ILO新刊:社会的保護

社会対話を通じた社会的保護の土台の促進について話し合うハイレベル・ソウル会議の討議資料として社会的保護に関する世界の政策動向(2010~2015年)を記した新刊書を発表

記者発表 | 2014/11/20

 ILOは国際経済社会評議会同等機関連合(AICESIS)及び韓国経済社会開発委員会(ESDC)との共催で11月20~21日に韓国・ソウルにおいて「社会的保護の土台(最低限の社会的保護)」の拡大促進における経済社会評議会及び同等機関の役割について検討する国際会議を開催しています。開会式に出席したチョン・ホンウォン国務総理は、「欧州発の最新の金融危機の余波がまだ感じられ、世界中で見られる経済発展の低迷と不安定雇用の拡大は新たな緊張をもたらしている」と指摘して、そのような中で、「社会対話とコミュニケーションは私たちが今日直面しているこういった問題を解く助けになろう」と語りました。

 30カ国以上の経済社会評議会及び同等機関の代表に加え、国際・地域機関の専門家計90人以上が出席して開かれている会議では、経済社会評議会のような社会対話機関が全国的に社会的保護を増進させる方法について話し合いが行われます。既に複数の全国的社会対話機関が社会的保護の適用対象に対する同意、十分な給付のために必要な財政的余地についての交渉、実行監視などを通じて、財政強化を進めている国々で人々の福祉の保護や社会的保護の土台の構築に相当程度寄与しています。会議では、2012年の社会的な保護の土台勧告(第202号)の提案事項に加え、三者の間の協議(国際労働基準)条約(第144号)協議(産業的及び全国的規模)勧告(第113号)三者協議(国際労働機関活動)勧告(第152号)といった社会対話に関する文書の検討も行われます。

 会議の討議資料としてILOからは世界の状況分析を行った刊行物と社会的保護の土台の促進における社会対話の好事例に光を当てた背景資料の2冊の資料が提出されています。

◎ILO新刊『世界の社会的保護政策動向2010~2015年』

 会議に先立つ11月17日に発表された新しい政策文書『Social protection global policy trends 2010-2015 - From fiscal consolidation to expanding social protection: Key to crisis recovery, inclusive development and social justice(世界の社会的保護政策動向2010~2015年-財政強化から社会的保護の拡大に向けて:危機からの回復、包摂的な開発、社会正義の鍵・英語)』は、2015年以降大半の国で公共支出の削減が予想されているものの、逆に社会的保護措置の拡充に動いている国もあることを示しています。

 今年6月に発表された『World social protection report(世界社会的保護報告・英語)』2014/15年版を元に、2014年10月に出された国際通貨基金(IMF)の『世界経済見通し』の財政予測を用いて日本を含む世界181カ国について2010~15年の社会的保護政策を分析した同書は、公共支出の切り下げに向かう国は2015年でこのうち120カ国(内途上国が86カ国)、2016年では131カ国になると見られるものの、ほとんどの中所得国が社会的保護政策の大胆な拡充に走り、これは貧困及び不平等の削減に即時の効果があり、したがって国内需要に主導された成長戦略に寄与していることを明らかにしています。例えば、アルゼンチンや南アフリカなどは近年全国民を対象とした児童給付を導入し、ボリビア、ボツワナ、中国、東チモールなどでは年金が国民全体またはほぼ全体に普及し、この他にも多くの国が失業者や母子、高齢者に対する社会移転を導入し、主として非常に低い給付水準で対象範囲の狭い一時的な安全網を通じて社会的保護の拡大に乗り出した低所得国でもその多くでより包括的な社会的保護の土台の構築に向けた議論が進行中であるといったように、本書は「たとえ最貧国でも社会的保護の財政的な余地を拡大するための選択肢が得られる」ことを示しているとイサベル・オルティスILO社会的保護局長は語っています。

 財政強化措置が貧困と社会的排除の増大に寄与し、既に欧州連合(EU)総人口の24%に当たる1億2,300万人が影響を受けているといった欧州の状態が示しているように財政強化に向けた世界的な傾向は雇用危機と不平等の傾向を悪化させる可能性があると報告書は指摘しています。社会的保護に投資していない途上国では、危機開始以降に縮小した公共サービス、食費・燃料費の上昇、雇用機会の縮小・賃金低下と闘っている数百万の世帯に調整措置が悪影響を与えることが予想されます。

 2008~09年の危機第1期には50カ国ほどで景気刺激財政計画が開始され、景気拡大的対応策において社会的保護は強い役割を演じました。しかし、2010年以降の第2期になると、食料や燃料に対する補助金の撤廃または減額、賃金の引き下げまたは上限設定、社会的保護給付の対象範囲の縮小、年金・医療制度改革などの調整策が講じられ、消費税引き上げなどの歳入側の措置が検討されるなど、欧州その他多くの国の政府が脆弱な人口集団の支援が緊急に必要であるにもかかわらず財政強化と時期尚早な支出引き締めに乗り出しました。エリトリア、スリランカ、グアテマラなどといった開発上の大きな課題を抱える国も含み、全体の5分の1で危機前よりも公共支出を引き下げる過度の財政引き締めが見られます。

 オルティス局長は多くの国で世界危機に対する政策対応が閉ざされたドアの後ろで講じられ、しばしば民衆の当事者意識の欠如、市民暴動、社会や経済に対する悪影響につながったことを指摘して、包摂的な成長、社会的保護、社会正義の達成を目指す社会的責任ある回復を確保するために、政府、使用者、労働者、市民社会が一堂に会して全国的な対話を行う必要性を説いています。2012年のILO総会で採択された「社会的な保護の土台勧告(第202号)」は、社会保障を拡大する必要性に関する加盟国政労使の合意を反映しています。社会的な保護の土台の整備は主要20カ国・地域(G20)や国連の場でも支持されています。

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 以上は次の二つの英文記者発表の抄訳です。