論評:ディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ、持続可能な開発

雇用創出と気候保護は二者択一なのか

ポッシェンILO企業局長

 6月5日の世界環境デーを前に作成された論評記事でペーター・ポッシェンILO企業局長は、気候変動に取り組み、グリーン経済への公正な移行を確保する上で仕事の世界は中心的な役割を演じることができるとして、次のように論じています。

 仕事を創出し、すべての人に繁栄をもたらすことと気候及び環境の保護を世界が二者択一すべき事項と見る考え方が依然として広く見られますが、これは選択の問題でないことを示す調査研究結果や証拠がますます多く得られるようになってきています。企業と労働市場は問題などではなく、むしろ仕事の世界は解決策の源泉であり、企業や経済を持続可能なものにするために必要な生産・消費形態の奥深い変化を引き起こすために不可欠な要素なのです。

 実際、緊急に取り組むべき大きな課題である、誰も置き去りにしない包摂的な社会開発と環境の持続可能性は密接に関連しています。失業や働く貧困層、社会的排除の問題に鑑みると雇用創出は社会の至上命題であり、不平等の拡大と合わせ、これは社会の結束と安定性を脅かすますます大きな脅威となってきています。同時に、気候変動と天然資源の劣化はますます経済活動を妨げ、雇用を破壊しています。気候変動だけで7.2%の生産性損失が生じているとILOでは推計しています。労働市場の観点から言って、環境の持続可能性は選択肢ではなく、必要事項なのです。

 実際に気候保護・環境保全に向けた先行対策的な政策は、従来のやり方による成長よりもはるかに多くの雇用を生み出すことができます。ILOは世界全体及び30以上の国別評価をもとに、2030年までに最大で6,000万人分の職を新たに生み出すことが完全に可能と結論づけています。世界の労働者の3人に1人が従事する農業を中心に、働く貧困層を大きく減らすことも可能でしょう。費用負担可能なクリーン・エネルギーやエネルギー効率的な公共交通機関及び住宅が得られるようになることは、社会的排除を克服する強力な手段となります。

 経済のグリーン化は大きな社会的便益をもたらす可能性がある一方で、課題があることも否定できません。移行は経済構造を変化させ、多くの職の技能プロフィールや職務内容を変え、仕事を失う労働者も生み出すことでしょう。この損失は大きくないと予想されますが、既にグローバル化の流れに乗り遅れ、足下がふらついているコミュニティーに集中する傾向があります。この問題に取り組まないことには、緊急に求められている環境被害の軽減が政治的に妨害される結果を招きかねません。気候変動の影響は至る所で感じられているものの、社会の貧困層が受ける影響は不均衡に大きくなっています。同じことが電力料金引き上げなどの天然資源保護や二酸化炭素排出量削減に必要な幾つかの政策についても言えます。労働者やコミュニティーが気候変動への適応やグリーン経済への移行を行うのを助ける上で社会的保護の拡大が非常に効果的であることが証明されています。

 移行の課題に取り組み、その機会を捉える上で決定的に重要なのは気候その他の環境政策と社会・労働市場政策との統合です。様々な政策手段や経験が報告されていますが、傑出しているのは環境税制改革です。価格引き上げは排出量を削減するといったように、価格は重要ですが、それだけでは不十分で、環境に優しいグリーン・ジョブ、よりクリーンな生産様式に適応できる新たな技能を備えた労働者、新しいビジネスモデルやグリーンな製品・サービスの導入、基幹産業部門における大規模な事業計画なども必要でしょう。

 ILOの新刊書『Decent work, green jobs and the sustainable economy: Solutions for climate change and sustainable development(ディーセント・ワーク、グリーン・ジョブ、持続可能な経済:気候変動と持続可能な開発のための解決策・英語)』は、以上のすべての分野において仕事の世界がいかに革新(イノベーション)と解決策の源泉となってきたかを記しています。企業内労使協力を通じて経費を節減しつつ、排出量を3分の2以上減らした事例、社会的住宅建設や技能訓練計画を通じて仕事を創出し、再生可能エネルギーが得られる機会を大きく拡大した労働省や社会開発省の例、失業給付や現金給付の活用による天然資源の保護と持続可能な利用の確保などの事例が紹介されています。また、エネルギー効率を高め、排出量を削減することを目指して、これまでに1,200億ユーロ以上が投資されたドイツの大規模な建築物修繕計画は労働組合と使用者団体によって生み出されました。

 多様な経験や学んだ教訓から政策の枠組みが形成されつつあります。2013年の第102回ILO総会で行われた持続可能な開発、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)、グリーン・ジョブに関する一般討議の結論は、社会開発と労働市場に対するプラスの結果を伴いつつ、よりグリーンな低炭素経済へ向けた公正な移行を達成するために考案する必要がある手段、そのための諸原則、関連する政策分野を示しています。この公正移行のための枠組みが今年末に達成される予定の気候変動に関する新たな合意に反映されたならば、仕事の世界は持続可能な事業と経済を牽引する強力な要素となることでしょう。

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 以上は企業局のペーター・ポッシェン局長による英文論評の抄訳です。