ILO新刊:雇用及び社会の見通し-動向編

ILO新刊:不平等の拡大が続く中、向こう5年間も失業者数は増加の見込み/民間サービス業とケア経済が雇用創出の主な動力源になると予想

記者発表 | 2015/01/22
失業率世界地図
国別失業率図表(英語)へのリンク

 日米の雇用情勢は改善しつつあるものの、欧州を中心に多くの先進国では難しい状態が続き、2014年の失業者数は世界全体で2億100万人に達したと推定されます。このたび発表されたILOの年次報告書『World employment and social outlook: Trends 2015(世界の雇用及び社会の見通し-動向編2015年版・英語)』は、世界経済が成長鈍化、不平等や混乱の拡大を伴った新たな時代に入る中、失業者数は今後も増加を続け、2019年までに2億1,200万人を超えると予想しています。

 好調な経済成長にもかかわらず、サハラ以南アフリカの雇用情勢はあまり改善しておらず、全就業者に占める個人事業主と寄与的家族従業者の割合で表される脆弱な就業者の4分の3が同地域と南アジアに集中しています。この点で最も前進が見込まれるのは東アジアであり、2007年に50.2%であった脆弱な就業者の割合が2019年には38.9%に低下する見込みです。現在見られる原油・ガス価格の急落が続けば、多くの先進国経済と複数のアジア諸国で雇用見通しが幾分改善する可能性が指摘されていますが、対照的に、中南米、アフリカ、アラブ地域を中心とした原油・天然ガスの主要生産国の労働市場は打撃を受けると見られます。

 危機の影響は若者(15~24歳)に特に激しく、世界全体で2014年に約13%と推定される若者の失業率は今後も上昇すると思われます。一方高齢者は2008年の世界金融危機開始以降も比較的影響を受けずに済んでいます。

 新興経済諸国及び低所得国を中心に、途上国では中流階級が増大し、今では全就業者の34%以上を占めるに至っています。ガイ・ライダーILO事務局長は、世界中で脆弱な就業者や働く貧困層が減少したことを歓迎しつつも、いまだに世界の労働者の約半数に基本的生活必需品やディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が得られない状態を「許容できない」としています。

 昨年までの『Global employment trends(世界の雇用情勢・英語)』の題名を改めて今後の見通しにより重点を置いた本報告書は、なかなか解消されない不平等の拡大と企業投資の不確実な見通しを、危機からの回復が困難な理由に挙げ、こういった動向が政府に対する信頼感を切り崩し、社会不安のリスクを高止まりさせていることを警告しています。世界の失業率と歩を合わせて2008年の危機突入以来上昇してきた社会不安レベルは今では危機前の約1.1倍の水準になってきています。

 報告書はまた、労働供給量の低下などの仕事の世界を形作る構造的な要因が世界経済の成長を抑えていることを示しています。この他の要因として、一部の介護労働者や警備員などといった低技能の決まり切ったものでない仕事と弁護士やソフトウェア・エンジニアなどの型にはまっていない、経験を必要とする高技能職の割合が世界的に増加し、事務職などの決まり切った中級技能職が減少しているといったように技能需要における大規模な変化も挙げています。ライダー事務局長は、現在見られる傾向を懸念すべきものとしつつも「基盤にある弱さ、とりわけ総需要不足の継続、ユーロ圏の景気低迷、特に小企業における生産投資の不確実な見通し、不平等の増大」といった要素に取り組めば、全体的な景況改善を達成できる可能性を指摘しています。

地域別失業率グラフ
地域別失業率グラフ(英語)へのリンク

◎地域別雇用情勢

 報告書は2015年の地域別雇用情勢を次のように見通しています。

  • 欧州:労働市場はますます経済・政治の混乱に影響を受ける見込み。回復は依然として不均質で脆弱。ユーロ圏の大国が景気減退を主導し、2013年後半から2014年初めに見られた穏やかな経済成長はほぼ消失。最近の金融市場の混乱は失業率を危機前の水準に戻すという作業を複雑化させる見通し。
  • 中南米:危機直後の景気上昇期を経て、成長のペースは大幅にダウンし、労働市場に影響。2002年以降初めて、2014、15年の経済成長は先進国経済を下回る見込み。天然資源の輸出依存度が高い国を中心に、地域全体で失業率は上昇基調に転換。インフォーマル就業発生削減の見通しは悪化。失業率の男女間格差は2000年代初めより大幅に縮小したものの、依然として男性(2013年5.3%)が女性(同7.7%)を大きく下回る。
  • 東アジア:中国の減速(経済成長率2013年7.7%→2014年7.4%)が地域の成長展望に影響を与え、人口動態的課題が悪化。成長の減速によって失業率は緩慢ながら着実に上昇(2010年4.2%→2014年4.7%)。若者の失業率上昇は特に顕著(2010年9.0%→2014年10.5%)。
  • 南・東南アジア:インフォーマル就業者、働く貧困層の多い南アジアでは雇用なき成長が継続(2010~14年に全体的な就業率は年1.8%のペースで成長)。東南アジアの成長は2013年初めから輸出成績がふるわないインドネシアの発展に妨げられており、この他の天然資源輸出大国でもディーセント・ワークの機会の増進がますます困難になる可能性あり。
  • 中東・北アフリカ:社会・政治の移行の困難が雇用展望に依然として重くのしかかり、2014年に約2.6%(2013年2.3%)と依然として勢いのない経済成長は2015年に3.8%に達すると予想されるものの、予測される経済成長では高い失業率を低下させるには不十分。石油輸入国の成長は国内消費が引き続き牽引し(平均経済成長率2014年約3%→2015年4%)、エジプトとレバノンの成長は2014年に平均を下回ると見られるのに対し、モロッコの成長は3.5%、チュニジアは2.8%に達する見込み。
  • サハラ以南アフリカ:基盤構造の弱さと制度的な課題にかかわらず、記録的に高い経済成長が持続。労働力率は世界で最も高く(2014年に世界平均は63.5%、サハラ以南アフリカは70.9%)、働く貧困層と脆弱な就業者の割合も世界一。失業率の世代間格差は世界で最も低く(若者が失業する確率は25歳超の年長者の1.9倍)、2014年に8%弱の失業率は2016年まで安定が続く見込み。西アフリカにおけるエボラウイルスの流行は最も影響の大きい国々に多大な犠牲を生んでおり、例えばリベリアの経済的損失は2014年の国内総生産(GDP)の推定3.4ポイント減に相当。

◎就業構造の変化

 報告書はまた、就業構造の変化を分析し、今後新たな雇用が最も多く創出されるのは対事業所・事務管理サービスや不動産業などの民間サービス部門であり、今後5年間で世界の全労働力の3分の1以上が関連産業を含むこれらの部門に就職するとの見通しを示しています。保健医療、教育、行政といった公務部門でも増加のペースは落ちるものの引き続き多くの雇用が創出され、なおも就業者全体の15%がこの部門で働くと思われます。対照的に、工業部門の就業者数は世界的に安定し、22%弱で推移すると予想されます。報告書はこの理由として建設部門における雇用創出のペースが、依然年平均2%以上と予測されるものの、2010~13年に比べて低下するためとしています。製造業の就業者数は今後5年間でほとんど変わらず、2019年時点で全就業者に占める割合は11%に低下すると見られます。

 報告書が予想するようなサービス部門増・製造業減といった就業構造の変化は労働市場で求められる技能が大きく変化することを意味し、報告書を作成したILO調査研究局のレイモン・トレス局長は、自動化が可能な定型業務を担う中級技能職の空洞化の見込みを示しています。こういった仕事に就いている人は、新たな技能を獲得しない限り、より低い技能レベルの仕事を求めて競い合う必要に直面するでしょう。また、保健医療や対個人サービスのような対面での交流が求められる仕事に対する需要が伸びており、大規模なケア経済誕生の兆しが見られます。

 このような動向は地域ごとのばらつきが大きく、中級技能職の消滅スピードは新興経済諸国や途上国よりも先進国で速くなっています。求められる技能水準におけるこの二極化は労働者の収入に直接影響を与え、所得不平等の拡大に寄与し続けると見られます。

 機械工や組立工などの製造業の定型業務職の減少は農村労働者から雇用状況改善の機会を奪い、正規の教育や訓練の機会が得られなかった人々は高技能職に手が届かないといったように就業構造の変化は消費レベルや貧困水準にも影響を与えます。トレス局長は、こういった動向は、「とりわけ女性が経済や社会の階段を上がることを妨げる障壁を打破すると同時に、企業や労働者が新たな科学技術に関連した機会を捉えることを助ける政策の役割」に光を当てると語っています。

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 以上はジュネーブ発の次の英文記者発表3点の抄訳です。

 関連広報素材として、報告書を中心となって準備したILO調査研究局仕事に優しいマクロ経済政策チームのエッケハルト・エルンスト・チーム長が報告書の要点を2分で説明する広報動画、スキルを失い労働市場から永遠に排除されてしまう危険性をはらむ長期失業の問題や中級技能レベルの仕事が消滅し、技能水準の二極化が予想される就業構造の変化などといった報告書の特記事項を執筆チームのメンバーが解説する広報動画、中級技能職の消滅が意味する所得不平等の拡大や一部の国で見られる早過ぎる脱工業化が貧困問題の解消に与える影響について警鐘を発する音声記事などが作成されています。