救急公務のディーセント・ワーク

救急公務におけるディーセント・ワークを確保する新たなILO指針を専門家会合で採択

記者発表 | 2018/04/20

 ますます複雑化し頻度も高くなっている非常事態への対応に当たり、救急業務に携わる人々はしばしば極めて困難な状況にさらされています。ILOは2003年に救急公務の社会対話に関する指針を採択していますが、2018年4月16日からジュネーブのILO本部で1週間にわたって開かれた専門家会議において、これを改定すると共に、紛争及び災害から生じた危機的状況に対応して講じられた雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に係わるあらゆる措置を扱う「2017年の平和と強靱性のための雇用とディーセント・ワーク勧告(第205号、日本語名は仮訳)」を補足するものとして、新たに救急公務におけるディーセント・ワークに関する指針が採択されました。ブラジル、フランス、ヨルダン、フィリピン、シエラレオネなど8カ国の政府に加え、労使各側の専門家計24人が出席した会合では、疫病や異常気象、産業災害、紛争、テロリストの攻撃などといった救急公務労働者が直面している災害の幅広さに光が当てられました。

 指針は、承認を求めてILO理事会に提出されますが、警察、消防、救急医療、捜索・救援、その他軍隊や保安・監視業務、爆弾処理班、地元自治体、遺体処理業務、水道・電気供給の回復を担当する業務といった非常時に通常対応を求められる業務、そしてソーシャルワーカーのような関連する専門職の従事者を対象とし、非常事態への備えと災害予防に向けた一貫性のある措置、社会的保護の機会、実効性ある労働監督を促進するものとなっています。

 会議の議長を務めたネパール政府のディーパク・ディタル在ジュネーブ国連常駐代表は、気候変動と関連する災害の激しさが日々増している中、「この日常生活におけるヒーローの労働条件に特別の注意を払うこと」が緊急に要請されてきている状況を指摘しました。会議を主催したILO部門別政策局のアレット・ヴァン・ルール局長は、政労使の対話を通じて策定され、救急公務労働者が直面している多くの課題に取り組む現実的かつ実践的な手引きを提供するツールであるこの指針が、「日々危険を冒して命を救い、非常事態に対応している人々の安全と福祉をILO、加盟国政労使、そのパートナーが改善する助け」になることへの期待を述べました。

 指針は、多くの地域における経済・社会・保安環境の変化が、救急公務の提供及び業務遂行の労働面に対する包括的な取り組みなどを含む救急公務の強化を要請していることを強調し、救急労働者がしばしば大きな危険要因や不規則な長時間労働に直面している状況を指摘し、以下のような措置を提案しています。

  • 救急公務労働者を過度の長時間労働から保護する仕組み
  • 労働時間や休暇の条件などといった労働条件が団体交渉またはそれと機能的に同等の仕組みを通じて決定されること
  • 緊縮財政の影響から救急公務労働者を守る努力
  • 業務関連の傷病・死亡時に適用されるものを含む救急公務労働者とその扶養家族の社会的保護
  • 救急公務労働者とその家族のニーズを満たす最低賃金に対する権利
  • 救急公務労働者に関連する労働安全衛生上の懸念事項には、心身の緊張に加え、瓦礫や漏出危険物質、汚染大気・水、石綿、放射能への暴露、極寒熱暑、建物倒壊、交通事故、落下の危険などが含まれることに鑑み、労働安全衛生基準の遵守

 指針はまた、全ての救急公務労働者への就労に係わる基本的な原則と権利の適用確保、軍の緊急活動などの救急公務における児童労働撤廃に向けた措置の整備、救急公務における強制労働利用の撤廃に向けた政策の追求なども政府に求めています。また、救急対応に従事するボランティアの特別の状況についても注意を払っています。

 会議の参加者は指針の採択を歓迎し、以下のようなコメントを発表しました。

 テレジータ・S・ククエコ政府側副議長は、「これは私たちがとり得る、ほんの小さな一歩に過ぎません。つまり、それぞれの国に持ち帰り、災害を扱う際には、それに直面している人々も扱う点を確保するということです。この文書によって、活動に従事している人々が守られることを期待するものであり、そのための適正な措置の整備を確保するつもりです」と語っています。ポール・マッケイ使用者側副議長は、この指針について、「救急サービスを最もうまく利用する方法、そして実際にそういった業務で働いている人々を保護する方法に関し、各国、組織、政府省庁に実践的な支援を提供するもの」と説明し、「命を危険にさらしているこれらの人々はこの指針が提供する保護と尊敬を受けるに値する」と説いています。デイビッド・ボーイズ労働者側副議長は、「災害準備・対応における責任に関し、構成員を教育し、やる気を高めるような手引き」の必要性を指摘した上で、「この指針の提供によって政府及び救急公務の使用者と共に、真に活動を可能にする環境を形成できます」とその価値を評価しています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。