ILO新刊:アジアの労働市場

決然と管理すれば、ASEAN経済共同体は雇用、賃金、生産性の点で大きな利益をもたらそうと説くILO新刊

記者発表 | 2014/08/20

 2015年末に予定される東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体の誕生は、ASEAN加盟10カ国の間で技能労働、サービス、投資、商品の流れをさらに自由化します。ILOはアジア開発銀行(ADB)と共にこの地域統合が労働市場に与える影響を分析した報告書を作成しました。

 8月20日にジャカルタで開かれた式典で浦元義照ILOアジア太平洋総局長とアルジュン・ゴスワミADB地域経済統合局長からレー・ルオン・ミンASEAN事務総長に提出された『ASEAN Community 2015: Managing integration for better jobs and shared prosperity(2015年に誕生するASEAN共同体:より良い仕事と繁栄の共有に向けた統合の管理・英語)[日本語概要]』と題する報告書は、効果的な管理に向けた決然とした行動が取られた場合、経済共同体の誕生は1,400万人分の雇用を新たに創出し、域内で暮らす6億人の人々の暮らしを改善する可能性があると記しています。

 報告書は、移行を十分に管理しなかった場合に利益が平等に分配されず、不平等が拡大し、脆弱な就業形態やインフォーマルな就業形態にある人々、働く貧困層などの現在ある労働市場の欠陥が悪化する可能性に注意を喚起して、誰も置き去りにしないような包摂的で公平な開発を支える政策及び制度の開発を求め、とりわけ社会的保護の質、適用範囲、持続可能性を緊急に改善する必要性を指摘しています。

 また、2025年までに高い技能を要請する仕事が2010年より41%増えて1,400万人分創出されると予測されますが、教育訓練の機会も質も不十分であるために、技能不足や技能のミスマッチが悪化する可能性もあります。ASEAN域内の労働力移動は現在、中・低技能労働者に偏っていますが、建設業、農業、家事労働などの部門を中心に、需要に対応した流れの拡大が予想されます。しかし、技能労働者の場合は地域統合に伴う自由な流れの影響が及ぶのは就業者全体の平均1%にも満たず、需要を満足することはできないだろうとして、報告書は、技能労働者を引き寄せ、引き留めるために企業は生産性に基づく競争を行い、賃金と生産性をより良く接合する仕組みを開発する必要があると唱えています。ゴスワミ局長はASEANの持続可能な開発のためには「労働生産性への投資」が決定的に重要と指摘しています。

 ASEANにとって重要な課題の一つに移民の保護と移住の管理がありますが、労働力移動から利益を得るには、◇国際条約の批准、実行、執行、◇社会保障の適用範囲と可搬性の拡大、◇移民労働者の権利の保護と促進に関するASEAN宣言の実行という三つの分野を優先させる必要があるでしょう。この他の行動優先分野としては、◇より決然とした構造変革の管理、◇各種部門別・国別政策の整合性の向上、◇地域協力の強化と既存の公約の実行、◇包摂的な繁栄と成長を支える方向に向けた労働市場に関する制度の強化、◇社会的保護の向上、◇小企業支援、◇より効果的な技能認定制度、◇教育と労働市場のより密接な接合などが提案されています。

 浦元総局長は、「ASEANの地域統合計画の成否は最終的には、域内の普通の働く人々にどれだけ利益をもたらすかで判断されよう」として、この機会を逃さずに、すべての人々が地域の目覚ましい発展の利益を確実に享受できるようにすることを政策策定に携わる人々に向けて呼びかけています。

◎ASEAN共同市場の一角としてのフィリピンで新たに創出されるであろう雇用は310万人分

 ILOフィリピン国別事務所も2014年10月8日にパサイ市で報告書本体及びそれに基づいて作成したフィリピンの国別概況を発表すると共にロサリンダ・バルドス労働・雇用大臣などの出席を得てハイレベル全国政策対話を開催しました。

 報告書によれば、市場統合はフィリピンに経済・雇用成長をもたらし、310万人分の仕事が新たに創出される可能性があります。しかし、女性はこの内で110万人程度に過ぎず、さらに創出される仕事の約38%が脆弱な就業形態のものと見られます。管理職や専門職などの高技能職については60%近く、事務職や店員などの中技能職は約25%、そして低技能職については60%を超える伸びが予想されます。そこで、教育及び専門・職業教育訓練の質とその労働市場の需要に沿った妥当性の向上を図ることが求められます。また、労働力移動のさらなる拡大が予想されるため、移民労働者の権利を保護し、社会保障の可搬性や適用対象を広げ、相互技能認証を拡大する地域レベルの集団行動が要請されます。ILOフィリピン国別事務所のローレンス・ジェフ・ジョンソン所長はこのような大幅な雇用増の展望は、労働条件の改善と脆弱性の低減に向けて調整を図った労働市場政策を要請すると説いています。

 報告書はフィリピンにとっての優先行動分野として、1)より良い仕事の創出、2)社会的保護計画の改善、3)技能向上、4)移民労働者の保護の改善、5)団体交渉の強化などを挙げています。

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 以上は次の三つの英文記者発表の抄訳です。