ILO新刊:世界の雇用及び社会の見通し

ILO新刊:若者の失業率は再び世界的に上昇

記者発表 | 2016/08/24
報告書の内容を3分で紹介する動画(英語)へのリンク

 ILOがこのたび発表した新しい定期刊行物『World employment and social outlook 2016: Trends for youth(世界の雇用及び社会の見通し-若者動向編2016年版・英語)』は、若者(15~24歳)の失業者数が今年3年ぶりに世界全体で前年より50万人増えて7,100万人に達し、失業率は13.1%(2015年12.9%)となり、2017年までこの水準が続く見通しを示しています。さらに懸念されることとして、途上国・新興経済諸国を中心に、働いていながら極度のまたは中程度の貧困状態(1日当たり消費額または一人当たり所得が3.10ドル未満)にある若者の割合(若者のワーキング・プア率)は就業者の37.7%(25歳以上層の場合は26%)、1億5,600万人に達しています。

 2016年に世界の経済成長率は2015年末の予測より0.4ポイント低い3.2%に留まると見られますが、報告書の中心的な著者であるスティーブン・トビンILO上級経済専門官は、これを推進するものとして、「一部の主要な新興一次産品輸出国における予想より激しい景気後退及び一部先進国の景気低迷」を挙げ、新興経済諸国における若者の失業率の上昇が特に著しいこと(2015年13.3%→2017年13.7%、失業者数で言うと2015年5,290万人→2017年5,350万人)を指摘しています。2015年から2017年にかけて中南米・カリブ諸国の失業率は15.7%→17.1%、中央・西アジアでは16.6%→17.5%、東南アジア・太平洋では12.4%→13.6%にそれぞれ上昇すると予測されます。

表1:若者の失業とワーキング・プア状態の動向と2017年予測
図表:若者の失業とワーキング・プア状態の動向と2017年予測
出典:『World employment and social outlook 2016: Trends for youth

 地域間のばらつきが大きいものの、若者の雇用の質は依然として不均等に低く、若者のワーキング・プア率が世界で最も高いサハラ以南アフリカではほぼ70%に達しています。南アジア(49%)やアラブ諸国(39%)でもワーキング・プア率は高くなっています。先進国では所得中央値の60%未満の所得者層と定義される貧困リスクが最も高い集団として、若者が高齢者に置き換わるという貧困年齢分布の変動が見られるようになってきており、例えば、欧州連合(EU)28カ国で2014年に高貧困リスク層に分類された若者労働者の割合は12.9%に達しています(25~54歳層では9.6%)。ギリシャやスペイン、ルーマニアのように若者の貧困リスク率が労働者の2割を超えている国もあります。

 また、例えば、2016年の労働力率が男性は53.9%であるのに対して女性は16.6ポイント低い37.3%であるといったように、ほとんどの労働市場関連指標において、若者男女間には大きな格差が存在し、年齢の上昇に伴う格差拡大の素地が形成されています。この状況が特に激しいのは南アジア(2016年に若者男女間の労働力率は女性が男性より32.9ポイント低い)、アラブ諸国(同32.3ポイント)、北アフリカ(同30.2ポイント)の各地です。

 若者が国外永住を決心する主な要因としては高い失業率やワーキング・プアとなる可能性の上昇、良質の仕事の機会の欠如などを挙げることができますが、2015年に世界の若者人口(15~29歳)に占めるこのような希望を示す者の割合は2割に達し、サハラ以南アフリカ及び中南米・カリブ(共に38%)、東欧(37%)では特に高くなっています。

表2:若者の失業-地域別動向と2017年予測
図表:若者の失業-地域別動向と2017年予測
出典:『World employment and social outlook 2016: Trends for youth

 デボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長は、このような若者失業率の警戒すべき上昇と高いワーキング・プア率について、「持続可能な経済成長とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の達成に向けた取り組みを倍加しない限り、2030年までに貧困に終止符を打つという世界的な目標の達成がいかに困難かを示すもの」と評しています。また、この調査研究が光を当てている労働市場における若者男女の大きな格差に「ILO加盟国及びソーシャル・パートナーたる労使が緊急に取り組む必要性」を強調しています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。報告書の内容を図示するものとして、2016年現在の若者の失業率や就業率及び労働力率における男女間格差ワーキング・プア率を示した世界地図も作成されています。