論評:ILO事務局長

不平等の縮小は経済成長を押し上げるだろうとダボスで説くILO事務局長

 1月22~25日にダボスで開かれた2014年の世界経済フォーラム年次総会に出席したガイ・ライダーILO事務局長は、24日に発表した論説で、予想より早い回復を見せている世界経済に対して失業者数や世帯所得の改善は膠着状態にあるとして、1月21日に発表したILOの年次刊行物『Global employment trends(世界の雇用情勢)』の2014年版が、ほとんどの国で穏やかな景気回復が労働市場の改善につながっていないことをはっきりと示していることを紹介しました。企業が生産能力や雇用創出に投資していない一因には、相変わらず弱い総需要や不確実性の存在がありますが、資産市場に流入する利潤や流動資産の増加は株式や住宅価格のバブルの危険性を高めるだけでなく、長期的な雇用展望も損ないます。途上国では依然としてインフォーマルな就業形態が広く見られ、仕事の質の改善速度は鈍化し、働く貧困層から抜け出す人の数は低下していると見られます。ほとんどの国で国民所得や生産性の伸びに占める勤労者の割合は低下し、このような不平等は人々の欲求不満を引き起こし、不安定性のリスクを高めています。

 こういった問題を指摘した上で、事務局長は、長期的には企業の拡大と雇用創出に必要なインセンティブを形成することになる商品及びサービスに対する需要を押し上げるには、多くの国で追求されている激しい財政強化から離れ、家計支出を低位に留めている高失業、賃金低迷、労働分配率の低下に取り組む必要があることを意味すると説いています。解決策の重要な一部として、適切な最低賃金の設定及び生産性と賃金のつながりを強化する政策の策定が挙げられますが、この方向に向かっているものとして、オバマ米国大統領の最低賃金引き上げ提案や新ドイツ政府が初めて全国的な最低賃金の創設に合意したことなどを例示できます。事務局長は、生産的な経済に焦点を当て、人々、技能、仕事に投資し、経済格差を縮小することに向けた決意を固くすることを提唱し、失敗したら、持続可能な成長に向けた望みは砕かれ、さらなる、そしてもしかするとより奥深い社会不安の種を蒔くことになろうと警告しています。

 ライダー事務局長は同日、ILOのブログ「Work in progress(進行中の仕事)」にも世界経済フォーラム年次総会の印象を述べた記事を投稿し、今年のダボスでは世界的な景気回復に上機嫌な人もいれば、不平等の拡大、失業率の上昇、若者の暗い未来に対する懸念を耳にすることも多いと報告し、世界全体で2億人を超える失業者にとっては、仕事を得ないことには危機が終わらないとし、ダボスの居間に居座る雇用問題というゴリラを無視することはできず、これを追い払うには取り組みが必要と説いています。

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 以上はガイ・ライダーILO事務局長による英文論評の抄訳です。