ILO新刊:先住民

ILO使用者活動局新刊発表:先住民に関する第169号条約の中南米4カ国における実施状況を調査

記者発表 | 2016/08/04
報告書発表会模様

 1989年に採択されたILOの「先住民及び種族民条約(第169号)」を現在批准する22カ国中15カ国が中南米諸国です。2011年に同地域の使用者団体向けに実施された第169号条約に関する研修の場で表明された要望に応え、ILO使用者活動局はこのたび、第169号条約が求めている事前協議手続きの中南米4批准国(チリ、コロンビア、コスタリカ、グアテマラ)における実施状況と投資プロジェクトに対するその影響力を使用者の観点から調査した報告書を発表しました。同局がチリの生産・商業連盟(CPC)と同国の首都サンティアゴで8月4日に開催した報告書の発表会には、中南米諸国の使用者団体の代表も出席し、報告書に対する論評を行いました。

 2013~14年に上記4カ国で実施された事前協議に関する調査結果をまとめ、各国及び地域レベルのデータを含む報告書『独立国における先住民及び種族民に関するILO第169号条約と投資プロジェクトにおける先住民との事前協議(Convenio núm. 169 de la OIT sobre Pueblos Indígenas y Tribales en Países Independientes y la consulta previa a los pueblos indígenas en proyectos de inversión・西語)』は、手続き実施上の最大の障害の一つは国、先住民、民間企業といった関係者間の不信感の高さであるとして、これが対話や合意形成を難しくしていると指摘しています。その上、国と先住民の間に対話機構が常設されていないことから投資プロジェクトに関する協議の場が先住民の歴史的な要求を解決する唯一の場となっており、プロジェクトに対する圧力や緊張の増加を招いていることが判明しました。また、先住民自体やその伝統、活動、文化的な場に関する体系的な情報の不足が投資プロジェクトが招く結果に関する分析を困難にし、法廷での解決が求められるような事態を生んでいるとしています。

 報告書はまた、移動費や食料手当、外部コンサルタントの任用など協議費用が高くつくことにも注意を喚起しています。使用者側は事前協議の遅れが経済及び労働力に直接の影響を与え、地元の利益の喪失を招いていることを指摘しています。エネルギー及び基盤構造投資プロジェクトの場合には、これは電気料金や接続性に影響するとされます。制度面では、協議体制や公式の手続きの欠如、手続きを管理できる技能を備えた職員の不足などが指摘されています。報告書はプロジェクトの拒否権(第169号条約には示されていない可能性)を中心とした協議手続きとその結果に対する先住民の期待を分析し、これに係わる最大の問題点の一つとして、国から民間企業への責任移譲を挙げています。

 このような困難に対処するために報告書は政府に対し、以下のような提案を行っています。

  • 国と先住民の間の対話の場の常設
  • 土地計画の立案に対する先住民の参加の促進
  • 体系的な先住民登録簿の整備、統合、随時更新
  • 事前協議実施のための資金・資源の考慮
  • 先住民団体の公認、尊重、強化促進
  • 先住民が自らの土地内における事業から利益を得ることを許すような制度的な仕組みの検討
  • 事前協議の実施を扱う権限ある機関の創設
  • 第169号条約に関する能力育成・普及手続きの整備

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 以上はサンティアゴ発英文記者発表の抄訳です。