差別と平等 Q&A

雇用及び職業における差別:差別の概要と理由
多様性のある職場の利点
差別撤廃と平等を保障する企業方針の策定職場におけるセクハラ報酬における差別
Q1:「雇用及び職業における差別」とは何ですか。
A1:「雇用及び職業における差別」とは、人種、皮膚の色、宗教、性別、政治的意見、国民的出身、社会的出身その他、遂行すべき業務と何ら関係のない属性を理由に、特定個人を事実上、労働市場又は職場において従属的又は不利な立場に置く慣行を指します。

差別的な慣行には直接的なものも、間接的なものもあります。直接的な差別は、1つ又は複数の理由に基づき明示的な区別、優先又は排除が行われる場合に生じます。例えば「男性限定」という求人広告は、直接的な差別に当たります。

間接的な差別とは、中立的に見えながらも事実上、一定の集団に属する者にマイナスの影響を及ぼす状況、措置又は慣行を指します。この種の差別は、その隠れた性質ゆえに、対処がさらに難しくなっています。

機会と待遇を均等にすれば、すべての個人がその希求と嗜好に応じた能力と技能を全面的に伸ばせるとともに、雇用への平等なアクセスと平等な労働条件を享受できるようになります。

雇用及び職業における差別からの全面的な自由を達成するためには、差別的な慣行を単に排除するだけでは不十分です。募集採用、定着、昇進及び解雇に関する慣行、報酬、職業訓練へのアクセス、技能開発を含め、雇用関係の全段階において、職場での機会及び待遇の均等を促進することも必要です。

Q2:雇用における差別の理由として、禁じられているものは何ですか。
A2:様々な国際労働基準により特定、禁止されている差別の理由としては[1]、以下が挙げられます。

人種や皮膚の色に基づく差別は、客観的な根拠のない社会的、経済的要因に多く根差しています。その中には、特定の民族集団又は先住民・種族民に対する差別が絡むものが多くあります

性別による差別には、男性と女性を区別する生物学的な特徴・機能とともに、男女の社会的な差異を理由に行われる差別が含まれます。身体的な区別としては、業務の遂行に影響しない最低身長又は最低体重の要件など、所定の職務遂行にとって本質的でない要件の指定が挙げられます。社会的な差別としては、既婚・未婚の別、家族状況及び妊娠の有無が挙げられます[2]。特に女性は、間接的な差別の場合、性別に基づく差別を受けることが多くなっています。

宗教による差別には、宗教的信条の表現又は宗教団体への所属を理由に行われる差別が含まれます。また、特定の宗教的信条を共有しない人々や、無神論者が差別を受けることもあります。宗教的信条に基づく差別を認めるべきではありませんが、職場において、労働者が特定宗教を実践する自由を制限することになる要件を課すことに、正当な理由がある場合もあります。例えば、法律又は慣習によって定められた休息日以外の日に、働くことを禁じている宗教もあります。安全装置と相容れない特定種類の衣服の着用を要求する宗教もあります。また、宗教によっては、食生活の制限や勤務時間中の日課が定められ、事業所がこれに全面的に対応できないこともあります。職務によっては、宗教的信条又は慣行と相容れない宣誓が要求されることもあります。このような場合、自らの信仰又は信条を全面的に実践する労働者の権利は、当該業務上の必要性又は業務上の要件に固有の実質的な条件を満たす必要性と比較考量して考える必要があります。

政治的意見に基づく差別には、政党への加入、政治的、社会政治的若しくは道徳的態度の表明、又は、市民活動への参加に基づく差別が含まれます。労働者は、その政治的見解を表明する活動を理由とする差別から保護されるべきですが、この保護は政治的な動機に起因する暴力行為を対象としません。

国民的出身による差別には、本人の出生地、家系又は外国出身であることに基づく差別が含まれます。具体的な例としては、国民的又は言語的少数者、帰化により市民権を取得した自国民、外国からの移民の子孫が含まれます。

社会的出身による差別には、社会階級、社会職業的階層及びカーストに基づくものが含まれます。社会的出身は、一定の集団に属する人々に、様々な類型の職業に就くことを拒んだり、一定種類の活動に仕事を制限したりする理由として用いられることがあります。社会的出身に基づく差別の被害者は、階級間の移動も、社会階層間の移動もできなくなってしまいます。例えば、世界の一部地域では、一定の「カースト」が劣等とみなされることにより、最も単純な作業にしか従事できなくなっています。

年齢も差別の理由として禁じられています。高齢の労働者は、その能力や学習意欲に対する偏見、その経験を軽視する傾向、及び、賃金が低いことが多い若年労働者の雇用を求める市場圧力ゆえに、雇用上、職業上の困難に直面することが多くなっています[3]。

25歳未満の若年労働者も、差別を受けることがあります。若年労働者の不当な待遇は、給付や研修機会、昇進の可能性が少ない臨時雇用での大量採用、低生産性に基づく賃金格差を正当化することが難しい単純業務に対する低い初任給の支給、さらには試用期間の長期化と柔軟な契約形態への依存度の大幅な増大を含め、多くの形態を取る可能性があります[4]。

HIV/エイズによる差別:HIV感染者やエイズ患者はしばしば、職場と地域社会で差別を受けています。HIVに感染しているか、その可能性があるかもしれないという理由で、労働者の差別やレッテル貼りを行ってはなりません。求職者にも従業員にも、HIV/エイズの検査を要求すべきではありません。HIV感染は、解雇の正当な理由とはなりません。HIV関連の疾患を抱える者にも、医学的に問題がない限り、適切な条件で働くことを認めるべきです[5]。

障害:全世界で、現役世代に属する約4億7,000万人が障害を抱えています。就職に成功し、社会に全面的に統合されている方も多くいますが、障害者は全体として、不当な貧困と失業に直面することが多くなっています。この関連で、差別撤廃には、障害を持つ労働者が職場で特殊なニーズを抱えている場合、可能な限り、これに積極的に対応する措置を講じることが含まれています[6]。

性的指向:男女の労働者とも、同性愛者や両性愛者又はトランスジェンダーであることが知られるか、噂される場合、差別を受けかねません。また、使用者や上司その他の労働者から、言葉による、心理社会的な、さらには身体的な脅しや暴力を受けることもあります[7]。

家庭における責任を負う労働者:先進工業国でも、開発途上国でも、経済移行国でも、労働時間に関する近年の傾向から、家庭における責任を負う労働者への圧力が強まっています。「家庭における責任」には、育児のほか、被扶養者の介護も含まれます [8]。

「家庭」の構成員は幅広く定義されることもあるため、該当する労働者又はその代表者と協議のうえで定義することもできるでしょう。家庭における責任を負う労働者はしばしば、採用や配置、訓練へのアクセス、昇進で差別を受けています。企業は、家庭における責任を負う労働者に対する差別を避けるべきです。企業は、業務上のニーズに配慮しつつ、過度に長い労働時間、家族を世話する予定を立てにくくする予見不可能な超過勤務、及び、伝統的な休息日の出勤を避けるよう奨励されています。

労働組合への加入又は組合活動:すべての労働者には、労働組合を結成し、これに加入するとともに、労働組合の活動に組合員又は指導者として参加する権利があり[9]、この権利を合法的に行使したという理由で、差別を受けるべきではありません。

その他の理由:より一般的に、労働における差別には「雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となるあらゆる差別、除外又は優先」が含まれます[10]。

労働者はその業務遂行能力のみを基準に選考されるべきです。企業は、その採用その他の雇用慣行に、本人の能力にも、業務に固有の要件にも関係のない特徴を理由に、一部の求職者又は労働者が他よりも不利に扱われることになりかねない潜在的な差別理由が含まれていないかどうか、改めて検討するよう奨励されています。


[1] 1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)第1条(a)
[2] 詳細は、2000年の母性保護条約(第183号)及び母性保護勧告(第191号)、1981年の家族的責任を有する労働者条約(第156号)及び家族的責任を有する労働者勧告(第165号)を参照
[3] 1980年の高齢労働者勧告(第162号)
[4] 「Equality at work: tackling the challenges. Global report under the follow-up to the ILO Declaration on Fundamental Principles and Rights at Work」ILO、ジュネーブ(2007年)38頁参照
[5]「ILO HIV/エイズと働く世界に関する行動規範
[6] 1983年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約(第159号)並びに1983年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)勧告(第168号)、国連障害者の権利に関する条約
[7] 「Equality at work: Tackling the challenges」42~43頁
[8] 「Equality at work: Tackling the challenges」77頁
[9] 1948年の結社の自由及び団結権保護条約(第87号)第2条、1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)第1条
[10] 1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)第1条(b)

Q3:差別に当たらない区別はありますか。
A3:技能や努力に基づく区別は正当です。

教育年数や労働時間の違いを反映した報酬の格差も容認されます。

歴史的な差別の形態を是正することにより、雇用における機会と待遇の均等を広げることを目的とした政府の政策を企業が遵守しても、差別には当たりません。

健康や母性に関連するものを含め、国内法で定める特別の保護措置又は扶助措置も、差別には当たらない重要な規定です。

待遇均等の原則を守るためには、特別の措置のほか、例えば障害者に関し、差異への対応が必要になることもあります。

Q4:ある企業は、身体的な強さを要求する業務について求人を行おうとしています。この業務は改変不可能なため、同社は高齢者も、身長の低い人々も、女性も、障害者も求人の対象としたくありません。この募集採用はどの程度、差別に関するILO条約に違反すると考えられますか。従業員の健康と安全を危険に晒さずに、企業が差別関連のILO原則を守るためには、どうしたらよいのでしょうか。
A4:固有の要件に基づく特定の業務についての差別、除外又は優先は、差別待遇とみなされません[1]。しかし、この例外は制限的に解釈すべきです。

ILO条約勧告適用専門家委員会は次のように説明しています。「特定の業務について資格が要求される場合、何が差別に当たり、何がそうでないかを区別するのは容易でないことがある。業務に関する真正な要件と、一定類型の労働者を排除するための一定基準の使用との間に、一線を画すことは難しいことが多い[2]」

いかなる区別も、客観的に決定すべきであり、特定の集団の能力に対する見方ではなく、個別の能力を考慮に入れるべきです。技術の進歩ににより、女性を含む身長の低い人々でも、完全にこなせる業務が多くなりました。パワーステアリングで、女性もトラックを運転できるようになったほか、自動化プラットフォームやフォークリフトなどにより、身長が低い男女を雇用することも可能になりました。

よって、多くの場合には、業務の要件よりも、根強く残る偏見が問題となっています。また、体格や性別に関係なく、すべての労働者に安全規定は必要です。この点は例えば、労働者の性別や体格に基づく区別を行わない新たな「農業安全衛生実務規定”Code on Safety and Health in Agriculture”」にも反映されています。

[1] 1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)第1条第2項
[2] 「雇用及び職業における平等に関する総合調査」ILO、ジュネーブ(1996年)第118項

Q5:募集採用目的での企業によるポリグラフ検査の実施は、国際労働基準や国際人権基準に違反するとみなされますか。

A5:「ILO実施規範:労働者の個人データの保護(英語)」は「ポリグラフ、うそ発見器及びその他同種の検査手段は使用されるべきでない」と定めています[1]。

[1 ] 「ILO実施規範:労働者の個人データの保護」

Q6:企業がその事業地域において先住民を優先的に採用することは差別に当たりますか。

A6:労働における差別には「雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となるあらゆる差別、除外又は優先」が含まれます[1]。ある者が、その能力にも、業務に固有の要件にも関係のない特徴を理由に、他よりも不利な待遇を受けることは、差別に当たります。

企業はその業務全体を通じ、差別撤廃の原則を守るべきです。企業は資格、技能及び経験をすべてのレベルにおける労働者の採用、配置、訓練及び昇進の基礎とするとともに[2]、サプライヤーもこれに倣うよう奨励、支援すべきです。

雇用における機会と待遇の均等を拡張しようとする政府の政策を企業が遵守することは、差別に当たりません。

1989年の原住民・種族民条約(第169号)は、政府に対し、先住民が、国内法令でその他の国民に認められている権利や機会を平等に享受できるようにするとともに、先住民と他の国民との間に存在しうる社会経済的格差を解消するための支援を行うよう奨励しています(第2条第2項)。

[1] 1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)第1条(b)
[2] 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言第30項

Q7:職場において差別はどのようなところで起こり得ますか。
A7:差別は採用段階、就労段階及び離職段階で起こり得ます。企業レベルでは以下のような領域で起こり得ます。
  • 採用
  • 報酬
  • 福利厚生
  • 労働時間及び休息
  • 有給休暇
  • 母性保護
  • 在職期間の保障
  • 業務の割当
  • 業績評価及び昇進
  • 研修の機会
  • 昇格の見込み
  • 労働安全衛生
  • 雇用の終了[1]
差別は意図的であるとは限らず、企業の経営者や労働者は、差別的な慣行を見つけようとして初めて、その現状に驚くことが多くあります。
差別には直接的なものと間接的なものがあります。間接的な差別とは、中立的に見えながらも事実上、一定の特徴を有する人々を不平等に扱う慣行を指します [2]。例えば、勤務時間外の研修を遅い時間に行えば、出席を望みながらも家庭における責任があるために出席できない労働者が排除されかねません。研修を受けていない労働者は、その後の業務の割当や昇進の見通しで不利な立場に置かれる可能性が高くなります。

[1] 1958年の差別待遇(雇用及び職業)勧告(第111号)
[2] ILO「ABC of Women worker’s rights and gender equality(第2版)」ジュネーブ(2007年)

多様性のある職場の利点

Q8:多様性(ダイバーシティ)のある職場の利点は何ですか。
A8:競争が激化する環境の中で、多くの企業は効率を高め、利用できる資源をすべて活用するための新たな方法を見出す必要があります。

生産のグローバル化が進む時代において、企業は多様な背景を抱える従業員を有することが多くなっており、このような従業員はしばしば、互いに異なる国から集まってきています。機会均等の社風を備えた企業は、多様な作業チームの管理もしやすくなります。

市場のグローバル化は、性別、人種、民族、宗教、国籍、年齢、障害の有無、HIV/エイズ感染の有無などの点で、背景を異にする労働者を雇用する企業が、顧客の多様な期待やニーズを予測するうえで有利となることを意味します。

労働者の構成が変わることで、組織は従業員に関する長年の信条や方針を見直し、改正することも迫られています。

差別を撤廃する慣行はますます、効率と生産性を高めるために重要な経営手段として認識されるようになっています。

最も大切なことは、労働者の公正な待遇は、あらゆる企業が尊重すべき人権だということです。

企業の方針やプログラムでは、従業員の異なる背景を認識、評価し、最も優秀な労働者の誘引と定着を図るとともに、機会均等をその人事管理の中心に据えるべきです。

Q9:職場における平等と業績の間に正の相関関係があることは実証されていますか。

A9:職場での平等と業績との間に正の相関関係があることは、広く認められています。差別を撤廃する雇用環境が生産性と業績に及ぼす具体的な効果が明らかになっており[1]、以下の命題が裏づけられています。
  • 機会均等を保障する慣行は、生産性を向上させます。
  • 機会均等を保障する慣行は、被差別集団が従業員の大きな割合を占める企業におけるほど、生産性に大きな好影響を及ぼします。
  • 以下の理由から、機会均等の方針が積極的であるほど、生産性に大きな好影響をもたらします。
  • 労働配分の効率が向上し、人的資源の質と士気が高まることで、組織効率が改善します。
  • より客観的かつ体系的な選考基準を用いれば、個人と業務との適合性が改善します。
  • 被差別集団出身の従業員は、1) 昇格の見込みがある、2) 公平感が高まる、3) 創造性を発揮することで報酬の高い配属先や機会が得られる、4) 離職率が低い(特に被差別集団において)、5) ストレスの少ない作業環境で健康や士気、尊厳が改善する、という理由から、やる気がさらに高まります。
機会均等を保障する慣行の促進が従業員の参加によってなされれば、生産性に対する影響はさらに大きくなるという証拠もあります。

[1]「Corporate Success through People」 Rogovsky and Sims(2002年)を参照

差別撤廃と平等を保障する企業方針の策定

Q10:人事施策をはじめとする職場における方針の中に、差別撤廃の原則をどう組み入れればよいのでしょうか。
A10:企業は、以下の施策を通じ、雇用における差別をなくすよう奨励されています。
  • 経営トップが強力なコミットメントを行う。最高経営責任者が平等な雇用の問題に対する責任を自覚し、多様性を尊重するという約束を果たせば、他の経営者や管理職、従業員にとって強いシグナルとなる。
  • 自己評価質問表などを用い、企業内で差別が生じていないかを判定するための評価を行う。
  • 差別撤廃と機会均等に関する明確な手続を定めた企業方針を策定し、それを対内的、対外的に発信する。
  • 採用・選考担当者及び管理職、経営者をはじめ、組織のあらゆるレベルで、差別への認識を高め、対策を講じるための研修を実施する。
  • 既成観念を打破するための継続的な意識啓発キャンペーンを支援する。
  • 目的を達成するための測定可能な目標や具体的な時間枠を設ける。
  • どのような改善が達成されたのかを正確に把握できるよう、進捗状況を監視し、定量化する。
  • 特定の労働者集団の待遇や昇進に悪影響が及ばないよう、必要に応じ、作業組織や業務配分を変更する。その中には、労働者が仕事と家族の世話をバランスできるようにするための措置も含まれる。
  • 参加者を最大限に増やすための日程調整を含め、能力開発のための機会均等を確保する。
  • 苦情に対処し、訴えを取り上げるとともに、差別が確認された場合、是正のための手段を従業員に与える。
  • 機会均等の風土を確立するための地域社会における取り組み(成人教育プログラム、保健・保育サービスの支援など)を奨励する。
Q11:職場における差別撤廃に関し、労働者はどのような役割を果たしますか。
A11:労働者はその代表を通じ、差別対策において経営者の力強い協力者となることができます。企業は、労働者の自由な意思により選出された代表が参画する労使組織を設置し、優先的に取り組む分野や戦略を定めるとともに、職場における偏見に対処することを検討すべきです。労働における差別への取り組みに労働者の代表を参画させれば、労働者が目標達成に向けて邁進するようになります。

Q12:国内の差別禁止法は、差別撤廃に関する国際労働基準とどのような関係にありますか。
A12:上述の指針は国際労働基準に基づいています。差別撤廃と平等を保障する方針を策定する際には、差別撤廃に関する国内法を参照することをお勧めします。差別禁止法・慣行に係る国内法令及び労働協約については、国内の労使団体が適切な情報源となるかもしれません。

職場におけるセクハラ

Q13:性的嫌がらせ(セクハラ)は差別とどのように関係しますか。
A13:性別に基づく差別には、セクハラも含まれます。雇用におけるセクハラには、以下のいずれかに該当する迷惑行為が関係します。
  • 雇用条件の1つ又は雇用の前提条件として当然とみなされている。
  • 業務の割当、昇進の機会等に影響する決定に影響を与える。
  • 職務遂行能力に影響を与える。
セクハラに当たりうる行為としては、以下が挙げられます。
  • 容姿、体格、年齢、家族状況等に関する侮辱、不適切な発言、冗談、嫌み又はコメント
  • 尊厳を傷つける性的暗示を伴う威圧的又は家父長的な態度
  • 明示、暗示の別や脅迫の有無を問わず、相手が望まない招待又は要請
  • いやらしい目つきなど、性的欲望を連想させる動作
  • 触る、撫でる、つねる、襲うといった不要な身体的接触
セクハラは、容認の余地がないという姿勢で取り組む必要がある、特に悪質な差別形態です。

報酬における差別

Q14:男女間の賃金格差の話をよく聞きます。同一価値労働同一賃金とはどのような意味ですか。使用者はこの格差を是正するため、どのような措置を講じることができますか。
A14:雇用や職業に関する差別撤廃の原則には、同一価値労働を行っている男性と女性の報酬を同一にするという原則が含まれます[1]。

同一価値労働同一賃金の原則とは、報酬の金額や類型は従業員の性別によってではなく、遂行された業務の客観的評価に基づくべきだという原則を指します。

同一報酬は、女性と男性の労働者の基本的な権利です。

にもかかわらず、男女間の賃金格差は根強く残っています。全世界平均で、女性の時給は男性の約75%にすぎません。この男女間賃金格差には、いくつかの理由があります。女性の労働者は、賃金が高い部門や、高い賃金を支払う傾向にある大手企業で少なくなっています。社内を見ても、賃金の高い業務に就く女性は少なく、女性労働者が圧倒的に多い業務はしばしば、低レベルの業務に分類されているため、賃金も低くなっています。また、労働組合がある企業でも、女性従業員の数は相対的に少なくなっています。女性はパートタイム労働や出来高制労働、派遣労働など、賃金が低い「柔軟」な仕事に集中しており、超過勤務時間数も男性より少なくなっています。雇用における昇進面での差別も、重要な要因です。

平等の原則は、支払いが直接的か間接的か、金銭か現物支給かを問わず、給与や基本給その他の基本報酬及び給付を含め、報酬の全要素に当てはまります。

この原則は、いくつかの具体的措置により履行できます[2]。
  • 職階制と給与体系は、該当する労働者の性別に関係なく、客観的な基準(学歴、技能及び必要な経験)に基づくものとすべきです。
  • すべての報酬基準はもとより、労働協約、賃金・賞与体系、給与表、給付制度、医療保障その他の付加給付においても、特定の性に対する言及は抹消すべきです。
  • 特定の性に属する従業員を具体的な職階及び給与水準に分類する効果を有する報酬制度又は報酬構造がある場合、これを見直し、調整することで、労働者が異なる職階と給与水準で同一価値の作業を行うことがないようにすべきです。
  • 報酬が不平等となっている状況が確認された場合には、常に是正措置を講じるべきです。
  • 管理職と経営者をはじめとするスタッフに対し、作業を行っている人間ではなく、その作業自体の価値に基づき従業員に賃金を支払う必要性を認識させるため、特別の研修プログラムを実施することもできます。 経営者、労働者代表、及び、特定の職場における現行の不平等な職階制又は賃金構造によって悪影響を受けている女性労働者の間で、報酬の平等に特化した交渉を行うべきです。
  • パートタイム従業員と時間給従業員は、あらゆる種類の報酬につき、常勤の従業員と平等の基準で、勤務時間数に比例する金額の支払いを受けるべきです。
  • 作業の価値は、作業の構成要素、責任、技能、努力、作業条件及び主な成果のみに基づき判断すべきです。
[1]1951年の同一報酬条約(第100号)
[2]詳細な指針は、「Promoting equity. Gender-neutral job evaluation for equal pay: a step by-step guide」ILO、ジュネーブ(2008年)を参照

Q15:業務に固有の要件の定義について、説明していただけますか。
A15:固有の要件に基づく特定の業務についての差別、除外又は優先は、差別待遇とみなされません 。しかし、この例外は制限的に解釈すべきです。ILO条約勧告適用専門家委員会は次のように説明しています。「特定の業務について資格が要求される場合、何が差別に当たり、何がそうでないかを区別するのは容易でないことがある。業務に関する真正な要件と、一定類型の労働者を排除するための一定基準の使用との間に、一線を画すことは難しいことが多い」(「雇用及び職業における平等に関する総合調査」ILO、ジュネーブ(1996年)第118項)

いかなる区別も、客観的に決定すべきであり、特定の集団の能力に対する見方ではなく、個別の能力を考慮に入れるべきです。技術の進歩で、女性でも完全にこなせる業務が多くなりました。パワーステアリングで、女性もトラックを運転できるようになったほか、自動化プラットフォームやフォークリフトなどにより、身長が低い男女をともに雇用することも可能になりました。

よって、多くの場合には、業務の要件よりも、根強く残る偏見が問題となっています。また、体格や性別に関係なく、すべての労働者に安全規定は必要です。この点は例えば、新たな「農業安全衛生実務規定”Code on Safety and Health in Agriculture”」が、労働者の性別や体格に基づく区別を行っていないことにも反映されています。

Q16:求職の際、候補となっている従業員について調査を行うことは差別行為に当たりますか。つまり、ある求職者を採用しようとする企業が、同人が求職時に提供した情報の信ぴょう性を確かめるために調査を行うことは、差別行為に当たりますか。

A16:2つの質問は分けて考える必要があります。第1の質問は、本人、つまりこの場合、求職者に関する質問と解釈できるのに対し、第2の質問は、求職者が申込書で提供した情報の検証と解釈できるからです。

これについては、どのような情報が要求され、検証されるのかによって異なってきます。職業上の肩書や学歴、企業又は機関での実務経験、年齢、又は、求職者が実際、その組織で働いていたかどうかに関する以前の使用者への問い合わせ、その期間と業務内容(いずれも求職者の履歴書に記載されているもの)については、検証することができますが、個人的な事項(政党や労組への加入状況など)を検証してはなりません。

第1の質問に関し、求職者を調査する際に何が認められ、何が認められないかは、国内法が定めることになっています。この種の調査を禁止している国もあれば、一定の条件を付したうえで認めている国もあるため、求職者に関する調査を開始する前に、国内法の規定を十分に調べなければなりません。

また、選考・採用プロセスにおける機会均等と、様々な職業への平等なアクセスには、何が関係してくるのかを念頭に置いておくことも、極めて重要です。つまり、すべての求職者を平等に取り扱わねばならないため、ある求職者について適用した基準は、同じ形ですべての求職者に適用しなければならないということです。2003年事務局長報告「今こそ職場に平等を:仕事における基本的原則及び権利に関するILO宣言とそのフォローアップに基づくグローバルレポート“Time for equality at work. Global report under the follow-up to the ILO Declaration on Fundamental Principles and Rights at Work. Report of the Director-General, 2003”」をご覧ください。

Q17:トランスジェンダーの求職者に対する差別は、労働基準に合致しますか。

A17:国際労働基準は実際のところ、トランスジェンダー労働者の問題を具体的に取り扱っていません。しかし、この問題について経営者と話し合う際には、差別撤廃に関する一般規定が利用できるかもしれません。

労働における差別には「雇用又は職業における機会又は待遇の均等を破り又は害する結果となる差別、除外又は優先」が含まれます(1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)第1条(1))。本人の能力にも、当該業務に固有の要件にも関係のない特徴により、ある者が他者よりも不利な待遇を受ければ、差別に当たります。性同一性は通常、本人の能力にも、業務に固有の要件にも関係ありません。企業は資格、技能及び経験をすべてのレベルにおける従業員の採用、配置、訓練及び昇進の基礎とするとともに、サプライヤーに対しても、これに倣うよう奨励、支援すべきです。