論評:持続可能な開発

経済グリーン化に向けた10の行動項目/仏大使が語る気候に関する合意

経済グリーン化に向けた10の行動項目

ヴァン・デル・レーILOグリーン・ジョブ計画調整官

 2015年11月30日にパリで開幕する気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は低炭素経済に移行するための野心的な目標を新たに設定することが期待されます。10月にILOが開催した環境に優しいグリーン・ジョブに関する国際専門家会議は、持続可能な環境に立脚した世界経済の移行はこの惑星だけでなく仕事の未来にも奥深く影響する激動の経験になろうとのメッセージを発信しました。この問題を議論する際には、全ての人に役に立つように移行を管理する方法や企業、労働者、社会がグリーン経済への移行から確実に利益を得られるようにする方法など、様々な問題が提起されますが、会議の事務局を務めたILOグリーン・ジョブ計画のケース・ヴァン・デル・レー調整官は討議を受けて、考慮すべき10の行動項目を以下のように紹介した上で、上手に管理された経済のグリーン化は、雇用創出、仕事の質の向上、社会正義、貧困撤廃を推進する強力な要素になる可能性を指摘し、仕事の世界の関係者に向けて、変化をおとなしく受け入れるのではなく、積極的に働きかけていくことを呼びかけています。

  1. 強い政治的なシグナルの発信:全ての主要な省庁、企業、労働者を巻き込んだグリーン経済協定を2011年に締結した南アフリカや環境に優しく包摂的なグリーン成長を優先事項に掲げるペルー、グリーン・ジョブや関連技能の促進に向けて大きな前進を遂げつつあるインドネシア、他の南側諸国と協力して持続可能な開発を促進しているブラジルなどの例に見られるように、政府は労使を巻き込んだ上で、グリーン経済への移行を加速するつもりであるとの信号を強く発信する必要があります。これはグリーン・イノベーションや持続可能な企業の育成を奨励する安定した投資環境の形成を助けることになります。

  2. 包摂的な社会対話の促進:政策設計から実行、結果の測定に至るあらゆるレベルにおいて政労使の社会対話が存在することが望まれます。

  3. 環境に優しい経済成長政策の設計:移行の影響を受ける者への補償財源の助けになるような環境税改革など、あらゆる経済政策に持続可能な開発を支える措置を含むべきです。

  4. 誰も置き去りにされないことの確保:2007年にバングラデシュに襲来したサイクロン「シドル」は数十万の小企業の事業を混乱に陥れ、56万7,000人の仕事に影響を与えました。2012年に米国に上陸したハリケーン「サンディ」はニュージャージー州だけで15万人の労働者に避難を強い、就業者数は1万1,000人も減少しました。予見不能な気象パターンや暴風雨の増加、干ばつの長期化は脆弱な共同体のリスクを高めており、その保護が求められます。気候変動やグリーン経済への移行の影響を最も受けやすいと思われる産業や共同体には特別の注意が必要です。

  5. 企業、とりわけ中小企業を支援:移行は全ての企業を含むため、環境面から見て健全な行いを採用する企業に対する奨励金の支払いや労使に対する技術的アドバイスの提供などを通じて持続可能な企業の強靱性を高めることが特に重要です。

  6. 労働者が適正な技能を有することの確保:新たなグリーン経済には新たな技能が求められます。高技能労働力にとっての変化の意味を予測することが非常に重要です。例えば、ILOが主導してザンビアで展開されている国連合同計画は、中・低所得層向けのよりグリーンな住宅建設のための技能構築及び事業開発を促進していますが、高技能労働者5,000人分の仕事を創出し、地元の小企業を後押しすることが期待されています。

  7. グリーン・ジョブが安全であることの確保:どんな仕事もそうですが、グリーン経済の仕事もクリーンで安全である必要があります。適切な労働安全衛生措置の採用は事業のグリーン化、仕事の質の向上に寄与する可能性があります。新たなリスクの評価と予防措置の開発を検討することが重要で、時には法律の更新や、労働監督官への情報や訓練の提供が必要になるかもしれません。

  8. 社会的保護の促進:例えば、ILOがフィリピンでハイエン台風被災者向けに実施している生計回復に重点を置いた複数のプロジェクトは、社会的保護と環境配慮の要素を含んでいますが、社会的保護は経済及び環境分野の衝撃的な影響から人々を守り、強靱性を高める優れた手段です。多面的に役に立つ雇用保障制度や公共事業など、各国は気候変動に対する対応に社会政策上の措置を組み込むべきです。

  9. 変化の予測:公共職業安定業務の強化、労働者が職を維持できる可能性や新たな仕事を見つける確率を高めるような種類の技能を習得できるよう対象を定めた補助金の提供など、企業や労働者が労働市場の需要の変化を先取りする助けになるような政策を導入すべきです。

  10. ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の促進:ディーセント・ワークをすべての人に実現することを目指すILOのディーセント・ワーク課題は、社会対話、社会的保護、就労に係わる権利、雇用の四つの柱で構成されています。これはまた、持続可能な開発を構成する上で不可欠な要素でもあり、力強く持続可能で包摂的な成長及び開発を目指す政策の中心に据えなくてはなりません。

 以上のように説いた上で、調整官は、パリ気候会議の真の成功は私たち一人一人の貢献にかかっていると訴えています。

気候に関する合意はできるだけ野心的であるべきと説く仏大使

エリザベート・ローラン仏大使

 また、COP21のホスト国であるフランスの国連ジュネーブ事務所・在スイス国際機関常駐代表を務めるエリザベート・ローラン大使は、会議における同国の優先目標を、1)できるだけ野心的な法的拘束力のある協定、2)各国が意図する確定的な貢献(INDC)の枠内で示した公約、3)包括的な財政・技術措置、4)地方自治体や企業、市民社会、国際機関などの国家以外の貢献者から示された公約をまとめた行動のためのアジェンダ(リマ・パリ行動アジェンダ)の四つの柱に依拠したパリ気候同盟の達成であることを明らかにしています。大使は、既に排出量の91%以上を占める170カ国からINDCの公約が提出されたことや拘束ある公約として9月に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択されたこと、交渉過程の当初から市民社会が十分に関与してきたことなどを挙げ、交渉過程で見られた確固たる勢いを維持することができればこれは達成可能との見通しを示しています。

 さらに、低炭素経済への移行は環境に優しいグリーン・ジョブの育成を加速させることを意味するとして、2015年8月にフランスで成立した「グリーン成長のためのエネルギー移行法」が2030年までに10万人分の長期雇用と20万人分のそれ以外の雇用を迅速に創出するよう求めていることを紹介し、グリーン・ジョブは環境に配慮した移行を含む経済構築の中核に存在すると説いています。そして、労使の社会的パートナーは企業レベルで雇用機会を見通す際に環境に優しい移行の課題や訓練プログラムを組み込むことができ、様々な産業部門や地域において地元の公共機関と密接に協力しつつ必要な技能プログラムの導入を提案できるとして、経済グリーン化に寄与できる社会的パートナーの可能性に言及し、政労使三者で構成されるILOは社会的パートナーを動員し、最善事例を共有するエンジンになりうると語っています。

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 以上は以下の二つの英文記事の抄訳です。