ガンビア国の若者の雇用創出と持続的平和構築*

ILOダカール事務所 齋藤 萌(さいとう もえ)

はじめに

長く専制政治が続いたガンビア**では、2017年に政権交代がなされたものの、選挙後の暴力を含む困難な政治移行期にある。前政権時代から既に低かった経済成長はさらに落ち込み、加えて最近ではエボラ危機の影響も受けた。2017年の失業率は29.8%に達し、とりわけ女性は38.6%、若者は43.9%と高い割合を示した。

こういった緊急のニーズに応えるため、ILOは日本政府の資金協力***をうけ「ガンビアにおける持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進プロジェクト」を2018年4月に開始した。これは移行期にあるガンビアの持続可能な平和を目指す手助けをするものとして、インフラ建設工事を通じて雇用機会を創出する。とくに雇用集約型投資という40年以上にわたって培われたILOの知見を活用することで、雇用機会最大化を図る。

この「ガンビアにおける持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進プロジェクト」は、ILOの旗艦プログラムの一つである「平和と強靱性のための仕事(JPR)計画 」の一部であり、若者の雇用を促進することによって「持続可能な開発のための2030アジェンダ 」の実施を支援するものとしてILOが主導して立ち上げられた「若者のための人間らしく働きがいのある仕事グローバル・イニシアチブ 」にも寄与することが期待される。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を構成する複数の持続可能な開発目標(SDGs)、とりわけディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)と経済成長に関する目標8、男女平等に関する目標5、産業、イノベーション、インフラ構造に関する目標9、不平等縮小に関する目標10、平和と正義と強靱な制度機構に関する目標16にも貢献することを目的としている。

女性と帰還民の参画

本プロジェクトは若者をターゲットとするなか、特に女性の参加の推進に重点をおいている。ガンビアを含め多くの国で建設業界は男性が従事するものという先入観が横行しているが、女性の参加を促進すると、女性も同様に仕事への関心を持ち、その生産性に男女差はないことがモーリタニアを含むILOの技術支援の経験で分かっている。ジェンダー格差が強い建設業で女性の参加を促すことで、仕事における男女の機会均等を強く進めることができる。そのため採用時には女性の参加を明確に促進し、女性のクオータを設けることで男女平等を図る。また仕事場にて男女別のトイレや更衣室を設けるなど女性特有のニーズにも配慮する。

更に本プロジェクトは帰還民の参画にも焦点をおいている。この1年余りにおいて、経済・政治的理由などからガンビアを離れたものの、リビア等から送還・帰国している若者の数が急増している。国際移住機関(IOM)は年間500人の帰還民支援を想定していたが、この1年以内ですでに3000人以上が帰還している(2018年4月現在)。帰還に至るまでに苦難を強いられた者も多く、精神的なサポートおよび社会復帰支援が急務である。

帰還民は特定の技術や経験をもっていないことも多いが、雇用集約型の建設工事では技術者(エンジニアやプロジェクト管理など)に対しても、未経験の者に対しても雇用機会を創出することができる。また短期間の技術研修を雇用期間に組み込むことで、技術能力の向上を目指す。また中小企業支援および起業に関する研修を実施することで、中長期的な雇用創出に貢献すること目指している。

雇用とインフラ

本プロジェクトで建設するインフラは、雇用集約型で建設できる小規模のインフラで、経済活動に直接貢献するものとする。特に経済および雇用創出の根幹となっている農業、漁業、観光業に資するインフラを建設することで、長期的な雇用創出と経済発展に資するものとする。インフラ投資はその継続的な整備の必要性、インフラにより向上するバリュー・チェーン向上、インフラ周辺ビジネス発展などによって、間接的にも多くの雇用を創出する。建設技術では日本のNGO道普請人(CORE)の協力を得て、革新的かつその地域にあった労働集約型建設技術を取り入れる。また関連省庁、雇用者、労働組合、ユース・グループ等様々なステークホルダーと協議することで総括的なアプローチを試みる。

ディーセント・ワークと持続的平和

プロジェクト実施にあたって重要になってくることは、雇用機会の数だけでなくその質も考慮することである。国連開発計画(UNDP)・ILO・世界銀行・国連平和構築支援事務所(PBSO)による調査(2016)において、雇用創出はそれ自体で平和と社会安定に貢献するわけではなく、雇用が人生における多くの機会を与え、平等性を実感する場を提供し、社会との接点を広げることができた場合、雇用が平和に直接作用するということが分かってきた。そのため本プロジェクトではディーセント・ワークを促進し、職場での機会均等、労働条件および安全衛生を向上することを目指す。インフォーマル経済が全体の60%以上を占めているといわれるガンビアでは、労働者と使用者の間に契約書を結んでいないことも多く、労働者が自らの権利を知らないことも多い。そのため本プロジェクトでは適切な労働条件を浸透させること、労働安全衛生に関する研修を実施し、関連するマニュアルや教材の改善に貢献することを目指す。またプロジェクトにて実施する建設工事において労働安全衛生の点検を関連する省庁とともに実施し、安全を確保するとともに国の能力強化に資するものとする。

加えてプロジェクトにて建設インフラを選定する際には、社会・政治的背景を十分に考慮することで、意図しない争いを避け、持続的平和構築に貢献する。事前調査にはConflict Sensitive Approachを取り入れる。Conflict Sensitive Approachとはステークホルダーの関係性や、プロジェクトの活動との関連性や影響を分析することで、プロジェクトの効果を高めることを目的とする。これは「Do No Harm」という開発援助が意図しない負の影響を与えることを避けるという試みにそうものであり、特に政治移行期であるガンビアでは慎重な対応が求められている。

「ONE UN」の試み

ガンビアを含め移行期にあたる国には国際機関やドナー国の関心が集まりやすい。それは広範囲の支援が可能となる好意的な効果が望める反面、援助側で意思統一や調整ができていない場合は援助者間の競争が発生し、中・長期的戦略の欠如、援助依存の増長など負の側面をうむ可能性があることは忘れてはならない。ILOは本プロジェクト形成及び実施準備にあたり、国内関係者だけでなく様々なインターナショナル・アクターと面談をし、総括的なアプローチを試みた。特にIOMとは帰還民支援の総合的サポートを目指すために密接な連携・情報共有を続けている。また起業家支援や道路建設、農業・漁業支援など本プロジェクトと密接な関係が望まれる支援プロジェクトの実施機関とも協力し、総合的なアプローチを目指す。ILOはその特色を生かし労働環境や労働安全衛生、労働集約型アプローチ、地元のリソース活用などを、プロジェクトの枠にとらわれず促進していくことを試みている。

南南協力

プロジェクトを通して培われる経験と知識は、特定の国にとどまることなく南南協力をとおして地域全体に広げていくことを目指す。ILOは雇用集約型インフラ建設事業をアフリカで多数展開している。特にモーリタニアではオン・ザ・ジョブ・トレーニングの形態を導入することで実践的でかつ技術向上を主とした建設事業を実施した。この実例を十分に生かし、ガンビアの現状に適した形で応用していくことを考えている。またガンビアでの経験・知識もマニュアルやマルティメディア作成を通じて形に残すことで、ガンビアおよび周辺地域の発展に貢献するよう試みる。

おわりに

「仕事」は生活のための経済活動であるだけでなく、社会と個人を繋ぐ窓口ともなり、個人の尊厳を高めるものでもある。仕事をとおして不平不満や不平等が発生することもあれば、転じて平等と社会安定、持続的な平和構築に貢献することもできる。

そもそも私が仕事と平和の相互関係に強い関心を持ち始めたのは、学生の頃に南アフリカで難民支援のインターンシップを経験した時だった。難民の方々といっても職務経験や学歴も当然多様である。以前は自らビジネスを立ち上げ、多国間の貿易を営んでいたという方もいたが、難民という「レッテル」を貼られた時点で、それまでの経験も知識も活用できなくなった、それが自尊心を傷つけて辛い、と話してくれたことがあった。それでも仕事がしたい。その言葉が、私自身、当時決して上向きでなかった景気と東日本大震災の影響で採用抑制傾向のなか就職活動をしていた時に心に響いた。

仕事がしたい、その思いが時々の状況によっては武装勢力や違法行為にかかわるグループの人材確保に悪用されることもあれば、状況が違えば社会・個人の発展と平和構築の源ともなる。雇用創出はその雇用がディーセント・ワークであることで意味をなす。そのことを常に意識して促進していくことがILOが存在する大きな意義であると考え、今後もプロジェクト形成・実施を行っていきたい。

ILOダカール事務所 齋藤 萌(さいとう もえ)

公立大学法人国際教養大学を卒業したのち、国際協力に係るコンサルティング会社でフィリピンやモンゴルにおけるインフラ・ファイナンス調査、中小企業支援、バリュー・チェーン開発・職業訓練などのJICAプロジェクトに貢献する。その後ジュネーブ国際開発学研究院(Graduate institute of international and development studies)にて労働と平和に関する研究を行う。安全保障研究チームのリサーチアシスタント、ILO本部の脆弱国家と災害対応グループ(Fragile States and Disaster Response Group)/ 雇用集約型投資プログラム(Employment-intensive Investment Programme)などを経て、2017年4月よりILOダカール事務所にてJPOとして勤務を開始。2018年4月よりプロジェクト・オフィサーとして「ガンビアにおける持続的な平和構築のための若者の雇用機会促進プロジェクト」に従事。

*本文は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する国際労働機関(ILO)やILOダカール事務所の見解を示すものではない。

**西アフリカに位置し、面積は岐阜県とほぼ同じ。人口約204万人(2016年世銀)。
22年間に及ぶ専制政治の後、2017年の大統領選挙によりに政権交代がなされた。しかしジャメ元大統領が選挙結果を拒否したことで混乱を招き、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が軍事介入するに至った。これにより経済が更に悪化し、他国に逃れようとする難民・移民が増加するなかで、違法入国、人身取引、テロ組織への勧誘の温床となっている。

***日本政府が主催するTICAD(アフリカ開発会議)では質の高いインフラ整備が目標の一つに掲げられている。日本の土のう技術等を用いた雇用集約型インフラ整備で若年雇用を創出する本プロジェクトはこの方針に沿うものである。