タイ水産加工業の移民児童労働

タイの水産加工業における移民と児童労働に関するILO/アジア財団新刊発表

記者発表 | 2015/09/14
魚市場で働く子ども

 ILOとアジア財団はこのたび、タイの水産加工業における移民の子どもによる児童労働の実態を明らかにする新刊書を共同刊行しました。9月14日にバンコクで開かれるセミナーで発表される『Migrant and child labor in Thailand's shrimp and other seafood supply chains: Labor conditions and the decision to study or work(タイのエビその他海産物供給網における移民と児童労働:就学か就労かの決定と労働条件・英語)』は、とりわけミャンマー出身の移民労働者の社会・経済状態に影響を与えている、職場における安全や教育などの多岐にわたる問題を取り上げ、状況の改善に向けて政府や産業、市民社会が講じ得る一連の実践的な措置を提案しています。

 報告書は数十億ドルの売上高を誇る水産加工業で働く子どもは他の産業よりも職場における危害にさらされる頻度が高く、怪我をする確率が2倍になっていることを示しています。水産加工業の中心地帯に住む18歳未満の子どものほぼ10人に1人が児童労働に従事していると見られます。15~17歳の働く子どもを対象にした調査からは、児童労働法の存在を知っていたのは回答者の4分の1に過ぎず、65%近くが契約による法律上の保護を受けていないことが判明しました。

 この産業で働く移民の子どもはまた、タイ人の子どもよりも平均で週に6時間長く働いており、3分の1が学校に通っていません。これには家の借金や弟妹の世話、親の流動性などの理由が挙げられます。教育の機会は登録状態にかかわらずタイに住むすべての子どもに開かれているものの、低収入の不法移民の子どもは関連費用を負担できないために学校に行かない場合が多くなっています。調査からは、タイに長く滞在すると考える親は子どもを学校に通わせる可能性が高くなることが推測されます。

 報告書はまた、労働基準の遵守と監督活動の点で、輸出産業バリューチェーン(価値連鎖)に加わっている企業と国内市場対象企業の間には大きな違いがあることを見出しました。この一因として高い環境・労働基準の達成・維持を求める海外の仕入れ業者からのプレッシャーを挙げることができます。エビ加工産業は非常に多様で労働基準の遵守度合いもばらつきが大きく、関係企業が各地に散らばっていることも生産チェーンのすべてにわたっての規制を非常に困難にしています。

 報告書は法定就労年齢に達した労働者のより安全な作業環境確保、在留状態と無関係なすべての労働者の労働条件改善、法が就学を求めている子どもたちの教育機会の改善に向けて、以下のような提案を行っています。

  • 国籍や在留状態と無関係に、労働者保護に関して法に基づく均等な処遇が提供されるとの政府公約の幅広い普及
  • バリューチェーン全体にわたる労働条件改善、経営に係わる最優良事例の共有の場となるような、各地の水産加工業バリューチェーンの管理改善に向けた地域的な仕組みの樹立
  • 海外の仕入れ業者は取引先供給業者の国際基準実行支援に向けて、より直接的に関与し、もっと監視の目を光らせること
  • 移民の子どもを正規教育により良く溶け込ませるために、年齢にかかわらず第1学年から始めるよう求めるのではなく、年齢が近い教室へ編入させること
  • 親が子どもを学校に留める強いインセンティブとなり、就労年齢後の雇用機会が高められるよう、13~14歳の子どもを対象にした職業訓練プログラムを学校を基盤として設けること

 ILOタイ・カンボジア・ラオス国別事務所のマウリツィオ・ブッシ所長代行は「児童労働は21世紀において本当に許容できないもの」と強調した上で、脆弱な労働者とその家族が他に得られる手段がないこととあいまってこれが依然として現在の労働市場の統治のあり方における課題であり続けている事実を嘆きつつ、これを推進する要素のより良い理解、高度に複雑なサプライチェーンにおける労働基準違反の問題に取り組むための複数の利害関係者による協調を図った対応の重要性を説いています。

 アジア財団のキム・マッケイ駐タイ代表は、移民労働者はタイ国経済にとって極めて重要な産業部門における重要な労働力不足に対処していることを指摘した上で、移民の子どもの身体的安全、法律上の権利についての知識とその執行、労働法に基づく保護、法によって保障された教育を受ける資格を夢から現実にする必要性を強調しています。

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 以上はILOアジア太平洋総局によるバンコク発英文記者発表の抄訳です。