G20労働雇用大臣会合

ディーセント・ワークを前進させる行動を約したG20労働雇用大臣会合

記者発表 | 2016/07/13
G20労働雇用大臣記念写真

 2016年7月13日、北京で開かれていた主要20カ国・地域(G20)の労働・雇用大臣会合は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を前進させ、就業能力を引き上げ、十分な雇用機会を創出する活動を提案する「イノベーション(革新)と包摂的成長宣言:ディーセント・ワーク、就業能力向上、十分な雇用機会」を採択して2日間の日程を終えました。

 9月4~5日に杭州で開かれるG20サミットに提出されるこの大臣宣言は「生産的な雇用とディーセント・ワークは世界中の人々の生計の基盤」であることを強調し、より多くの良質の仕事の創出に向けた活動を「強固で持続可能かつ均衡ある成長のための不可欠な要素」と位置づけています。会議に参加したガイ・ライダーILO事務局長は、宣言を「労働市場と経済全体の需給両面をつなぐ実践的な政策の強固な架け橋」と評価して、これが低成長の罠に落ち込むのを阻止し、反転させる助けになることへの期待を表明しました。また、会合日程に労使団体の国際的なネットワークとの対話の機会が含まれたことを特に歓迎しました。

 宣言は不平等の拡大を認め、最低賃金の仕組みや団体交渉などこの問題に取り組む一連の方策を提案しています。ほとんどのG20諸国で依然として投資が弱く、生産性と雇用の伸びも減速しており、これはさらに成長鈍化の可能性を生んでいます。多くの経済で若者を中心とした失業問題と労働市場の不振が続いており、G20全体を通じて実質賃金の伸びは低迷したままであり、ほとんどの経済がなおも拡大を続ける大きな所得不平等に直面しています。このような状況に懸念を表明した宣言は、現在の全体的な雇用の弱さに対応し、より長期的な構造変化を見据えて、より多くのより良い仕事の創出、就業能力と適応性の引き上げ、さらに賃金、社会的保護、労働条件に関する一連の政策提案を示しています。そして、賃金成長と生産性の伸びの整合性を高め、賃金格差の縮小を目指し、各国の状況に合わせた団体交渉、最低賃金、社会対話、パートナーシップの促進などを通じて持続的な賃金成長を図ることを約しています。

 宣言はまた、G20起業家精神行動計画を立ち上げ、技能開発と見習い実習制度に焦点を当てた就業能力の引き上げ、持続可能な賃金政策、公平で持続可能な社会的保護制度に関する詳細な提案を含んでいます。さらに、前途を見据えた方策として、イノベーションとグローバル化の影響を含み、仕事の未来を検討することや労働力移動の機会と課題に取り組むこと、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の雇用関連目標の達成における進捗状況を点検することの重要性も指摘されています。

◎頑迷な低成長は仕事・賃金の成長見通しを弱めると説くILO事務局長

G20労働雇用大臣会合写真

 ライダー事務局長は、12日の会議の冒頭に、ILOがG20の求めに応じて経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)と共に作成した、最近の雇用情勢と課題に関する背景資料の内容を発表し、すべてのG20諸国が生産年齢人口の大きな割合、特に若者の希望を支えるのに困難を感じている現状を紹介しました。そして、「成長低迷の継続、収入の不平等、不安定な労働市場」が世界の総需要に重くのしかかっており、これは「市場の成長に対する企業の期待感の縮小、低投資、成長低迷、労働市場の不十分な回復といった自己増強型の悪循環」に結びつく危険性に注意を喚起しました。

 2008年に起こった世界金融経済危機からの回復期には、世界の国内総生産(GDP)は危機前の水準よりは低いものの年平均3.8%の成長を示しましたが、2015年には3.1%に落ち込み、今年来年も改善は期待できません。人口動態や技術変革、グローバル化の継続と競争激化、労働需給のミスマッチ、なかなかなくならない貧困、不平等の拡大など、世界経済及びG20経済が直面している課題についての理解に関しては幅広い収斂が見られ、この認識は政策対応につながっているものの、低成長の罠に陥る危険性に対する懸念が高まりつつあります。

 トルコ、インド、南アフリカなど大多数のG20諸国では、危機後に約30%以上にも達した若者のニート率(就業も就学も訓練受講もしていない若者の割合)が、10%以下に減らすことに成功した日本やドイツのような一部の国を除けば、まだ下降傾向に入っていません。ほとんどの新興経済諸国では若者のインフォーマル(非公式)就労率は長期的な下降傾向を示してきたものの、この動きが停滞(インドネシア)または反転(アルゼンチン、ブラジル、南アフリカ)する兆しさえあります。ほとんどの新興経済諸国でこの課題は依然として相当に大きく、若者の3分の1強(南アフリカ)から6割(メキシコ)あるいはそれ以上(インド)がインフォーマル就労状態にあります。この点で事務局長は、多くの国が若者に提供している教育訓練その他の支援制度、就労機会改善を目指す措置を評価しました。

 働く女性が担う家庭責任の緩和や女性の起業奨励など、男女平等を促進する措置を新たに導入する国は多いものの、2025年までに男女の労働力率の差を25%減らすというG20の目標を達成するにはやるべきことがまだ多く残っていると事務局長は指摘しています。労働安全衛生面でも進歩が見られ、一般に中小企業の成績改善に意図的に焦点を当て、多くの国で法規の簡略化・明確化が図られました。

 ライダー事務局長は、労働力率押し上げに向けた措置、技能開発などの積極的労働市場政策、労働市場の効率性と包摂性の改善、インフォーマルからフォーマル(公式)な就労形態への転換加速、仕事の質の向上、中小企業の生産性と競争力に焦点を当てた措置など、幅広い国内政策が追求されていることに触れた上で、より包摂的な成長は成長速度の回復を支えるであろうことを強調し、働く貧困層対策、差別根絶、賃金や労働条件の格差縮小、労働市場における代表比率が低い集団の参加後押しなどの措置がとりわけ重要であることに注意を喚起しました。

 事務局長はまた、同日開かれた社会的パートナー及び関与団体との対話にも参加し、経済危機の最中及び危機後の時代に世界中で政労使三者による協議と社会対話が大きな役割を演じたことに注意を喚起して、職場のみならず幅広い経済においても良好な労使関係が必要不可欠なことを強調し、労使・市民団体代表に大臣との協議の場を提供するG20の過程そのものに示されているところの「良い政策の形成と実行における社会対話」に向けた大臣らの公約を歓迎しました。

 2017年のG20会合を主催するドイツは、仕事の未来、雇用における男女間格差、グローバル・サプライチェーン(世界的な供給網)、労働力移動と難民危機に焦点を当てることを計画しています。

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 以上は次の2点の北京発英文記者発表の抄訳です。