ILO新刊:貿易協定の労働条項

貿易協定における労働条項はビジネスの害にならないと説くILO新刊

記者発表 | 2016/07/18
マルバ・コーリーILO上級経済専門官写真
貿易協定中の労働関連規定はビジネスの害にならず、職場における差別撤廃を手助けする可能性もあると説明する、報告書の中心的な著者であるマルバ・コーリーILO上級経済専門官(英語)

 二国間または多国間貿易協定の枠内で行われた輸出量は1995年には全体の42%程度であったのに対し、2014年には約55%と、貿易協定の数は全世界的に大きく増えてきています。貿易協定の枠内で実施された貿易額の4分の1が現在、労働関係や最低限の労働条件、遵守を促進または監視する仕組み、協力の枠組みを扱う何らかの基準を考慮に入れたいわゆる労働関連規定の枠内で実施されていますが、これは1990年代半ばまでほとんど全く存在していませんでした。2015年12月現在、労働関連規定を含む貿易協定の数は76本に上り、対象経済圏は135に及んでいます。この半分近くが2008年以降に締結されたものであり、2013年以降に発効した協定の8割超にこのような規定が盛り込まれています。

 このたび発表されたILOの報告書は、労働関連規定を含む貿易協定は貿易の流れの縮小や迂回をもたらすことはなく、労働市場へのアクセスを円滑化すると結論づけています。「Studies on growth with equity(公平性を伴う成長に関する研究)シリーズ」の一書として、ILO調査研究局から出された報告書『Assessment of labour provisions in trade and investment arrangements(貿易・投資の取り決めにおける労働関連規定の評価・英語)』は、貿易協定中の労働関連規定の設計、実施、成果を分析し、労働関連規定を含む貿易協定は平均28%貿易額を増加させ(労働関連規定のない協定の場合は平均26%の増加額)、労働関連規定は女性を中心に労働市場へのアクセスを支援して男女双方の労働力率を引き上げる効果があることを見出しています。

 一方で報告書は、とりわけ仕事の質と賃金上昇の点で貿易が労働市場に与える影響にはばらつきがあり、「貿易の勝者は仕事と所得の点での敗者に十分な補償を行っていない」として、1980年代から拡大傾向にある所得不平等の原因の一部は貿易と投資の自由化にあると説いています。また、労働関連規定を含む貿易協定は能力構築、そして時には産業部門毎の労働条件改善を後押しする可能性があることを示しています。

ラファエル・ピールズILO調査研究局職員写真
労働関連規定には、一般の人々により幅広く情報を伝え、協議する仕組みを設ける傾向がある、と説明する執筆者の一人であるILO調査研究局のラファエル・ピールズ専門官(英語)

 労働関連規定を含む貿易協定の大半が競争力を後押しするために労働基準を引き下げたり労働法から外れたりしないとの公約を基礎としており、同時にまた、国内労働法が効果的に執行され、既にある労働基準と整合するよう確保することを目指しています。労働関連規定の72%がILOの文書に言及しています。

 労働関連規定の実効性を高める手段として、報告書はその策定・実行過程に政府だけでなく、とりわけ社会的パートナーである労使などの利害関係者を巻き込むことによって貿易交渉の透明性が高まる可能性を指摘しています。労働市場における成果の点では、法制改革、能力構築、監視メカニズムの強い相互作用に光を当て、政労使の社会対話がこの過程で重要な役割を演じることを強調しています。最後に、ILOの専門知識は適切に動員されたとすれば、例えば、労働関連規定と国際労働基準体系の整合性を高めることによって労働関連規定の有効性を高める助けになる可能性を指摘しています。

 デボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長は、「報告書が見出した趨勢と所得不平等の拡大の継続は、貿易協定の具体的な規定や労働基準に対するその影響に関するさらなる調査研究の必要性に光を当てている」と評しています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。