América Latina y el Caribe(中南米・カリブにおける社会的保護の現在と未来・西語)』は、地域の現在の制度は岐路に立っており、適用者数の増加、給付水準の引き上げ、制度の持続可能性を保障する能力の強化が必要と指摘し、現在のみならず将来予想される適用ギャップを縮小するための決然とした行動の必要性を説いています。

 2018年7月25日にメキシコシティで報告書を発表したホセ・マヌエル・サラサール=シリナチスILO中南米・カリブ総局長は、本人及び家族の将来に影響を与える可能性がある人口の高齢化が進むこの地域で、社会保障に拠出していない労働者が約1億4,500万人に上る事実を指摘した上で、疑いようのない進展が近年見られることを認めつつも、いまだに存在する大きな適用ギャップに早急に対処する必要性を強調しました。

 本書は、老齢年金から失業保険、医療保健や子どものいる世帯への所得を保障する現金給付など、拠出型・非拠出型合わせて幅広い種類の給付を分析し、就労記録に基づく拠出型年金制度の加入率は2005年の36.6%から2015年の44.6%へと上昇を示しているものの、これは一方で地域の就労人口の55%が一度も拠出したことがない事実を明らかにすると記しています。拠出型年金の加入率は産業部門や地域による違いが大きく、公務員(8割)や民間企業の従業員(62.5%)は保護されているのに対し、自営業者(15%)や家事労働者(26.6%)では加入率が非常に低くなっています。ブラジルを含む南米南部地域の加入率は際だって高く58.6%に達するのに対し、アンデス諸国では31.4%、メキシコを含む中米地域では31.2%に過ぎません。就業者の半分以上が拠出型社会的保護制度に加入しているのは調査サンプルに含まれる16カ国中わずか6カ国です。2005~15年の期間には女性の加入率が男性よりも伸びて2015年に45.3%に達しました(男性は44.2%)。

 サラサール=シリナチス総局長は、「社会的保護は経済発展・社会開発の基本的な構成要素の一つであり、貧困や不平等と闘う上でのカギを握る」ことを強調した上で、仕事の未来によって生み出された不確実性に対処するためにも地域の欠陥を縮小する緊急の措置を呼びかけました。そして、中南米・カリブでは就労者の半分程度がインフォーマル経済で働いており、そういった人々はほとんどが拠出を行わないため、非公式性の高さが伝統的な社会的保護制度の参加率に直接影響を与えていることを指摘しています。

 報告書は、不平等が広がりつつある中南米で、労働市場から社会保障へと相当の不平等が移行しつつある状況に注意を喚起し、経済の公式化や保健分野における最低限の社会的保護の確保、各種社会的保護政策間の調整の改善など、域内の社会的保護制度の改革に係わる政労使の行動と議論を導く10項目のポイントを示しています。


 以上はメキシコシティ発英文記者発表の抄訳です。