技術会議

グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの達成技術会合

 2016年のILO総会におけるグローバル・サプライチェーン(世界的供給網)におけるディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する一般討議では、グローバル・サプライチェーンは経済成長と開発に対して重要な貢献を行い、雇用創出に好影響を与えているものの、この複雑かつ多様で分散した構造のあらゆる段階における失敗がディーセント・ワークの欠如に寄与していると指摘する結論が採択されました。討議ではまた、規制遵守を効果的に監視・執行する能力や資源・資金が限られている政府の存在や、グローバル・サプライチェーンの国境を越えた拡大が統治体制の不備を悪化させていることも指摘されました。

 総会の討議をフォローアップするものとして理事会は三つの会議を開くことを決定しました。2017年11月に開かれた「輸出加工区のディーセント・ワーク促進及び就労に係わる基本的な権利・原則の保護に関する専門家会議」は、経済発展・社会開発に対する輸出加工区の貢献、輸出加工区とグローバル・サプライチェーンの関連性、会社の調達戦略が輸出加工区の労働者の権利に相当の影響を与える可能性に留意した上で、全ての企業は労働者の権利を尊重し、自身の影響力を用いて自社のサプライチェーンでも労働者の権利が尊重され、権利を侵害された労働者が頼れる救済措置が存在するよう確保する措置を講じる責任があることを認めています。そして、多国間機関が焦点を当てるべき中心的事項として国内外の行動主体間のより良い調整を挙げ、国際労働基準が果たし得る役割として、多国間機関の政策整合を育む手助けに留意しました。

 2019年2月に開かれた国境横断的社会対話専門家会合は、サプライチェーンの行動主体による国境横断的社会対話がILOの「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」、経済協力開発機構(OECD)の「多国籍企業行動指針」の効果的な実施に寄与することに留意し、労働行政の一定の質を条件として、国境横断的企業協約がサプライチェーンの労働条件を改善する潜在力を秘めていることを認め、とりわけ国境横断的社会対話について、それがデュー・ディリジェンス(相当なる注意)の手続きにいかに貢献し得るかを含み、好事例集を作成すること、労使双方からの要請に応じた国際枠組み協約の交渉・フォローアップの支援及び円滑化、国内及び国境横断的な実効性ある社会対話の促進におけるILOの重要な役割を改めて強調しました。

 三つ目となる今回の会合では、労使代表各8人と希望する政府代表全員が参加して、1)グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの不足につながる失敗の評価、2)グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの達成を阻む統治機構が抱える顕著な課題の特定、3)グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの促進やディーセント・ワーク不足の縮小円滑化に必要な手引き、事業計画、措置、イニシアチブ、基準の検討を目指します。

 準備された討議資料は4章構成で、「グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの機会と課題」と題する第1章でグローバル・サプライチェーンを通じた世界的な貿易の流れの多様性と進化を概説した後、グローバル・サプライチェーンの様々な構造とディーセント・ワーク不足と関連付けられる環境を検討しています。第2章では、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの前進に向けて政府、企業、社会的パートナーである労使が取ってきた行動を検証します。「労働統治のための包括的枠組み」と題する第3章で、グローバル・サプライチェーンを包含する労働統治のための枠組みを評価した後、結論となる第4章で、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの促進やディーセント・ワーク不足の縮小円滑化に必要な手引き、事業計画、措置、イニシアチブ、基準を検討しています。

 近年のグローバル・サプライチェーンの進化はディーセント・ワークに好影響と悪影響の両方をもたらしています。好影響としては、雇用創出、女性の参加後押し、賃金上昇、科学技術の普及、国家間不平等の縮小を、悪影響としては、業務の国外移転による国内雇用の消失、劣悪な労働条件や労働者の権利の欠如、男女不平等の永続化、立地場所が外国の投資家や輸出競争力によって決定されることによる対賃金圧力、技能の偏り、国内不平等の拡大を挙げることができます。グローバル・サプライチェーン内のどこに位置するかによって労働条件は大きく異なり、一般に途上国ではサプライチェーンの上部では労働者は正式に雇われており、就労に関わる権利も享受できているのに対し、サプライチェーンの下部や下請けでは極端な場合には児童労働や強制労働に至るようなディーセント・ワークの欠如が懸念されます。

 政府の活動は主として労働法規を通じて展開されていますが、国連やOECDなど、グローバル・サプライチェーンの活動に対する手引きを示す多国間機関が増えてきています。2019年9月現在、地域貿易協定の3分の1に労働関連規定が含まれています。政府は公共調達を通じて影響を行使しようとする場合もあります。

 統治機能に制約がある国で事業を展開する多国籍企業では、社会的監査や認証イニシアチブなどの自主的な法令等遵守イニシアチブを採用する場合が多くなっています。

 団体交渉は基本的な権利ですが、国境を横断する団体交渉がグローバル・サプライチェーンの課題を直接取り上げるようなことはまれです。一方で、既に100以上の多国籍企業が国際産業別労働組合組織(GUF)と国際枠組み協約を締結しています。国際産業別労働組合組織と200以上の衣料関係企業の法的拘束力を伴う協約である「バングラデシュの火災と建物の安全性に関する協定」のような複数の利害関係者が関与するイニシアチブや労働者主導型で複数の当事者が関係する交渉、労使委員会のような職場内協力の仕組みも存在します。報告書はこのような労使のイニシアチブや国連など多国間機関が提供する手引き・指針を幅広く紹介しています。


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グローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの達成技術会合