ディーセント・ワークのための規制ネットワーク会合

ディーセント・ワークのための規制ネットワーク第5回会合(ジュネーブ・2017年7月3~5日):仕事の世界の大規模な変容に焦点

記者発表 | 2017/07/03
7月3日にディーセント・ワークのための規制ネットワーク第5回会合の開会式で挨拶するガイ・ライダーILO事務局長(右から2番目)

 ILOはメルボルン大学ロースクール雇用・労働関係法センターなど世界各地の学術機関や政策研究機関と協力して、労働市場の規制をより効果的なものとするような方向に政策と調査研究を前進させることを目指して研究者のネットワークを構築しています。この「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)のための規制(RDW)調査研究ネットワーク事業」は、労働者の権利を経済成長戦略に組み込む調査研究に光を当て、その前進を図り、グローバル化経済において労働者の権利を維持し、前進させるための理にかなった一貫性のある論拠をできるだけ幅広い人々に提供することを目指して隔年で国際会議を開催しています。

 5回目となる2017年の会議は「仕事の未来」をテーマに、7月3~5日にジュネーブのILO本部で開かれます。ILOは現在、2019年の創立100周年に向けて「仕事の未来100周年記念イニシアチブ」と題し、仕事の未来について検討する地球規模の事業を展開しています。世界60カ国以上から400人以上の参加者が見込まれる2017年の会議では、前回2015年の会議で検討された仕事の未来の主な側面に関する議論を継続する形で、「仕事の未来100周年記念イニシアチブ」の会話用テーマである、1)仕事と社会、2)全ての人のためのディーセント・ワーク、3)作業組織・生産組織、4)仕事の統治の四つのテーマを中心に、政策・規制上の対応の可能性を探ります。ケア経済が提示する機会と課題、全ての人に適用される基礎所得を巡る議論、就労環境の変化に鑑みて労働規制政策を進めるべき方法など、仕事の世界が直面している主な課題の幾つかが取り上げられます。

 開会式で挨拶したガイ・ライダーILO事務局長は、仕事の未来に関するILOの議論には国際研究界からの重要な貢献が必要なことを強調し、この点で、仕事の統治、就労状況の多様化、いわゆる非正規や非典型雇用など様々な言葉で呼ばれる標準的でない就労形態に関連した政策上の大きな課題に言及し、仕事の未来を巡る議論が国内・国際的に大いに注目を集めているのは「元気づけられること」とした上で、解決策の探求を主要20カ国・地域(G20)などの重要な政策策定の場における議論に移し替えることの重要性を強調しました。

 さらに、「仕事の未来は予め定まっていないこと」、そして「それは人々が作るもの」であり、それこそがディーセント・ワークの規制をこれほどに重要なものとしている理由であることに参加者の注意を喚起しました。この懸念に対処できる可能性がある一つの方向性として、全ての人に適用される基礎所得の概念が提起されていますが、ライダー事務局長はこれに関しては経済政策論議を越えた多様な手法が検討されていることに光を当て、まだ長い議論が必要なことを指摘しました。今回の会議ではケア労働者のディーセント・ワークにも焦点が当てられますが、事務局長は高齢化社会が機能するためにはケア経済がますます必要不可欠となってきていることに注意を喚起しました。

 事務局長は2013年に開始された仕事の未来イニシアチブの下、仕事の世界で進みつつある変容をより良く理解するために、ILOでは相当の努力と資金を投入していることを紹介し、とりわけ、加盟国で既に実施された110件に及ぶ国内対話は進むべき方法に関してのILO加盟国政労使からの貴重な貢献となったことに言及しました。2019年のILO100周年に先立ち、仕事の未来を形作る方法に関する政策を提示することを任務として、ハイレベル参加者で構成される仕事の未来世界委員会が間もなく設けられますが、第5回RDWネットワーク会合の3日間に及ぶ議論は、これに資する貴重な資料となります。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。

 7月3日に開かれた1回目の全体会合は、「介護、育児などのケア関連の仕事と経済:ディーセント・ワークの未来に向けた機会」と題し、低賃金などの劣悪な労働条件がしばしば指摘されるケア経済でディーセント・ワークを実現する方法について意見が交わされました。

 この会合で基調講演を行った英国放送大学のスーザン・ヒンメルウェイト名誉教授と座長を務めたマヌエラ・トメイILO労働条件・平等局長は、ILOコミュニケーション・広報局主催のフェイスブック・ライブ・インタビューに出演し、視聴者からの質問にも対応しつつ、このテーマについて解説しました。従来は女性が無償で行うことの多かった育児や介護ですが、女性の社会進出や人口の高齢化もあって有償市場の拡大が進んでいます。肉体的にもきつい感情労働でもあることからこの市場は慢性的な人手不足状態にあり、途上国からの女性移民を多く見られます。本来はある程度の技能を必要とする仕事であるにもかかわらず、このような背景から低く見られがちで、賃金その他の労働条件も低いままです。2人は、この状況を変えるには、ケアの仕事の価値を認め、職業訓練などを用いた技能向上を通じて専門的な職業としての確立を図ることや、ケアに対する支出を負担ではなく投資と見ることなどを提案しています。子ども時代には誰もが経験し、誰もがいつかはお世話になる可能性があるケア労働の質の向上はひいてはケアの質の向上に結びつくと2人は説いています。

 7月4日に開かれた2回目の全体会合の模様は音声ファイルで聞くことができます。「普遍的基礎所得は所得保障の将来的課題の解決策となり得るか」と題したこの会合では、フィンランド社会保険庁(KELA)のオリ・カンガス政府関係部長が現在同国で進められている実験を発表しました。次に、デュースブルク・エッセン大学のゲルハルト・ボッシュ教授が普遍的基礎所得を巡る世界の議論を、そしてアルゼンチンの公共政策研究学際研究所(CIEPP)のカリナ・ロドリゲス・エンリケス研究員がボルサ・ファミーリアなどの中南米の条件付現金給付制度について発表を行いました。これらを聞いた後、資産調査を伴わずに全ての人に一定の所得を保障する普遍的基礎所得が仕事の消滅という将来的可能性にとって持つ意味や先進国における福祉政策としての基礎所得と途上国における開発政策としての基礎所得の位置づけの違い、独立性や社会参画などの仕事の副次的効果と普遍的基礎所得の関係など、会場との活発な意見交換が行われました。カンガス部長はまた、この会合の座長を務めたサンドラ・ポラスキー前ILO政策担当副事務局長と共にフェイスブック・ライブ・インタビューに出演し、視聴者からの質問にも対応しつつ、フィンランドにおける実験を中心に普遍的基礎所得を巡る状況について詳しい説明を行いました。