国際高齢者デー

ILO新刊:世界の高齢者の半数以上に行き届いていない良質の介護

記者発表 | 2015/09/28
背に乗せて日々の糧を運ぶコンゴ民主共和国の高齢女性 © Ollivier Girard / CIFOR

 10月1日の国際高齢者デーを前に発表されたILOの新刊書は、世界の65歳以上人口の半分以上に当たる3億人が緊急に必要な介護から排除されている現状を示しています。社会的保護局による作業文書『Long-term care protection for older persons: A review of coverage deficits in 46 countries(高齢者介護:46カ国の保護における不足の概観・英語)』は、世界の65歳以上人口の8割を対象とした調査研究結果をもとに世界全体で1,360万人に及ぶ介護労働者不足を原因として介護が必要な高齢者の社会的保護が極めて不十分な現状を明らかにしています。

 150万人の介護労働者が不足しているアフリカでは高齢者の9割以上が必要な介護サービスを受けておらず、絶対数では不足数が820万人と最も大きい地域であるアジア太平洋では高齢者の65%が介護サービスを利用できないでいます。法制度上、65歳以上の全員に介護サービスの利用が保障されている日本では、約9万人と見積もられる介護労働者不足によって高齢者の3.6%にサービスが届いていないと見られます。

2015年現在の国内法制をもとに示した、法によって介護が全国民に保障されている程度(人口全体に占める割合)
赤は100%保護されていない状態、ベージュは資産調査が用いられ、保護が非常に不足している状態、緑は100%保護されている状態、白はデータなしを意味する
出典:2015年ILO推計、2015年世界銀行(2013年人口データ)

 報告書の著者であるILOのクセニア・シャイル=アトルンク保健政策調整官は、介護労働の最大8割までが家族の女性によって無償で提供されているにもかかわらず、このように世界的な不足が生じていることを指摘した上で、さらに悪いことに、ほとんどの社会的保護制度で介護が対象になっていないことに注意を喚起しています。日本のように国民すべてに社会保障で介護が提供される国に住んでいる人は世界人口の5.6%に過ぎません。残りの48%以上が法による保護がない国で暮らし、46.3%が主に給付を最貧困層に限る狭い規則によって保護の対象から除外されており、この多くがサービス料金を都度払いすることを余儀なくされています。

 シャイル=アトルンク保健政策調整官は、この嘆かわしい状況は「世界平均で国内総生産(GDP)の1%に満たない非常に低い公的介護支出」に反映されていると指摘しています。アフリカでは大多数の国で公的介護支出が全く見られず、最も気前がよいとされる欧州でさえ平均支出はGDP比の2%以下に過ぎません。社会的保護局のイサベル・オルティス局長は、この高齢者のニーズの無視と女性の無償労働の搾取を「長年にわたる介護保護に対する過小投資の結果」とし、このギャップを縮小し、国民すべてに介護制度による保護を提供することによって、「高齢者と介護提供者の双方の尊厳と権利の尊重、数百万の雇用の創出につながるだろう」と期待を述べています。

 性差別と高齢者差別の表れであるこの介護ニーズの無視は、介護サービスを必要とする高齢者は同じような看護ニーズを抱えるより年若い人々と比べて体系的に不平等な処遇を受けていることや高齢者の権利についての無知、介護労働者の大幅な不足、公共財源不足に反映されています。今日の高齢者差別はまた、雇用創出や国民全体の福祉の向上の点での介護投資の利益に目を向けず、介護制度は負担できないとする広く見られる世論の形で表現されている不合理な懸念にもかいま見ることができます。年齢差別は他の差別形態同様、社会や経済に影響を与えるものであり、介護の受け手はこれを貧窮化や排除、時には介護環境における虐待や暴力といった形で経験しています。

 報告書はすべての国で介護を政策課題の最優先事項とし、1)国民すべてを対象とした介護保護の保障、2)社会保険制度や税を財源とし、受益者がその都度支払う利用料金を最小限に抑えること、3)必要とするすべての人に良質のサービスが得られ、雇用が創出されるよう介護労働力を増やすことを提案しています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。