ILO新刊:世界の就業者の6割以上が非公式経済に従事、日本も約2割

記者発表 | 2018/04/30

 このたび発表されたILOの新刊書『Women and men in the informal economy: A statistical picture(統計から見る非公式経済で働く人々の姿・英語)』は、世界の就業者の61%以上に当たる20億人あまりが非公式(インフォーマル)経済で生計を立てていることを示しています。この大半が社会的保護や就労に係わる権利、人間らしく働きがいのある労働条件を欠いています。報告書はこういった人々の公式(フォーマル)経済への移行を「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を全ての人」に実現する条件の一つと強調しています。

 途上国と新興国が中心だった2002年の初版、2012年の第2版に続く第3版となる本書は、2015年のILO総会における「非公式な経済から公式な経済への移行勧告(第204号)」の採択と非公式就業に関する統計指標(8.3.1)が持続可能な開発目標(SDGs)に含まれたことを受け、初めて日本など先進国も含む世界100カ国以上の非公式経済の規模を推定し、共通の測定尺度を用いて国際比較を行っています。第204号勧告では、非公式経済とは、「法令上又は慣行上、公式の取決めの適用を受けていない又は十分に適用を受けていない労働者及び経済単位による全ての経済活動(不正な活動は含まない)」と定義されています。本書では、主として小規模非法人組織からなる非公式部門における就業者に加え、もっぱら自家消費のための生産を行う世帯の構成員と、公式部門で働いていても労働法令や社会保障などが適用されていない臨時労働者などの非公式就業者を非公式経済の就業者としています。

 地域別で見ると、アフリカでは就業者の85.8%、アジア太平洋では68.2%、アラブ諸国では68.6%、米州では40%、欧州・中央アジアでは25.1%が非公式経済の就業者と見られます。非公式経済就業者の93%が途上国・新興国で暮らしていますが、日本でも先進国平均(18.3%)とほぼ等しい18.7%が非公式経済で生計を得ていると見られます。

 全体で見ると非公式経済就業者は女性(58.1%)よりも男性(63%)が多く、女性は7億4,000万人強に過ぎませんが、女性の方が最も脆弱な状況に多く見られ、低所得国及び下位中所得国のほとんどで女性の非公式経済就業率の方が高くなっています。日本の場合は男女差がほとんど見られません(男性は18.9%、女性は18.4%)。

 教育水準は経済の非公式率に影響を与える重要な要素であり、世界的に見ると、教育水準の上昇に反比例して非公式経済率は低くなり、中等・高等教育修了者の非公式経済就業率は無学歴者または初等教育修了者より低くなっています。産業別で見ると、農業が最も高く、非公式経済率は推定9割以上に達しており、農業を除くと、非公式経済就業者は就業者全体の半分程度に低下します。また、農村部の非公式経済就業率は都市部の約2倍に達しています。

 ILOの雇用政策局包摂的労働市場・労働関係・労働条件部、統計局の協働成果物である本書の著者らは、非公式経済就業者が全て貧しいわけではないものの、貧困は非公式経済の原因でもあり結果でもあると指摘しています。3人の共同著者の1人である雇用政策局開発投資部のビッキー・レウン技術専門官は、報告書が示すこととして、「貧しい人の方が非公式就業率が高く、非公式経済就業者の方が貧困率が高い」ことを指摘しています。別の著者である包摂的労働市場・労働関係・労働条件部のフローレンス・ボネ労働市場専門官は、「非公式経済は労働者にとっては社会的保護や就労に係わる権利、人間らしく働きがいのある労働条件の欠如を、企業にとっては低生産性と資金調達機会の欠如を意味するものであるため、非公式経済の問題に緊急に取り組む必要があります」と唱え、状況やニーズの多様性に合わせた適切かつ総合的な政策を設計する上でもデータが決定的に重要であることを指摘しています。ラファエル・ディエス・デ・メディナ統計局長は、非公式経済率の高さは労働者、企業、社会に多様な悪影響を及ぼし、とりわけ、持続可能で包摂的な開発と全ての人のディーセント・ワークの実現を阻む大きな課題であることを挙げ、「とりわけ各国から得られる比較可能なデータが増えたおかげで、今はSDG指標枠組みに含まれているこの重要な側面を測定できるようになったことは、この問題に対する取り組みに向けた優れた一歩と見ることができます」と評価しています。

 第204号勧告は労働者及び経済単位の公式経済移行の円滑化、公式経済における企業及び人間らしく働きがいのある仕事の創出、維持、持続可能性の促進、公式経済における仕事の非公式化の防止の必要性を強調しています。

 4章構成の本書は、第1章「非公式経済から公式経済への移行の円滑化を目的とした非公式経済の測定」で、非公式経済に関する統計がこの分野の政策策定の重要な要素に含まれるようになった経緯や方法論などを解説した後、第2章「非公式経済に関する統計の概観」で、産業や年齢、教育水準、性など、様々な切り口から世界全体及び地域別の非公式経済の特徴を記し、第3章「非公式経済のテーマ別分析」で、経済発展・社会開発水準や貧困、教育水準、労働時間などの労働条件の諸側面から非公式経済を分析し、第4章「見いだされた主な事項」で全体を要約しています。報告書には、性・産業・従業上の地位、都市・農村別に非公式経済の規模を世界全体及び地域・国別で示す豊富な統計データが含まれています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。