ILO新刊:社会的保護

ILO新刊:世界の高齢者の約半分が無年金

記者発表 | 2014/09/30

 国際高齢者デーの10月1日に合わせてILOから発表された新刊書『Social protection for older persons: Key policy trends and statistics(高齢者の社会的保護:主要な政策の傾向と統計・英語)』は、世界全体で受給年齢にある高齢者の48%が年金を受給しておらず、残りの52%についても受給金額が十分でない場合が多いことを示しています。この結果、高齢者の大半が所得保障を欠き、引退できずにしばしば低収入の不安定な条件で働き続けています。

 世界178カ国の年金制度を点検した報告書は、一方で、中国、レソト、タイ、東チモール、チュニジアなど多くの中・低所得国で近年、税を財源とする社会的年金を中心に、拠出型、無拠出型の制度を組み合わせて年金加入率が急速に上昇していることも示しています。この結果、年金加入率が9割に達した国は45カ国を超え、国民皆年金が達成されたか達成に近い途上国も20カ国以上に達しています。報告書をまとめたILO社会的保護局のイザベル・オルティス局長はこの傾向を歓迎しつつも、加入率を増やすのと同じくらい重要なこととして「十分な年金給付を保障すること」を挙げ、貧困に陥らずに尊厳ある引退を行う高齢者の権利を世界的な問題としています。

 報告書はさらに、2010年以降各国で採用されている、保健医療・その他の社会的サービスのカット、引退年齢の引き上げや給付切り下げ、保険料率引き上げといった年金改革などの財政再建に向けた調整措置が高齢者に対する社会的保護の削減につながっていることを指摘しています。オルティス局長は、財政緊縮策の長期的な代償が姿を現すには時間がかかるとして、世帯所得水準の引き下げが国内消費の低下と景気回復速度の減速をもたらすことを指摘して、例えば、今後2050年までに年金受給額の低下が見込まれる国が欧州で少なくとも14カ国に上ることに対して警鐘を発しています。

 一方で、消費者支出の押し上げや、より包摂的な経済成長の促進などを通じて社会的保護が社会開発と経済発展の両方に与える好影響が認識されて社会的保護は開発課題の先頭に据えられるに至っており、ほぼ全国民の年金加入が達成された中国で賃金上昇が見られるといったように多くの中所得国が経済成長を推進する戦略の一環として社会的保護の拡大に乗り出しています。また、アルゼンチン、ボリビア、チリ、ハンガリー、カザフスタン、ポーランドなど、1980、90年代に年金制度の民営化に走った幾つかの国が、あまりのコスト高と年金加入率の低迷という問題に直面して、財政コストの削減、年金加入率の向上、高齢期の所得保障を目指して再度全面的または部分的に公的年金制度に転換する方向へ向かっています。オルティス局長は、「高齢期の社会的保護は国際労働基準を後ろ盾とした人権」であるとして、景気回復、包摂的な開発、社会正義にとって必須の「強靱な社会的保護の土台を備えた公的社会保障制度」を2015年以降の開発課題の一部とすべきことを唱えています。

 ILOは高齢者を含む社会のすべての構成員に十分な水準の社会的保護が拡大される政策を促進し、そのための支援を加盟国に提供しています。2012年のILO総会で採択され、主要20カ国・地域(G20)のリーダーや国連の支持も受けているILOの「社会的な保護の土台勧告(第202号)」は、一律保護、差別禁止、男女平等の諸原則に則り、社会的保護の適用を拡大することを加盟国に呼びかけています。

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 以上はジュネーブ発英文記者発表の抄訳です。

関連図表(『World social protection report』2014/15年版掲載データを世界地図上に表示)

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