第106回ILO総会

2017年第106回ILO総会討議資料:パレスチナの労働者にディーセント・ワークを提供する緊急の行動を要請

記者発表 | 2017/05/31

 ILO総会の討議資料の一つとして、1980年の総会決議に従い、翌年から毎年、アラブ被占領地(パレスチナ及びシリアのゴラン高原)の労働市場と雇用の現状、労働者の権利に関する報告書『The situation of workers of the occupied Arab territories(アラブ被占領地の労働者の状況・英語)』が事務局長報告付録として提出されています。6月5日に開幕する今年の総会に提出される報告書は、今年3月にアラブ被占領地とイスラエルを訪れた現地視察団が見出した事項をもとにまとめられています。報告書は、50年にわたるイスラエルの占領は被占領地に失業問題の浸透と非効率で細分化した労働市場を形成し、和平プロセスの再活性化が緊急に必要と説き、移動と経済活動に対する厳しい制約、ガザ地区の長い封鎖、イスラエルの入植活動の活発化と和平プロセスの行き詰まりを、占領地の継続的な情勢悪化の決定的に重要な要因に挙げています。

 報告書は、パレスチナの労働市場を強化しようとのあらゆる取り組みは「国境や、土地、水、天然資源を得る機会に対して占領が行使している統制」に直面しているとして、労働、農業活動、生産、雇用創出に対する機会に依然として課せられている厳しい制約を指摘しています。そして、1993年に調印されたオスロ協定の目的の一つがイスラエルとパレスチナの双方に十分に機能する労働市場を確立することであったものの、これは遠い夢であり続けている点に注意を喚起し、和平努力の重要な礎石として、「社会正義とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の推進と適用」を続けるよう呼びかけています。

 パレスチナ内の西岸でもガザでも経済成長は見られますが、なおも潜在力発揮にははるかに及ばず、生計改善には不十分で、ほとんど雇用の伸びには結びついていません。報告書は、「労働市場関連指標ほどパレスチナの生計の脆弱な状況を劇的に映し出しているものはないかもしれない」と記しています。

 パレスチナの失業率は中東・北アフリカ地域一高く、地域平均の2倍以上に達し、失業者は労働力の4分の1を上回り、15歳以上のパレスチナ人の半数以上が非労働力であり、女性の5人に1人も働いていません。若者の無業率は依然として4割を超え、今や若者の3分の2が非労働力人口です。この10年にわたり陸海空が封鎖され、働くための移動もかなわないガザ地区の住民200万人の状況はとりわけ悲惨で、報告書が「全体的に窒息寸前の経済・労働市場情勢」と記すように、失業率は依然として4割を優に超え、若者労働力人口の大半(6割)が無職であり、大卒者の間では無職がほぼ一般化しています。

 西岸地区では、移動及び経済活動に対する制約とイスラエル人入植地の圧倒的な存在が労働市場を細分化し、経済発展を阻害しています。他に手段がないためにイスラエル及び入植地に仕事を求めるパレスチナ人が増えてきています。イスラエルで働く10万人以上のパレスチナ人の平均賃金は西岸地区の2倍以上になり、西岸住民の賃金総額の4分の1程度がイスラエルまたは西岸のイスラエル人入植地における雇用からもたらされています。しかし、イスラエルで働くパレスチナ人の多くが悪辣な斡旋業者によるものを中心とする搾取と困難に直面しており、報告書の推定では、イスラエルで働くパレスチナ人の4割程度しか斡旋業者の影響を受けなかったとしても「斡旋業者税」は2016年に3億8,000万ドルに上り、パレスチナ人がイスラエルで得た賃金全体の17%近くが斡旋業者の手に渡っています。イスラエル当局もこういった緊急の対応が必要な問題の幾つかの対処に乗り出し、就労許可・賃金支払制度に対する改革の導入が検討されています。

 報告書は雇用情勢と労働市場の展望がますます暗くなれば、パレスチナの若者の間の欲求不満が過激化や暴力を導く可能性を指摘して、検問所の混雑と長い待ち時間からパレスチナ人が直面しているしばしば屈辱的な状況を是正する緊急の行動を呼びかけています。

 国内の分断の継続的な状況や国際援助資金の減少によって厳しく制約されているものの、建国活動が続いているパレスチナの制度・機構は国家を支えるのに十分なほど頑健ですが、統治能力に対するさらなる投資が求められます。国家政策課題の策定や民間企業労働者向けの社会保障法の公布といった最近の前進も、実施のために必要な外部資金なしには効果が発揮できないままに終わる危険性があります。「パレスチナはとりわけ、ガザ地区の苦難を緩和するために、相当額の予算支援と継続的な開発・人道援助を必要としており、援助国・機関はパレスチナ当局、そして実際、存続可能なパレスチナ国家は財政的に自分の足では立てないことを意識する必要がある」と報告書は記し、「今や人口の過半を占めるようになったオスロ協定後に生まれた世代は希望と方向性を必要としており、緊張の代価は高すぎるものとなる」と指摘して、中東和平と完全なパレスチナ国家の樹立を育むことを目指して、国際社会が関与を続けることを呼びかけています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。