法政大学人間環境学部教授・西城戸誠氏に聞く
「仕事の未来」インタビューシリーズ 第4回

再生可能エネルギーと地域再生、そしてグリーン・ジョブ
―ILOは「仕事の未来」を考える上で、成長と開発、雇用の創出と環境の持続可能性を同時に追求することを非常に重視しています。温室効果ガス削減の国際枠組みである「パリ協定」を批准した日本は、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを26%削減するという中期目標を掲げています。化石エネルギーではなく、環境への負荷が少ない太陽光、風力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーの導入はこれからますます重要になってくると思われます。西城戸 再生可能エネルギーはすでに世界のスタンダードと言っていいと思います。原発と比べて比較的安価で安全で地域分散型の再生可能エネルギーの割合を増やしていくことは、温室効果ガス削減のために不可欠です。現在は再生可能エネルギー技術も格段に進歩し、日本政府もやる気さえあればもっと目標値はあげられると思います。再生可能エネルギーは放射性廃棄物を出しませんし、分散型エネルギーなのでリスクも分散できます。都市と地方の格差が問題となっていますが、中央主導ではないエネルギー開発事業は、地元主体の持続可能な地域経済を築くことにつながると思います。太陽光パネルは再利用も進んでいて、少ない資本でも運用が可能だと思います。発展途上国でもこういったパネルを活用できるのではないでしょうか。
―地域で再生可能エネルギー事業を成功させるためには何が必要でしょうか。
西城戸 太陽光パネルはかなり普及し技術も進歩しました。山形県や福島県などの雪国で太陽光発電に向かないのではないかと思われていた地方でも、再生可能エネルギー事業を行っている企業がいくつもあります。また、農家が個人で自分の田んぼや畑の上にソーラーパネルを取り付けて収入を得ている例(ソーラーシェアリング)も見られます。さらに、東日本大震災と福島第一原発事故後、エネルギー大消費地の東京にも地域主体のエネルギー会社ができました。再生可能エネルギーを地元で生産し維持管理するソーシャル・ビジネス(社会的課題や地域課題の解決を目標に展開する事業)を成功させるためには、実際に事業を運営する主体者が、行政に頼りっきりではなく、資金調達や法規制などの面でしっかりとした専門家の協力を得た上で、その地域に根ざし最後まで責任をもって事業に取り組む覚悟を持つことがとても大事だと思います。大手ディベロッパーによるプロジェクトの場合、採算が取れなくなると簡単に撤退するケースが多く、問題だと思います。
西城戸 制度的なサポートも重要です。地方自治体が条例で再生可能エネルギーをつくることを宣言したケースもあります(飯田市の地域環境権)。八丈島では地熱発電事業者を選定する条件に、地域と協力し地域に貢献することを取り入れました。繰り返しになりますが、地元、金融機関、行政、法規制という4つの視点からしっかり考えて事業を進めていくことが必要です。
―ILOは毎年「世界の雇用及び社会の見通し」という報告書を刊行していますが、2018年版は「グリーン化と仕事」に焦点を当て、世界の動向を発表する予定です。再生可能エネルギーに関連する事業ではグリーン・ジョブの創出が期待できますね。
西城戸 太陽光パネルの取り付けや保守の仕事だけでなく、再生エネルギー事業を通して地域とつながりを持った生協が地元の食材を活用して商品を開発した例もあります。私はグリーン・ジョブの定義についてはあまり詳しくないのですが、環境への負荷を低減させつつ事業性がある仕事という側面だけではなく、グリーン・ジョブを巡った派生的な効果も重要な要素だと思います。例えば、自動車整備の技術を用いて風力発電のメンテナンスを行っている青森県の会社もあります。岐阜県では、地域の先人が作った農業用水路を利用した小水力発電事業が軌道に乗ることによって、小水力発電の見学者が増加し、地域外からの若い移住者が増えたケースもあります。地域の中で再生可能エネルギー事業を進めていく際に、注意したいことは、再生可能エネルギー事業の導入が地域社会の中で当初はうまくいっても、事業を継続していく次世代の育成が行われない場合です。これは地方再生事業に共通の課題かもしれません。最近はIターンで地方に移住する若い世代が増えていますが、外部から移住してきた若手を受け入れ、彼らがその地域で活躍していけるような工夫が必要です。地元有力者の強いリーダーシップも必要ですが、後進を育てていくことも大切で、世代間の交流が地域再生の鍵になると思います。
西城戸 地方の過疎対策を調べて感じるのは、すぐに効果の出る特効薬はないということです。近年成果が出てきた事業の多くは西日本にあるのですが、これは1970年代に中国・四国地方で過疎化が問題となり対策を行ってきた成果がいま出てきているということだと思います。いずれにしてもIターンを積極的に受け入れているところが地域再生に成功しているような気がします。
―地方の問題は途上国の問題に通じるところがあるような気がします。ILOはマイクロファイナンスや協同組合を通した開発援助も行っていて、1920年から協同組合の育成に携わっています。この分野で国際基準(ILO第193号勧告:2002 年の協同組合の促進勧告)を策定している唯一の国連機関です。
西城戸 学生たちが就職先に協同組合を考えることは少ないかもしれませんね。私が所属する学部では、来年から、学生が協同組合でインターンシップをする制度を始めます。配送作業など実際に働くと大変なことが多いかもしれませんが、生産者と消費者を直につないで事業を展開できる協同組合はいろんな可能性を秘めていると思います。
グリーン・ジョブと人材育成
―市民風車事業を立ち上げたがメンテナンス技能をもつ人材育成が後手にまわり、事業の存続が危ぶまれるケースもあるそうです。地域の人材育成はどうすれば持続可能になるでしょうか。西城戸 特に風力発電事業の場合、メンテナンス事業は相対的に利益を生むため、大手企業が関わった地元発の風力発電事業であったにしても、大手企業が地元企業にメンテナンスのノウハウを渡すことはあまりないでしょう。理想は地方大学に技能講座や寄付講座を開設し、地元の人材を育成し、育てた人材が地元のメンテナンス業者に就職する、という流れが確立できると良いですね。ハワイのカウアイ島にドイツの企業がバイオマス発電設備を建設しました。設備を動かす一番むずかしいところはドイツ本社の専門家が行っていますが、それ以外はすべて地元の人にやってもらいたい、ということで地元の教育機関で人材育成をやっているそうです。教育機関との連携が大切だと思います。
西城戸 地方経済の活性化のためには、自分ひとりだけ儲けようとするのではなく、みんなでシェアするという姿勢も必要なのではないかと思います。技術も共有するのです。もちろんまずは自分で技術を身につけなければなりません。太陽光パネルを取り付けるためには、細かいノウハウや技術が必要なのですが、まずは努力して技術を身につける、そしてそのノウハウをシェアする、という姿勢が持続可能性をもたらすのではないでしょうか。実際にメンテナンスの技術を公開している山形の企業の例もあります。今はインターネットがあるので、ノウハウを簡単に共有できると思います。