ILO新刊:ケア

ILO新刊:差し迫る世界的なケア危機を防止する緊急の行動が必要

記者発表 | 2018/06/28
報告書の内容を2分で紹介(英語)

 介護、育児といったケアを必要とする人の数は2015年に21億人(15歳未満の児童19億人+高齢者2億人)を数えましたが、2030年までに2億人(うち1億人が高齢者)増えて23億人に達すると予想されます。世界の生産年齢人口の3分の2に当たる64カ国のデータによれば、無償のケア労働に費やされている時間の総計は1日当たり164億時間に達し、1日8時間労働に換算すると20億人が無償で働いているのに相当します。このサービスを最低賃金時間額で評価したとすれば、世界全体の国内総生産(GDP)の9%に相当する11兆ドル(2011年の購買力平価建て)に上ると見られます。日本の無償ケア労働の価値もGDPの18.7%に相当すると推定されます。

 本日発表されたILOの新刊書『Care work and care jobs for the future of decent work(ディーセント・ワークの未来に向けたケア労働と職業としてのケア・英語)』は、差し迫る世界的なケア危機を避けるにはケア経済に対する投資を倍増させる必要があるとして、2030年までに教育、保健、ソーシャルワークといった分野への投資倍増によって新たに約2億6,900万人分の雇用が創出される可能性を示しています。

 無償のケア労働の大半を女性が担っています。無償のケア労働に費やされる合計時間の4分の3を上回る76.2%が女性によるもので、男性の3倍を超えています。日本を含み過去20年間で無償のケア労働に対する男性の貢献度が上がってきた国はありますが、そのようなデータが得られる23カ国の平均で見たこの20年間に縮小した男女間格差は1日当たりわずか7分であり、報告書をまとめたILOジェンダー・平等・多様性・HIV/エイズと仕事の世界部のショウナ・オルネイ部長は、「このペースでは、これらの国で男女格差が解消するには210年かかる」として、「この遅々とした変化速度は、過去20年間にわたる無償のケア労働の規模と役割分離に取り組んできたこれまでの政策の実効性を疑わせる」と指摘しています。

 女性が労働力に加わり、留まり、進んでいくのを妨げる主な障壁は無償のケア労働です。2018年現在、そのように回答する非労働力の女性は6億600万人に上るのに対し、男性はわずか4,100万人に留まっています。2017年に出されたILOとギャラップ社の共同刊行物は、非労働力を含む大半の女性が有償の仕事に就くことを望み、男性もそれに同意していることや、有償の仕事に就く女性にとっての最大の課題は仕事と家庭の両立及び手頃な料金のケアサービスの欠如であると男女共に認識していることを示しました。

 ケア労働者は今日、世界全体で合計3億8,100万人(女性2億4,900万人+男性1億3,200万人)と推定されます。大半が女性であり、移民であることも多く、しばしば非公式(インフォーマル)経済において低賃金かつ劣悪な労働条件下で働いています。

 報告書が見いだした事項には、他に次のようなものがあります。

  • 「就業におけるハンディキャップ」が最も大きいのは、6歳未満の子どもがいる女性で、就業率はわずか47.6%。
  • 無償のケアの担い手は「雇用の質におけるハンディキャップ」にも直面しており、6歳未満の子どもがいる女性が有償労働に従事する時間は週当たり1時間近く短くなるのに対し、同じ立場の男性の有償労働従事時間は週当たり18分長くなります。
  • ケア責任を担う女性は自営業者となってインフォーマル経済で働く可能性が高く、社会保障費を拠出する可能性は低くなります。
  • 有償労働と無償のケア労働という男女役割分離に対する姿勢は変わりつつあるものの、女性は家族の世話をする役割を担い、男性が一家の稼ぎ手であるという家族モデルが依然として社会に深く根付いています。
  • 2016年当時、ILOの「2000年の母性保護条約(第183号)」の規定する有給産前産後休暇の最低基準を満たしていたのはデータが得られる184カ国のわずか42%。有給・無給を問わず父親についての法定休暇が全く存在しない国は39%。
  • 2015年の世界平均で3歳未満児の幼児教育総在籍率はわずか18.3%、3~6歳児でも57%弱。
  • アフリカ、中南米、アジアのほとんどの国で介護サービスはほぼ皆無。

 報告書は政策の全面的な変更によってケアに対するニーズの増加とケア責任の分担における大きな男女格差に取り組むことを提案し、45カ国のシミュレーションモデルで見た、ケアに対するニーズをすべて満足するようなケア労働に正しく取り組む道を進めば、2030年までに合計就業者4億7,500万人のケア経済が生み出されるとの予想を示しています。ケアサービスの提供に対する官民合わせた合計支出額は、45カ国の予想されるGDP合計の18.3%に当たる18.4兆ドルに上ると見られますが、このような投資は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のうち、すべての人への保健医療を掲げるSDG3、万民に対する教育を掲げるSDG4、男女平等を掲げるSDG5、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と経済成長の達成を目指すSDG8といった四つの目標の複数のターゲットの達成に寄与すると思われます。

対GDP比で見た無償のケア労働の価値(2011年購買力平価米国ドル建て、最新年、%、報告書英語版50ページより)

 報告書の中心的な著者であるラウラ・アダチ母性保護・仕事と家庭の両立専門官は、世界的に顕著な核家族と片親世帯の存在に加えて、一部の国で見られる女性雇用者の増加は、ケア労働者に対する需要を増加させることを指摘して、適正に対処しなければ、現在見られるケア労働とその質における不足が持続可能でない深刻な世界的ケア危機を生じさせ、仕事の世界における男女不平等をさらに拡大させる危険性に注意を喚起しています。そして、ケア労働にとっての正しい取り組みとは、「無償のケア労働の認識、削減、再分配、そして家事労働者や移民労働者を含むケア労働者のディーセント・ワークの達成」を意味するとし、職業としてのケアの質の低さがケア労働の質の低さにつながる可能性を挙げ、ケア、マクロ経済、社会的保護、労働、人の移動の各政策における全面的な変更が要請されると指摘しています。

 500ページ近い大部の本書は、日本を含む各国の豊富なデータを用いてケア労働の実態を示した上で、ケア経済を労働市場分析・政策に組み込んだ場合の課題と機会を分析しています。第1章「ケア労働と職業としてのケア:その実態とそれが重要な理由」でケア労働の実態を示した後、第2章「無償のケア労働と就労に係わる男女不平等」で無償のケア労働が仕事の世界における男女不平等に与えている影響を取り上げ、第3章「ケア政策と無償のケア労働」で世界のケア政策を概観しています。次に、第4章「ケア労働者と雇用としてのケア」でケア職業の状況を示し、第5章「より良い仕事の未来に向けた職業としてのケア」で将来的な雇用創出におけるケア経済の役割を分析し、第6章「ディーセント・ワークの未来に向けたケアに対する正しい取り組み」でより良いケア労働のための政策を提案しています。付録として、ケア関連の国際労働基準の概説に加え、世帯種別生産年齢人口、従属人口比率、無償のケア労働と有償労働に費やされている時間、無償のケア提供者・有償ケア労働者の規模、ケアサービスの提供に必要な経費など豊富な国別データが掲載されています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。