ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー:世界的な健康保護の危機によって世界人口の約4割に届いていない保健医療サービス

記者発表 | 2014/12/12

 国連は今年から12月12日を「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ・デー」として、誰もが必要な保健医療サービスが受けられる状態の実現を世界に呼びかけることとしています。この日を前にILOが発表した研究書は、世界人口の約4割が保健医療分野の社会的保護から排除されており、ブルキナファソ、カメルーン、インド、バングラデシュ、アゼルバイジャン、ハイチ、ホンジュラスなど世界約44カ国では人口の8割までが全く保護されておらず、健康を享受する権利を剥奪されていることを明らかにしています。

 ガイ・ライダーILO事務局長は、健康保護がすべての人に行き渡ることは、貧困との闘い、不公平の縮小、経済成長の育成において「鍵を握る」として、人間らしく働きがいのある仕事がすべての人に実現した持続可能な開発のためには「健康保護への投資」が必要と説いています。

 『Addressing the global health crisis: Universal health protection policies(世界的な保健危機に取り組むための万民健康保護政策・英語)』と題する新刊書は、保健医療の利用を阻む障害として、保健医療費の個人払いを理由とする高いレベルの貧窮化を挙げています。貧窮化を招く現金払いの程度は国の貧困人口の多さに比例するため、報告書著者チームの一員であるILO社会的保護局のクセニア・シャイル=アトルンク保健政策調整官は、保健医療費の現金払いによって最も苦しい思いをするのは「最もニーズが高い最貧困層」と指摘しています。

 世界的な保健危機を招いているもう一つの大きな要因は、保健医療労働者の不足に関連しています。現在の不足分を補い、すべての人に確実に保健医療が提供されるようにするには世界全体でさらに1,030万人の保健医療労働者が求められるとILOでは見ています。フィンランドのような高所得国では人口1万人当たりの保健医療労働者数は269人を数えますが、ハイチやニジェール、シエラレオネなどでは、この数は5人以下となります。報告書はさらに、健康保護が得られない人口比率は都市部では22%であるのに対し、農村部では56%となり、この差はアフリカやアジア、太平洋諸国で特に大きいことを示しています。農村部では保健医療労働者不足も深刻で、不足している保健医療労働者1,030万人中700万人がこの地域で必要とされています。イサベル・オルティスILO社会的保護局長は、「数十年来のこととして、公的保健医療制度には十分な資金が充てられず、中・低所得国では適切な発達が遂げられなかった」と指摘して、予防注射のような小規模の応急措置では不十分で、「すべての人を対象とする保健医療制度への投資が必要」と訴えています。

 2010年以降、個人世帯の金銭的負担の増加、保健医療サービスの切り下げ、保健医療労働者の賃下げまたは賃金の上限設定などといった財政強化政策は、すべての人を対象とする保健医療制度の整備に向けた歩みを停止させ、時には後退をさえ引き起こしています。報告書は現在の世界的な保健危機の克服にはすべての人の健康保護に向けた政策転換が必要とし、この目標を達成するための有用なツールとして、最低限の社会的保護を整備する道筋を示すILOの「社会的な保護の土台勧告(第202号)」に注意を喚起しています。

 近年、保健医療制度の対象拡大に踏み出したベナン、ガボン、中国、フィリピン、米国などの動きから示されるように、保健医療制度への投資は持続的な経済成長、そして国民の安寧と生産性の向上につながります。すべての人を対象とした健康保護制度を導入したタイで達成された経済的利益は投資額の1.2倍にも達しています。報告書は所得水準にかかわらず、どんな国でも国民すべての健康保護に向かうことができると説き、その前提条件として、健康を享受する権利の完全な実現、貧窮化を招く現金払いを最小限に抑えること、まともな賃金が支払われる十分な数の熟練した保健医療労働者の確保に向けた国の決意を挙げています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。