バングラデシュ

バングラデシュにおける既製服産業の労働条件改善に向けて達成された進歩と成果

記者発表 | 2015/03/09

 わずか20、30年で急成長を遂げ、今では世界第2位の規模に成長したバングラデシュの既製服産業の2013/14年の輸出高は、同国の輸出総額の8割以上に及ぶ245億ドルに達しています。この産業の就業者数は約420万人で、その8割が女性です。

 2013年4月24日に首都ダッカ近郊で発生し、1,136人が犠牲になったラナプラザビル倒壊の悲劇は世界中に衝撃を与えました。既製服産業は従来通りのやり方を続けていくわけにはいかなくなり、労働者の命を守り、国外納入先の信頼を維持するため、安全、検査、法令遵守に係わる抜本的な変革が求められました。

 ILOはこの悲劇に迅速に対応しました。事故直後の5月初めにジュネーブの本部からハイレベル代表を現地に派遣し、即時及び中期的に取るべき行動について政府及び労使団体と合意しました。合意内容はラナプラザ事故の数カ月前の2012年11月に発生し、112人の犠牲者を出したタズリーン・ファッションズ社の工場火災に応えて策定されつつあった「火災に対する安全性と構造上の完全性に関する政労使国家行動計画」に組み込まれました。その後、ILOはカナダ、オランダ、英国の資金協力を得て、行動計画の実行を支援し、既製服部門の労働条件改善を目指す予算総額2,780万ドル、期間3年半の事業計画を開始しました。計画の主な要素である建物と対火災の安全性評価、労働監督制度改革、労働安全衛生、リハビリテーション及び技能訓練、ベターワーク(より良い仕事)計画のバングラデシュへの導入は既に実行が進んでいます。

安全性評価

 計画の一環として、ILOはバングラデシュ政府が進めている約1,800の既製服工場の構造、対火災、電気の安全性検査を支援しています。国際的なブランド企業や小売業者などが立ち上げた「火災と建物の安全性に関するバングラデシュ協定」及び「バングラデシュの労働者の安全のための同盟」といったイニシアチブも、自分たちの取引相手である1,687の工場の検査を行っています。国のイニシアチブの下、2014年にバングラデシュ工科大学(BUET)が471の工場の検査を実施し、2015年1月22日からは民間企業2社によって残りの工場の検査が開始されています。ILOは検査の調整を手助けし、研修の実施や物流管理などの技術的なサポートを提供しています。

労働監督制度の強化

 ラナプラザとタズリーンの悲劇によって、既製服産業の安全性と許容可能な労働条件を実効的に確保する能力がバングラデシュではあらゆるレベルで弱いことが明らかになり、労働監督機関を実効的に機能させるには、その完全な刷新が必要であることが明白になりました。政府は工場・事業所監督局の建て直しを約束し、2014年1月に監督業務を局に格上げし、ハイレベルのトップを据え、新たに392人の監督官の採用枠を設け、2013/14年度に90万ドルだった予算を2014/15年度には300万ドルに増額しました。2015年2月28日までに女性34人を含む178人の新人監督官が既に採用され、監督官の総数は270人になっています。

 新人だけでなく現職の監督官についても集中的な能力構築が図られ、ILOは労働省と合意した、改革プロセスを支援する基礎となる行程表に基づき、研修に加え、労働監督制度の統治(ガバナンス)及び説明責任の向上に向けた活動も含む包括的な事業計画を実施しています。監督局が効果的に機能できるよう、オートバイやオフィス機器、検査機器などの基本的な設備の提供も行っています。監督業務の透明性・公開性確保に向けて、監督局内部における説明責任担当部門の設置、監督報告書を入手できる公開データベースやウェブサイトの構築も計画されています。

 政府はまた、火災・市民防衛局の役割が決定的に重要であることを認め、その検査遂行能力及び災害対応力の強化に重点を置き、検査員として活動する消防職員の数を55人から265人に増員しました。ILOは米国労働省の支援を受けて包括的な訓練を提供することによってこのプロセスを支えています。局内に核となるマスター指導員チームが設けられ、国内全土の職員の能力構築が図られています。

 検査の終了は安全性向上に向けた重要な一歩ですが、より広範なプロセスの一部に過ぎず、問題是正活動の実施と実効的なモニタリングが確保されるよう、建物と労働者の安全をそれぞれ担当する上記規制機関の能力増進と協力体制改善に向けて相当の努力が払われています。

労働安全衛生の向上

 今の勢いの維持が今後の課題ですが、既製服産業にとっての大きな課題は労働安全衛生文化の形成とそれを実行できる能力の構築です。そこで、ILOの支援の下、職場の安全性向上に向けたこの産業の労働者、監督者、管理職の能力強化が図られています。ILOの事業計画の下で2014年末に開始された事業として、ILOはバングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)、バングラデシュ・ニット製品製造業・輸出業協会(BKMEA)、バングラデシュ使用者連盟(BEF)の3使用者団体及び民間企業から集められた100人のマスター指導員の養成を行っています。マスター指導員が計7,500人の監督者に研修を施し、監督者がさらに総計で最大75万人の労働者に研修を提供することが目標です。

 また、安全委員会への労働者の参加を促し、工場内労働安全衛生活動への女性労働者の参加を増やすために、13の労働者団体が加入する労働者教育調整全国会議(NCCWE)の下、労働組合の指導員及び女性組合指導者やオルグのグループ編成が進められています。九つの労働者団体が加入するインダストリオール・バングラデシュ支部でも同じような計画が進められています。

ベターワーク計画の発進

 労働基準の遵守と企業成績の向上を促進することによって労働条件改善及び競争力強化を目指すILOと国際金融公社(IFC)の協力事業であるベターワーク計画のバングラデシュへの導入に向けた活動も進められ、準備作業が終了しました。計画は2015年中に100工場、第1期の終わりまでに全体で300の工場に到達することを目指しています。

被害者対応

 ILOはドイツ国際協力公社(GIZ)及びアクション・エイド・バングラデシュと協力してラナプラザビル倒壊被害者のニーズ評価を行い、被害者のニーズに沿った再統合リハビリテーション・プログラムを策定し、そのようなサービスを提供できるパートナーの特定に成功しました。また、アクション・エイドやBRACといった非政府組織(NGO)と協力して負傷労働者300人のカウンセリング及び生計手段研修の受講を支援しています。

 さらに、業務災害給付に関するILOの第121号条約に沿った形で被害者及びその家族に金銭的支援及び医療支援を提供する包括的かつ独立した手続きを設けることを目的として、2013年9月に政府、国内外の衣料産業、労働組合、NGOが参集し、ラナプラザ調整委員会(RPCC)が設立されました。ILOはその中立的な議長として、調整的な役割に加え、補償制度の設計及び運営に関する専門知識の提供においても大きな役割を演じてきました。

 ILOはまた、寄付金を管理するために設立されたラナプラザ信託基金の被信託人も務めています。2014年末までにブランド企業や小売業者などから計2,100万ドルが払い込まれた信託基金に対しては、5,000人を超える負傷者と遺族から2,800件以上の補償請求が出されています。このほとんどについて補償額の裁定が終わり、得られる資金に応じた部分的な支払いが比例的に行われています。小売業者のプライマークからはラナプラザビル内にあったニュー・ウェイブ・ボトムス社工場の従業員630人近くに補償金が直接支払われています。

 ラナプラザの悲劇後、業務災害保険制度の必要性に光が当てられています。2015年1月24日には政府、使用者、組合、市民社会の代表者が出席する催しがダッカで開かれ、その運営に関する話し合いが行われました。ILOは次の段階として、実際のコストのより正確な把握などを目的として、より詳細な実行可能性調査を行うことを提案しました。

ILOの活動

 政労使国家行動計画の実行と調整における支援の提供を政府から正式に要請されたILOは、ラナプラザビル倒壊に対する対応行動の調整を率先して支援してきました。そして、政労使全国委員会と協定及び同盟という小売業者らのイニシアチブとの調整が確保されるよう活動しています。バングラデシュから商品が供給されている150以上の国際的なブランド企業や小売業者と二つの国際労働組合組織(インダストリオールとUNIグローバル)が参加する「火災と建物の安全性に関するバングラデシュ協定」の中立的な議長を務め、工場の検査と問題是正に関して同盟とも密接に協力しています。補償手続きを監督するラナプラザ調整委員会の中立的な議長を務め、寄付金を管理するラナプラザ信託基金の被信託人でもあります。また、政労使国家行動計画と欧州連合(EU)との盟約の下でなされた公約の進展状況を監視するために設けられた、バングラデシュの3省庁(労働、商務、外務)、5人の大使(米国、EU、オランダ、カナダ、そして輪番制でEU加盟国1カ国)から成る3+5+1グループの一画を構成してもいます。

 ILOは対話の強化と労働条件の改善に向けてバングラデシュの政府及び労使団体と協働しています。米国労働省とノルウェー政府の資金協力を受けて進められている二つのプロジェクトは、既製服部門のみならずエビ加工や皮革産業などの主要輸出産業の労働者を対象として、結社の自由と団体交渉に係わる現場の能力構築を図ることによって労使団体が直面している具体的な課題に取り組んでいます。既に様々な研修機会を通じて2,500人を超える労働者代表、労働組合オルグ、中間管理職、使用者団体会員の能力構築が図られています。衣料労働者の大部分が女性であることから、女性の労働組合指導者やオルグに労働者の重要な権利について訓練を行うことに特に力点が置かれています。女性指導者が既製服部門の労働条件改善に向けて個々の工場で労働者を教育し、組織化を図ることができるように実践的な知識や技能の提供も行われています。さらに、相互信頼と協力関係が育まれるよう手助けするために、政府及び労使団体、労使関係機構の代表に「関心事項を基盤とした交渉(IBN)技法」の研修も提供しています。労働省に紛争解決・調停の仕組みを設置しようとの現在進行中の計画は、反組合的差別や雇用終了といった問題に取り組む助けになると考えられます。また、一般の人々との対話を促進するために、10万人以上の労働者その他の利害関係者を対象に権利及び職場内協力に関する大規模な広報唱道キャンペーンも展開しています。

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 以上はILOバングラデシュ国別事務所によるダッカ発英文記者発表の抄訳です。