2016年第105回ILO総会

第105回ILO総会討議資料:パレスチナの労働者のための平和、人間らしく働きがいのある仕事、社会正義を促進する新たな努力を呼びかけるILO

記者発表 | 2016/05/25
© Mohamad Badarne

 ILO総会の討議資料の一つとして、1980年の総会決議に従い、翌年から毎年、アラブ被占領地(パレスチナ及びシリアのゴラン高原)の労働者の状況に関する報告書『The situation of workers of the occupied Arab territories(アラブ被占領地の労働者の状況・英語)』が事務局長報告付録として提出されています。5月30日に開幕する今年の総会に提出される報告書は、今年4月にアラブ被占領地とイスラエルを訪れた現地視察団が見出した事項をもとにまとめられています。報告書は、この1年間和平プロセスが行き詰まり、2015年10月以降、西岸地区と東エルサレムで暴力がエスカレートしていることに懸念を示し、和平プロセスの継続をアラブ被占領地のすべての人々に社会正義、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、仕事と富の創出を確保する前提条件に位置づけ、公平かつ公正な解決のための要素の提供支援を国際社会に呼びかけています。

 2015年にパレスチナの実質経済成長率は3.5%と、特に弱い西岸地区の状況もあって期待を下回る低迷を示しました。失業率はわずかながら好転して前年比4%減となったものの、25.9%と相変わらず高く、特にガザ地区は41.1%と世界一の高さであり、労働者の状況は不安定さを増しています。若者の展望はさらに厳しく、失業率は40%を超えています。女性については、労働力率(2015年に前年より0.3ポイント低い19.1%)、就業率(同0.8ポイント減の11.5%)、失業率(同0.7ポイント増の39.2%)のすべてがこの1年で悪化しています。

 一方でイスラエルと入植地で働くパレスチナ人は2015年にさらに5.1%増えてパレスチナ人就業者全体の11.6%を占めるに至っています。これは西岸地区の状況をある程度緩和しているものの経済基盤の発展を許す代案になるものではなく、報告書はまた、入植地を中心としたイスラエルの労働市場における就労機会が、絶えず搾取や仲介業者による虐待、就労に係わる基本的な権利の侵害の危険をはらんでいることを報告しています。

 ガザ地区に関しては、経済と雇用の成長が見られたものの、これは非常に低い基盤からのものであり、今は再建努力に推進されているものに過ぎず、3度の戦争と8年に及ぶ包囲でほぼ壊滅状態にある生産部門再建のための条件が形成される必要があります。また、西岸地区の住民については増えたイスラエルにおける就労許可がガザ地区の労働者には与えられていません。

 報告書は西岸地区における暴力と報復措置の増加を止めるには、交渉を通じてパレスチナの分離を克服することが必要不可欠としています。占領と分離から生じる制約は経済と雇用のあらゆる成長の展望を妨げています。パレスチナの経済活動と雇用は東エルサレムを含む西岸地区における土地、資源、投入資材の十分な利用が求められるものの、パレスチナの民は国家基盤となるべき地域の大半に立ち入り、開発することを妨げられています。パレスチナの人々が国内外の市場に妨げられずにアクセスできるようにすることも緊急に必要です。

 報告書はまた、パレスチナの機構構築における最新の動向、そしてとりわけ、社会対話、男女平等、社会保障、職業教育・訓練のための社会・労働関係の進展状況についても記し、パレスチナの機構と労働面における統治の強化が続いていることを報告しています。新たに制定された社会保障法は民間部門の労働者を保護し、この部門における雇用を奨励することが期待されます。労働法、労働組合法などのこの他のイニシアチブの実現も求められます。国家構築の過程では政労使協力の潜在力が十分に活用される必要があります。また、女性が経済生活により良く組み込まれて初めて大幅な成長と雇用創出が可能になると見られます。報告書はまた、シリアのゴラン高原占領地におけるシリア人の状況も取り上げて、占領から生じる制約を受け続けているだけでなく、現在のシリア危機が経済・雇用の選択肢をさらに狭めている状況を報告しています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、報告書の前書きで「現在進んでいる道は危険に満ちている」として、同じ地域で暮らす2民族間における経済成績、雇用と所得、移動及び企業活動の自由においてなかなか解消されない大きな不平等に取り組むには、社会正義とディーセント・ワークの原則を適用すべきと説いています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。