事象解析:インフォーマル経済
ILOの新基準を用いてインフォーマル経済の罠から抜け出す方法
「法または実務上、公式の取り決めの対象となっていないか、公式の取り決めが十分に適用されていない労働者及び経済単位の行うあらゆる経済活動(不正な活動は含まない)」と定義されるインフォーマル(非公式)経済は巨大です。ここには世界の労働力の半数以上、中小企業の9割以上が属しています。アフリカでは多くの国で農業外就業人口の半分以上をインフォーマル経済の就業者が占め、例えばタンザニアでは76.2%、マリでは81.8%に達しています。ほとんどの国で男性よりも女性が多くを占め、若者や少数民族、移民、高齢者、障害者といったその他の脆弱な集団も不均衡に多く存在しています。インフォーマル性の罠に捕らえられた労働者や経済単位の労働条件はしばしば劣悪で、就労に係わる権利は認められず、質の低い雇用、不十分な社会的保護、劣悪な統治(ガバナンス)、低生産性などといった特徴が見られます。
インフォーマル経済からフォーマル経済への移行について語るILOの専門家フレデリック・ラペイエ(英語) |
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2015年の第104回ILO総会で6月12日に採択された新しい勧告は、インフォーマル性からフォーマル(公式)経済への移行を円滑化する方法について加盟国に初の手引きを示した点で歴史的に重要と言えます。この「インフォーマルからフォーマル経済への移行に関する勧告(第204号)」は、1)インフォーマル経済の労働者及び経済単位のフォーマル経済移行の円滑化、2)フォーマル経済における人間らしく働きがいのある仕事や企業の創出促進、3)フォーマルな仕事のインフォーマル化防止を目的に掲げ、世界各地の多数の好事例を参考にしてまとめられた、移行円滑化戦略を設計する際に考慮に入れるべき12の指導原則を示しています。
ILOが豊富に集めたこのような好事例は世界各地に散らばっています。例えば、ILO中南米・カリブ総局で始められたFORLAC計画は、豊かな分析作業と証拠をもとに、移行の円滑化に関する政策提案や指針を示しています。農業外就業人口の39.8%がインフォーマル経済に属すると見られるウルグアイでは、社会保障機関と徴税機関が協力して小規模納付者を対象に簡略化した統一徴収制度を設け、制度の対象者にフォーマル経済の労働者と同じ社会保障給付の受給資格を与えました。貧困対策について包括的な国家政策の枠組みが策定されたブラジルではフォーマル化が急速に進行中で、過去10年の雇用創出速度はフォーマル経済がインフォーマル経済の3倍に達しています。個人事業主や零細・小企業などといった、到達が難しい集団を対象とした革新的な公共政策も効を奏しています。
就業者の17.8%がインフォーマル経済に従事していると見られる南アフリカで最近の世界金融危機の際に実施された非常に効果的な雇用計画など、対象を定めた雇用集約的な投資もフォーマル経済への移行を円滑化し得ることが示されています。小規模金融機関を通じた革新的なフォーマル化促進手段も見られます。ILOはブルキナファソやインドの小規模金融機関と協力してそのフォーマル化影響力を試す事業を展開しています。好事例の一つに挙げられるILOがフィリピンで行っている活動では台風被災者に大いに必要とされている収入がもたらされただけでなく、フォーマル化とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)への道における重要な一歩となる最低賃金、社会的保護、安全衛生が保障されました。
インフォーマル経済からフォーマル経済に移行した場合にもたらされる一つの利点は社会的保護が適用されることですが、今では個人事業主や家事労働者、家内労働者などといった特定の労働者群を対象に社会的保護の適用改善・適用拡大を図る好事例が多数見られます。例えば、インフォーマル経済で活動する貧困女性の組織化及びエンパワーメントに向けた成功事例であるインドの自営女性協会(SEWA)は、労働組合、協同組合、女性運動の三つの性格を備え、訓練や協同組合設立支援から、金融、保険、社会保障まで幅広いサービスを提供しており、アジアに留まらず、南アフリカやトルコなどからも範とされています。
勧告を審議した総会委員会の事務局代表を務めたILO雇用政策局のアジタ・ベラル=アワ局長は、「重要なのは単なる新しい勧告の採択ではなく、実際にそれを実践すること」と説いています。さらに、インフォーマル性の一つの側面だけを扱うバラバラの取り組みでは通常限られた成果しか挙げられないことを指摘して、各国の成功体験が総合的な取り組みをもとにしていることを紹介しています。
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以上は2015年6月23日付ジュネーブ発英文事象解析の抄訳です。