第331回ILO理事会

第331回ILO理事会:たばこ産業のディーセント・ワーク不足に取り組む「ILOの総合戦略」を呼びかけ

記者発表 | 2017/11/09

 現在ジュネーブのILO本部で開かれている第331回理事会は、ILOの社会的付託事項の追求におけるたばこ産業との協力に関する議題を審議し、11月9日に「今会期で表明されたすべての見解を考慮に入れ、2018年3月の第332回理事会にたばこ産業のディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)不足に取り組むILOの総合戦略を提出することを事務局長に指示する」決定に至りました。

 これは2013年に国連事務総長によって設けられ、世界保健機関(WHO)の下に置かれている「非感染性疾患の予防と管理に関する国際連合機関間タスクフォース(UNIATF)」が2016年10月にたばこ産業の介入を防止するモデル政策の採用を検討するよう国連諸機関に呼びかけたことを受けて行われたものです。日本も受諾するWHOのたばこ規制枠組み条約に沿ってまとめられたこのモデル政策は、「たばこ産業の商業的その他の既得権益からたばこの管理を保護する取り組みが、国連システム全体を通じて一貫性があり、包括的で実効性があるよう確保する」ことを目的としており、たばこ産業との実際のパートナーシップもしくはパートナーシップと見られるものを一切避け、相互作用を制限することを目指す、拘束力のない措置の例の一覧を示しています。「たばこ産業との関係は国連システムの目的、基本原則、価値に反する」との前提に立ち、モデル政策はすべての国連機関に向けて「自らの高潔さと評判を保ち、開発を促進するに当たり、一体となって活動し、自らの活動とたばこ産業の活動の一貫した実効的な分離を確保すること」を呼びかけています。このモデル政策は2017年6月に国連経済社会理事会で承認されています。

 モデル政策は国連専門機関に対して法的拘束力を持たないものの、国連憲章及び1946年に国連との間で締結した協定に基づき、ILOは国連の勧告を実行するか否か検討する必要があります。また、政策の不採用を決めたとしても、検討結果を経済社会理事会に報告し、非感染性疾患の予防と管理の分野における何らかの活動またはさらなる調整努力に誠意をもって協力する必要があります。逆にモデル政策の実行を決定した場合には、現在あるパートナーシップの否定やたばこ産業によるILOのロゴや名称使用の禁止、共同活動に至る会合の禁止など、直接的な影響があります。

 ILOと加盟国政労使にはタバコ栽培コミュニティーやたばこ産業との関わりの長い歴史があります。アジア、米州、アフリカを中心に約6,000万人が関係するタバコの栽培・加工産業は常にディーセント・ワークの不足に直面してきました。タバコ栽培に関するデータはないものの、世界全体で1億5,200万人と推定される児童労働者の7割以上が農業で見られます。

 ILOは1990年代後半からタバコ栽培における児童労働問題に対する取り組みを支援してきました。これには米国労働省の任意資金協力(2000~06年、2005~08年、2009~13年)を受けて実施されたケニアやマラウイなどアフリカ諸国におけるタバコ栽培、そしてより幅広く商業的農業における児童労働問題に取り組んだプロジェクト、たばこ会社を資金源とするスイス内務省監督下の非営利財団である「タバコ栽培における児童労働撤廃財団(ECLT)」の資金協力を受けて2002年から実施されているインドネシアなどのタバコ栽培における児童労働に関する調査研究支援、ザンビアのタバコ栽培地におけるものを含む欧州委員会の任意資金協力による、教育を通じた児童労働対策TACKLE計画、ブラジルやマラウイなどにおける「教育支援による児童労働削減達成(ARISE)計画」の実施を支援するJT(日本たばこ産業株式会社)インターナショナル社との官民パートナーシップ事業(2011~18年)などがあります。ECLTとの協定は何度か更新され、2015年に締結された最新の協定の期間は2018年6月までとなっています。

 以上のようにたばこ産業からの資金受け取りを即座になくすとILOが産業の資金で活動を運営している多くの共同体に深刻な害が及び、関係する児童の最善の利益にならないことは明らかであるように見えるため、理事会には、1)たばこ産業の影響リスクを防止する防護手段の強化、2)タバコ栽培コミュニティーにおける児童労働撤廃に向けてUNIATF構成機関との強固な関係の構築と社会対話の強化、3)たばこ産業と関係のない非政府行動主体及び政府からの資金動員努力の三つの並行した取り組みを基礎として、タバコ栽培コミュニティーにおけるディーセント・ワークと代替生計手段の追求に向けたILOのたばこ産業との関与戦略が提案されています。


 以上はジュネーブ発英文記者発表及び関連理事会議題資料の抄訳です。