社会的保護世界報告

ILO定期刊行物最新刊:社会的保護から取り残されている人は世界全体で40億人

記者発表 | 2017/11/29

 このたび発表されたILOの定期刊行物『World Social Protection Report (社会的保護世界報告・英語)』の2017/19年版は、世界中多くの場所で社会的保護の拡大においては相当の進展が達成されたものの、少なくとも一つの社会給付が実効的に適用されている人は世界人口の45%に過ぎないとして、人権としての社会保障への権利がまだ多数の人に実現されていない現状を示しています。報告書によれば、包括的な社会保障を享受している人は世界人口の29%(前回2014/15年の報告書で示された27%よりは微増)に過ぎず、残りの71%に相当する52億人は全くまたは部分的にしか保護されていないとされます。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、社会的保護の欠如は、人々をその生涯を通じて不健康や貧困、不平等、社会的排除に弱い状態に置くことになり、世界中で40億人もの人々にこの人権を否定することは、「経済発展・社会開発を阻む大きな障害」になるとして、社会的保護制度の強化に関し多くの国で相当の前進が達成されたことを認めつつも、「社会的保護への権利がすべての人にとって現実になるよう確保するには、なおも多大な努力が必要」と説いています。

報告書の内容を3分で紹介(英語)

 報告書はすべての人に開かれた社会的保護が、貧困根絶、不平等の縮小、経済成長と社会正義の促進、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与することに光を当て、そのような制度を整備した途上国の数を示し、少なくとも基本的な社会的保護の土台をすべての人に提供するように社会的保護の適用を広げることを目指してこの分野の公的支出を増大させることを、とりわけアフリカ、アジア、アラブ諸国に提案しています。また、非公式(インフォーマル)経済で働く人々を公式(フォーマル)化し、その労働条件を改善する手段の一つとして、これらの人々に社会的保護を広げる必要性を強調しています。しかしながら、イサベル・オルティスILO社会的保護局長は、短期的な緊縮政策が長期的な開発努力を弱め続けており、財政強化のための調整策が社会に相当の否定的影響を与え、SDGsの達成を危うくしている現状を指摘し、最貧国にさえ社会的保護を拡大する財政的な余地が存在することに注意を喚起して、「政府は働きがいのある人間らしい仕事と社会的保護を通じて、先行対策的にSDGsと国の開発を促進するあらゆる可能な財政選択肢を模索すべき」と訴えています。

 報告書は新たなデータを元に、社会的保護の個々の分野について、世界全体及び地域別の状況を記しています。

 子どもを対象にした社会的保護に関しては、社会的保護の機会を実効的に享受しているのは世界の子ども(0~14歳)13億人のわずか35%に過ぎず、アフリカとアジアを中心に全体のほぼ3分の2に保護が及んでいないことや、児童・家族給付の支出額は平均で国内総生産(GDP)の1.1%に過ぎない事実は相当の過小投資を指し示していることを指摘しています。最近、低・中所得国で子ども向け現金給付の適用拡大が見られるものの、依然として適用率も給付水準も不十分な場合が多く、財政強化策の結果として子どもに対する社会的保護を縮小した国さえあります。

 勤労世代の人々に対する社会的保護はなおも限定的で、母性給付の受給者は新たに子どもを出産した女性の41.1%に留まり、失業給付の適用者は失業者の21.8%に過ぎず、世界全体で重度障害者の27.8%しか障害給付を受けていないことが示されています。

 高齢者に対する社会的保護に関しては、中・低所得国の多くで拠出型・非拠出型を問わず、年金制度の拡大が見られることと関連し、世界全体で引退年齢後の高齢者の68%が老齢年金を受給していることが示されています。しかし、地域別のばらつきは大きいものの、高齢者向けの年金その他の給付に関する支出はGDPの平均6.9%を占めてはいても、しばしば緊縮措置が油を注いだ結果として、給付水準は低く、高齢者を貧困から抜け出させるには不十分な場合が多いと報告書は強調しています。また、アルゼンチンやボリビア、ハンガリー、カザフスタン、ポーランドなど、年金の民営化政策が期待された結果を生み出さなかったために公的連帯制度に復帰する国が複数見られます。

 保健医療に関しては、報告書は住民の56%が保護されていない農村地域(都市部の非保護率は22%)を中心に、世界中多くの場所で保健医療への権利がまだ現実になっていない状況を示し、すべての人が保健医療を享受し、エボラ危機のような非常時においても人間の安全保障が確保されるには、保健医療労働者を今より推定1,000万人増やす必要があろうと記しています。介護が必要とされるのは主として高齢者ですが、これを受けられない人は女性を中心になおも世界人口の48%以上に達し、法に基づき国民全体に介護が提供される国に住む人は世界人口の5.6%に過ぎません。そのため、家族の世話のほとんどを非公式に担う女性を中心に、介護の多くが推定5,700万人の無償の「ボランティア労働者」に担われています。したがって、介護サービスに対するさらなる投資は高齢者の貧困問題を緩和し、世界全体で1,360万人と推定される熟練介護労働者不足に対応した数百万人分の雇用が生み出される可能性があります。

 「持続可能な開発目標の達成に向けてすべての人に開かれた社会的保護」を副題に掲げる本書は、社会的保護の適用、給付、公的支出に関する世界全体、地域別、国別データを幅広く掲載し、実効的な社会的保護の適用に関する新たな推定値を示すことによって、「各国が土台を含む適切な社会的保護制度を実施すること」を目指すSDG1.3の指標1.3.1についての2015年の基準値を提供しています。すべての人に社会的保護の機会を開くことに向けて国連でなされたこの公約は、2012年に採択されたILOの「社会的な保護の土台勧告(第202号)」によって達成された社会保障の拡大に関する世界的な合意を再確認するものとなっています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。