パキスタンの災害補償

2012年のアリ・エンタープライジズ社工場火災被害者に追加補償

記者発表 | 2018/05/20
2012年9月11日にカラチで発生したアリ社の衣料品工場の火災は多数の死傷者を出す大惨事となりました © Asif Hassan/AFP

 2012年9月11日にパキスタンのカラチで発生したアリ・エンタープライジズ社衣料品工場の火災は死者255人以上、負傷者57人を出し、同国史上最も深刻な産業災害と見られています。この悲劇から5年以上が経過しましたが、このたび、被害者及び遺族に定期金の支払いが開始されることになりました。

 この資金は同社の主な取引先であったドイツの小売業者キック・テクスティリエン社から拠出されました。キック社は2012年12月にも100万ドルの緊急補償金を支払い、これは地元の法規定に基づく公的社会保障制度からの支払額に上乗せして、地元シンド州の高等裁判所を通じて特定された犠牲者の遺族に分配されました。同社はさらに2016年9月、ILOの業務災害給付条約(第121号)の最低限の要件に沿った定期給付を確保する長期補償用資金として515万ドルの追加支払いに同意し、火災によって障害を負った被害者を含む追加受給者の補償権の確立を進めてきましたが、今年1月、受給者種別の支払い方法について当事者間での合意が達成されました。

2018年5月19日にカラチで開かれたアリ社工場火災受給者への長期補償支給開始記念式典

 2018年5月19日にカラチで開かれた式典には、受給者に加え、話し合いの促進を図ってきたILO、パキスタン及びドイツの両国政府、シンド州、使用者、労働組合、市民団体といった全当事者の代表が、シンド州のサイド・ナシル・フセイン・シャー労働・人的資源大臣の主宰の下、参集しました。

 ドイツのゲルト・ミュラー開発大臣は、「アリ・エンタープライジズ社の件は、グローバル繊維部門で社会・労働基準が実施されることの重要性を劇的に思い起こさせるもの」と評し、事件から5年以上が経過したものの、被害者がようやく補償を受けられることに喜びを表明し、市民社会と産業の間の調停人として「持続可能な繊維パートナーシップ」が果たした重要な役割を評価しました。ILOパキスタン国別事務所のイングリッド・クリステンセン所長は、悲劇とその後の事態がバリューチェーン(価値連鎖)の底辺にいるパキスタンの労働者を保護することの重要性に光を当てたことに注意を喚起した上で、これは「職場における安全措置と災害時の労働者及びその家族に対する十分な補償の権利」を意味するものと説明し、この複雑な問題の解決が示したもう一つの事項として、「技術的専門知識と社会対話を基盤とした強固で継続的な対話の重要性」を挙げました。ILOが現在、ドイツ国際協力公社(GIZ)経由でドイツ経済協力省(BMZ)から任意資金協力を受けてシンド被用者社会保障機関(SESSI)に提供している、2012年の火災の被害者に対する生涯給付の提供と制度・機構能力強化のための技術支援は今後1~2年間、継続します。

 追加補償の受給者を含む地元の利害関係者は、パキスタンの労働者の福祉を今後保護する先例になると思われるこの手続きに満足を示しています。


 以上はカラチ発英文記者発表の抄訳です。