ILO新刊:中南米・カリブの労働市場政策

社会が達成した成果を守り、生産性ギャップに取り組むために中南米諸国に労働市場政策の方向転換を提案するILO新刊

記者発表 | 2016/06/21
中南米諸国の積極的労働市場政策の種別・対象層毎内訳(英語)

 社会への包摂と仕事の質の点で中南米・カリブ地域で2000年代以降に達成された歩みは止まり、後退が始まってさえいます。これは労働市場の危険な「構造的停滞」につながり、不平等や非公式(インフォーマル)経済の増加、中流階級の衰退を生む危険性があります。このたび発表されたILOの新刊書はこのように警鐘を発した上で、経済成長鈍化の結果としての失業増やインフォーマル経済拡大の問題に取り組み、生産性を高めるために、労働市場政策の「戦略的方向転換」を進めることを中南米諸国に呼びかけています。『What works: Active labour market policies in Latin America and the Caribbean(何が機能するか:中南米・カリブの積極的労働市場政策・英語)』と題する報告書は、「際立った進歩にもかかわらず、知識主導型経済及びより質の高い仕事を基盤とした経済への移行はまだ完了していない」として、社会進歩と失業問題の改善が進んだ数年間に及ぶ力強い経済成長にもかかわらず、この成果が堅固なものでなく、構造的な欠陥を露呈させていることを指摘しています。

 中南米全体を対象としつつもアルゼンチン、コロンビア、ペルーに重点を置き、過去20年の労働市場政策をまとめ、分析した本書は、「積極的労働市場政策」、つまり人々が持続可能な仕事を見つけるのを手助けし、生産的な仕事の創出を直接・間接的に促進し、人々の生産性・資格の向上を図り、求職者と求人企業との接点を保障する介入措置は、中南米でも効果があることを示す証拠が得られているにもかかわらず、そのような施策の総合的な仕組みが存在しない国がこの地域には多いと結論づけています。訓練プログラム、雇用補助金、自営業や零細企業主の支援プログラムなどはこの地域でも好結果を示しているものの、高所得国に匹敵する金額を積極的労働市場政策に投資している国はアルゼンチン、ブラジル、チリなど数ヵ国に過ぎず、これ以外の国にはそのような政策がないか非常に低い予算に留まっています。また、地域で実施されている積極的労働市場政策の多くが、より望ましい複雑な措置集合ではなく、1種類の介入措置を中心としていることについて、報告書の著者チームの一員であるILOのベロニカ・エスクデロ専門官は、複数の政策で上手に構成されたプログラムがより付加価値の高い経済に向けた専門化と生産性の伸びの上昇を推進できる可能性を指摘しています。

政策・国・方法論別で見た中南米・カリブの積極的労働市場政策有効性評価図(英語)

 ホセ・マヌエル・サラサール・シリナチスILO中南米・カリブ総局長は、景気低迷が2016年及び今後数年にわたって地域の労働市場に影響を与える可能性を指摘して、効果的な解決策と言える「積極的労働市場政策」は、「労働力の技能向上・更新、労働需給の再調整、生産的な雇用の促進を図る政策転換」を表すとして、「地域の労働市場に必要なのはこのような総合的な取り組み」と説いています。総局長はさらに、スローモーションで進む地域の景気下降は「より包摂的で持続可能な成長の達成に必要不可欠な労働力の訓練と生産的な開発の戦略を進める必要性を明らかにしたこと」、そして「積極的労働市場政策は、域内諸国に現在求められる手持ちの手段の中の非常に重要な部分を構成すること」を強調しています。

中南米・カリブ諸国が採用すべき積極的労働市場政策について説く報告書著者ら(英語)

 報告書はさらに、効果をフルに活用するためには積極的労働市場政策を改善する必要があることに光を当て、受益者数の増加に向けた奨励措置の創設、特定の状況に適合させた政策の策定、事業計画が対象層すべてに利益をもたらすことの確保など、積極的労働市場政策の設計と実行における一連の改善点を提案しています。エスクデロ専門官は、「たとえ積極的労働市場政策が大きな潜在力を秘めているとしても、その有効性を保障するにはその設計、対象設定、実行が必要不可欠」と強調し、この点で、国内の人々が直面している就業を阻む障害や地元労働市場のニーズを明確にし、政策の妥当性を確保し、受益者数などその影響力の最大化を図る必要性を指摘しています。

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 以上はリマ発英文記者発表の抄訳です。