ILO新刊:移民家事労働者

ILO新刊:家事労働者の移住を司る好事例を紹介

記者発表 | 2016/11/24

 ILOはこのたび、移民家事労働者の労働条件改善に向けた実用的な知識を示す報告書を発表しました。

 世界全体で6,710万人を数える家事労働者の内、女性約850万人を含む1,150万人が国外で働いています。女性移民家事労働者を最も多く受け入れているのは東南アジア・太平洋(全体の24%)で、これに北・南・西欧(22.1%)、アラブ諸国(19%)が続きます。家事労働者は労働者保護の対象から除外されることが多く、ILOは2010年に、他の労働者と同じ保護を享受している家事労働者は全体の1割に過ぎないことを見出しました。非正規移民の場合を中心に、女性移民家事労働者の保護水準はさらに低くなっています。この状況に取り組むため、ILOは2011年に家事労働者条約(第189号)及び付随する同名の勧告(第201号)を採択し、家事労働者にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を確保することを目指しています。

 ILOは2013年に欧州委員会(EC)から任意資金拠出を受け、移民家事労働者の人権及び労働者としての権利の促進を目指す地球規模の行動計画を開始しました。今年7月で終了したこの事業で得られた知識を基礎とする報告書『Decent work for migrant domestic workers: Moving the agenda forward(移民家事労働者のディーセント・ワーク課題の前進を図る・英語)』は、移住政策、啓発キャンペーン、家事労働者の能力構築プログラムの改善に向けた重要な提案と手引きを示しています。

 報告書を作成したILO労働力移動部のミシェル・レイトン部長は、移民家事労働者に関するしばしば異なる政策目標、法、利害を有する送出国と受入国という交差する二つの主権国家に捕らえられた女性移民の課題に取り組むには、「送出国、通過国、受入国間のさらなる協力が必要」と説いています。報告書は労使団体とのしっかりとした協議を経た上で家事労働力不足を満たすために受け入れる外国人労働者の規模を決定すべきことを説き、例えば介護の場合には国民の長期的なケアニーズなど、人口動勢の変化とこの部門における労働市場のニーズを考慮に入れた上で、移民家事労働者をより良く保護する政策を導入するよう受入国に呼びかけています。レイトン部長は、相当の需要がある場所で一時的な移住制度に留めた場合に非正規移住につながる可能性も指摘しています。

 報告書はまた、家事労働が真の専門的な仕事であるとの労使の意見を強めるため、移民家事労働者の技能プログラムの重要性も強調しています。レイトン部長は、こういったプログラムが有効であるためには、「就労に係わる基本的な原則と権利を基盤とし、労働組合、使用者団体、公的機関の支援を受けている必要性」を指摘しています。

 移民家事労働者のより良い組織化と新たな権利の獲得に関しては、報告書は家事労働者は依然として法律上、結社の自由の権利の適用対象外であり続け、したがって労働組合の結成や組合加入が必ずしも可能でない点や言葉の障壁、文化の違いなどの制約要素を挙げた上で、組合による組合員の募集やこういった障壁の回避に関する好事例を紹介しています。レイトン部長は、移民家事労働者に係わる課題は国境を越えて取り組む必要があるため、国内レベルの団体交渉を送出国、通過国、受入国を巻き込んだ社会対話で支える必要性を指摘し、この点でカギを握る要素として、家事労働者の移住を支援するグローバルな人材募集・斡旋業界を挙げています。

 6章構成の本書は、第1章で家事労働者の移住に関する状況を世界全体及び地域別で概説した上で、第2章で法や政策、国家間協力など家事労働者の移住過程における保護に係わる政府の役割を示し、第3章で労使の意識が労働関係や法の遵守に与えている影響を説明し、第4章で技能開発と技能認定の問題を取り上げ、第5章で公正な人材斡旋・募集のための方策を提案し、最後の第6章で家事労働者の組織化戦略を論じています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。